第29話 ドラゴンと戦うための問題点



コガネは九属性使えるといっていた。

使えるのは『火』『水』『土』『木』『金』『風』『雷』『光』『闇』の九属性らしい。

普通の魔法使いは二属性くらいらしい。一属性というのも珍しくない。

そういう意味ではコガネは人工的に作られたが、かなり強力な魔法使いだと言える。


「……コガネ。あなたは基本的にご主人様を守ることだけ考えなさい。

 敵を倒すのにあなたの力が必要な時は、私かマリアが声を掛けます。

 あなたの力は強力過ぎる。制御ができない今の状態なら、使う場合を制限してください」


トモエのこの発言から分かるように、コガネの魔法の力はしばらく制限されることになった。

やはり強力過ぎて、危険過ぎるのが問題だ。

属性を選んで魔法の練習を毎日させているが、まだまだ制御については甘いと言わざるを得ない。

ただドラゴン討伐のための、魔法使いの確保は出来た。

後はドラゴンと戦うだけか?


「……トモエ」


俺たちがゴーレムカーでエルフドワーフ連合国に向かっているときに、マリアがトモエに話しかけた。


「ドラゴンと戦い戦士として認めてもらうということですが、正直にどう思っていますか?」


「……どういう意味?」


トモエのマリアを見る目が鋭くなった。


「どういう経緯でドラゴンと戦ったかは知りませんが、今のトモエを見てドラゴンと戦えるとは思えません」


トモエはクリムゾンベアとの戦いで、攻撃が通じていなかった。トモエはマリアの威圧で動けなくなっていた。

トモエが俺よりも強いことは間違いない。いわゆるキング種を相手にしても戦えるだろう。しかしドラゴン相手にできるような実力者かと聞かれると、首を傾けざるを得ないだろう。


「正直に言います。トモエはドラゴンと戦えるような実力がありません」


マリアはそういって、トモエを睨みつけた。

トモエも真っすぐにマリアのことを見ている。

しばらく睨み合っていたが、先に目を逸らしたのはトモエの方だった。


「……私は妖精の力を持っているため、ドラゴンと戦おうとしたパーティに入れてもらえた。

 そのパーティは妖精や精霊について詳しくなかった。私もその時は妖精が怯える魔物がいるなんて知らなかった。

 ……そしてドラゴンを見て、初めて知った。

 あれは私が戦うような相手ではない……」


あれ?……おかしいな。なら何故トモエはドラゴンと戦おうとしているんだ?


「何故ドラゴンと戦う必要があるのですか?

 ハッキリ言えば、あなたにはその力が無い。自殺行為のようなものです。

 なのになぜ戦いを望む?」


マリアは追及の手を止めるつもりがないようだ。俺たちもドラゴンと戦うということは、命懸けの行為だ。

そんなことをする以上、その意味を知る権利がある。

魔法使いを仲間にするなどの準備については、こちらにも利があることのため口を挟まなかった。

しかしドラゴンと戦うことは違うということか。


「……私はパーティの盾を預かり、ドラゴンの攻撃を防ぐ役目でした。

 しかし私は守り切れずに仲間を死なせました。私自身も傷を負いました。

 命は助かりましたが、奴隷となり王国に送られました。

 ……だから私は復讐がしたい。私の人生を狂わせたドラゴンに対して、復讐がしたい。

 それが私がドラゴンに挑む理由の一つです」


一つ?他にもあるのか?

マリアが何か言おうとするのを、俺が手で制した。

トモエが言葉を続けるのを待つ。

しばらくしてトモエは真っすぐにマリアを見る。


「……もう一つが私の生まれに関するものです。

 私は『水』と『風』の妖精から生まれたドワーフです。

 通常ドワーフは『火』か『土』の妖精から生まれます。そのため力が借りられるのは、『火』か『土』の妖精です。

 『水』と『風』はエルフが持つ属性です。

 私にはドワーフが持つ『火』か『土』の力はありません。

 だから私は戦士としてドワーフとして認めてほしかった。

 そのためにドラゴンと戦う必要があった。

 私はそれが理由で、帝国で冒険者になった」


つまりドワーフとして珍しい組み合わせのため、自分がドワーフとして認められていないと感じているということか。

それを解消するためにドラゴンと戦いを挑み、ドラゴンに対しての復讐を誓ったというわけだ。


「……マリア。お前はどう思う?

 ドラゴンと戦うことについて、賛成か?」


俺はマリアを見る。

マリアは少し考え込んでいた。


「……いいでしょう。ドラゴンと戦いましょう。

 ドラゴンの魔石を見れば、私にも得るものがあるはずです。

 それにドラゴンの死体から魔物を作れれば、恐ろしい力を持つ魔物を生み出すこともできるかもしれません。

 ドラゴンと戦うことは賛成します」


マリアはトモエを見る。


「条件としてあなた自身が強くなることです。

 今のままでは、トモエは足手まといです。強くなってもらう必要があります」


マリアの意見は何も間違っているとは思えない。

トモエは実力不足だ。それは事実であり、大きな問題になる。

俺も弱いが、俺は元々戦力ではない。回復と魔力補充が俺の役目である。

死なない程度に身を守るのが俺の役目だ。

……ドラゴン相手に?殺されないようにする?

まずいな。それが出来る自信が無い。


「一番簡単なのは私に改造されることです。

 ……どうしますか?」


マリアがトモエに対してニッコリと笑っていた。

特に悪意は感じられないが、発言内容から何か裏があるように思える。


「……必要ない。

 私は私のやり方で強くなる。

 改造はいらない」


トモエはマリアから目を逸らした。これで話が終わる。

……それにしてもドラゴンとは何なのだろうか?

かなり強力な魔物のようだが。


《ドラゴンを含め、魔物は全て魔力から生まれた存在だ。

 その中でもドラゴンは最強と呼んでも許される存在だ。

 この世界が魔力で生み出した最強の魔物が、ドラゴンだ》


何かよく分からないが、ドラゴンは強いということが分かった。

それで良しとしよう。


「……話し纏まったの?」


昼寝をしていたコガネが俺に話しかけてきた。

俺はコガネの頭を撫でる。

こいつが一番の大物かもしれないな。


「話は終わった。だからもう少し寝ているといい」


俺はコガネを寝かしつける。コガネが眠ったのを確認すると、少し膨らんでいるコガネの胸を俺は撫でた。



******



こうして俺たちの旅は続いていく。基本はゴーレムカーに乗っての移動だ。俺はその中で、一般的にセクハラと呼ばれるような行為を行っていた。

キャットバスと違い、乗り心地が少し悪いのが残念でならない。

たまに魔物や盗賊をトモエやマリアが殺していく。

特にトモエは積極的に戦いを行っていた。

マリアから言われたことを気にしているのだろう。

俺とコガネはゴーレムカーの中で、のんびりと過ごしていた。


「コガネ。お前は可愛いな……」


俺はコガネの頭の上にある狐耳を撫でる。それと九本ある尻尾も撫でたり、頬擦りしたりする。

こんな日がいつまでも続けばいいな。

そんなことを考えていると、マリアとトモエが戻ってきた。

俺は二人の魔力と体力を回復させる。


「それでトモエ。

 あなたはどうやって強くなる積りですか?

 盗賊や魔物と戦っても、ドラゴンと戦えるほど強くなりませんよ」


マリアは一緒にゴーレムカーに乗り込んだトモエに尋ねる。


「……気は進みませんが、エルフに協力を仰ぎましょう。

 『水』と『風』の属性ならエルフに尋ねるのが、一番の近道ですから」


トモエは苦々しい顔をしていた。本音ではエルフに鍛えてもらうことが嫌なのだろう。

しかしそれが一番強くなれるということなのだろう。

こうして俺たちの目的地は、エルフの里に正式に決まった。



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