第27話 表は孤児院だが裏では奴隷商であった



俺たちは大邪神を信仰する教会を訪れている。

この教会は見た感じは地球の〇〇〇〇教の教会と、同じようなつくりをしている。

特に意味は無いのだろう。

教会は孤児院が併設されており、近くでは数多くの子供たちが遊んでいる。

その多くが獣人や翼人、鱗人であった。

教会と孤児院の管理は年老いた獣人が行っており、最初は俺たちのことを警戒していた。


「……こちらは寄付になります」


トモエは俺から金貨を受け取ると、年老いた獣人へそれを握らせた。

年老いた何の動物か分からない獣人は、受け取った硬貨を見ると目を大きく見開いた。


「お客人。どのような御用件ですかな?

 まずは中に入り、ゆっくりとされるといいでしょう」


管理者の獣人はいきなり態度を変えると、ニコニコ笑顔で俺たちに話しかけてきた。


「私たちは才能ある子どもを探しています。

 魔法使いの才能がある子供はいますか?」


トモエは管理者に、無表情で話しかけた。


「寄付金はどの程度用意されていますか?」


管理者はそれをニコニコして対応している。何か異常なものを感じる。

それを無視してトモエは話を続ける。


「金貨200枚」


「ご案内します。ついて来てください」


そういって管理者と共に、俺たちは孤児院の中を歩く。

俺はトモエを見た。


「……この孤児院は子供専門の奴隷商のようなものです。

 子供を引き取る代わりに、寄付金を渡す。

 そういうシステムです。

 孤児院で子供が買えるというのは、噂で聞いたことがありました」


つまり子供を売るために育てているということか。


「子供を育てるお金を得るために、子供を売っているということです」


トモエの言葉は理屈は分かるが、感情として理解できない。

子供のことを何だと思っているのだろうか?


「……ご主人様。助けられる人数には限りがあります。

 誰もが際限なく助けられるわけではないのです。

 売られる子供がいなければ、飢えて死ぬ子供がいるのです。

 綺麗事だけでは、世の中は回りません」


俺はトモエの言うことが正しいと、頭のどこかで思っていた。


《別に正しくないぞ。この管理人はギャンブル狂いで、そのための金を得るために子供を売っている。

 これは正しい教会の姿ではない。お前たちの用事が終わった後に、天罰を与えておこう。

 大丈夫だ。教会と孤児院の運営は、別の者がうまくやってくれる。

 そう手配しておこう》


できるだけ早く用事を済ませようと、俺は思った。

俺たちの目的は魔法使いの仲間を手に入れることだ。それ以外については、考えることをやめよう。


「この中だ」


俺たちは孤児院にある一つの部屋の前に案内をされた。

俺たちは部屋の外から、部屋の中を覗いた。

部屋の中には、幼い狐獣人がいる。見た目はどう見ても、ただの狐である。


「狐獣人の少年少女だ。年齢は10歳。

 病気のために隔離している。

 全員が同じ病気のようだ。

 ……それで、幾ら出す?」


管理人は早くお金が欲しいようであった。

俺は管理人を無視して、部屋の中へと入っていく。


「おいっ!何を考えている!?

 扉を開けるなっ!

 病気がうつるじゃないかっ!!」


管理人は急いでその場から立ち去った。

俺は部屋の中を見る。部屋の中は少し匂っていた。

中にいるのは9人の狐獣人たち。全員が例外なく亡くなっていた。

大きさや姿形が似ているようだから、兄弟かもしれないな

恐らく病気になって、全員をまとめてこの部屋に閉じ込めていたのだろう。

糞尿を垂れ流しており、誰も世話を行った様子はない。酷い有様である。


「……トモエ。妖精に命じて、全員を綺麗にしろ。

 この部屋の空気を入れ替えてくれ」


俺は自分の感情が理解できなかった。

憐れみか?悲しみか?怒りか?

どれも違うように思う。

ただ俺はこの状態の狐獣人たちを、綺麗にしてやりたいと思っていた。


《……ネトリ。残念ながら黄泉返らせることが出来るのは、一人だけだ。

 他の兄弟は既に魂が転生を終えている》


……そうか。転生先で幸せになるといいな。


《確約はできないが、善処しよう》


俺は俺のやるべきことをしよう。

トモエの働きで、狐獣人は綺麗になっていた。部屋の空気もまともになった。

俺はトモエの魔力を回復させる。


「……黄泉返らせるのは一人だけだ。他は条件が合わなかった」


俺はその一人の体を持ち上げた。

魔法の力だろう。俺には黄泉返る一人がどの狐獣人か、分かるようになっていた。


「……主様。

 残りの8人はどうするつもりですか?」


マリアがよく分からない質問をしてきた。


「どうとは?

 死体についてはどうにもできないだろう?」


俺には質問の意図が分からない。


「それならば、全ての肉体を合わせるべきと進言します」


「どういうことだ?

 分かりやすく説明してくれ」


俺は頭を下げているマリアを見る。


「簡単な話です。一人しか助けられず、兄弟と思える8体の遺体がある。

 なら黄泉返る一人のために、8体の遺体を利用して強化してはどうかという話です」


……ようやくマリアの言っている意味が理解できた。

兄弟の遺体で黄泉返る一人を強化するということか。


「私たちに必要なのは、強い仲間です。

 弱い愛玩生物ではありません」


マリアは頭を上げて、ニッコリと笑っている。

悪意が無い。マリアからは悪意が感じられなかった。

マリアは俺に対しての善意から、提案を行っている。

俺はトモエを見た。

トモエは真剣な顔つきで、考え込んでいるように見える。トモエは俺の視線に気づくと、首を横に振った。


「……私はどちらでも構いません。

 ご主人様の考えに従います」


この件に対して、トモエの意見は無いようである。

俺は自分がどうしたいのかを考える。

答が出ない。でも出さないといけない。

俺が判断しないといけない。


「……主様。私たちは主様の意見を尊重しております。

 しかし主様が判断できないのなら、私の判断に従ってください。

 主様が常に判断しないといけないわけではないのです」


マリアは先程と違い優しく笑う。


「主様。まずは黄泉返りをお願いします。それは私にはできないことですから」


俺はマリアの言葉に従うことにした。

自分で決めることが出来なかった。どれが正しいかを判断できなかった。

俺は強い仲間を欲していた。

一人の狐獣人が息を吹き返した。

マリアがその狐獣人を8体の遺体を使い、強化していく。

そして9体の狐獣人の遺体が、一人の狐獣人へと生まれ変わった。

その姿は金毛の九尾の狐。巨大な狐である。

長い尻尾を除いても、体の大きさは2メートル近くあるだろう。

恐ろしさと幼さを感じる狐獣人である。


「……初めまして。使徒様。

 僕のことを復活させてくれて、ありがとう。

 僕の兄弟は僕と一つになったんですね」


僕?男か?

俺はマリアを見た。


「彼女は女性です。

 話し方については、幼いせいでしょう。

 それから基礎知識を頭に入れましたので、現状を把握しています」


なるほど。それでこんなにも落ち着いているのか。

話し方は兄弟が多かったみたいだから、兄弟に似たのかもしれないな。

まぁ僕っ娘も良いものだし問題は無い。


「……主様?まだ幼い獣人ですので、手を出すのはお控えください」


「大丈夫です。

 分かっています。繁殖ですよね。

 初めてですけど、ヤっているのを見たことあります」


目の前の狐獣人は当たり前のように、話している。


「孤児院で年上の子がヤっているのを見たことがあります。

 それに本能的にわかるんです。

 どうすればいいのか。

 獣人は体も丈夫ですので、そういうのをする年齢が人間よりも低いようです」


狐顔の狐獣人は朗らかに笑っているようであった。

話の内容は笑えないけど。


「人のような姿にはなれないのか?

 その大きな体だと、色々面倒だろう?」


「そんなこともあろうかと、変身機能を付けておきました。

 より人間に近い体へと、変身が可能です。

 ……そういえば、名前は何でしたか?」


マリアの発言で、俺たちが彼女の名前を知習いことを知った。


「名前ですか?

 僕の名前は……あれ?なんでしょう?」


俺はその様子を見て、マリアの方へと目を向けた。


「……強化して、頭に知識を入れたことによる副作用ですかね。

 まぁいいでしょう!この際ですので主様につけて頂きましょう!」


マリアが期待の瞳で、俺を見た。

俺は彼女に名前を付けることにする。

確かに彼女は黄泉返り、新しい人生を歩くことになる。それに合わせて名前を新たに着けもいいだろう。


「……コガネだ。お前の名前はコガネにしよう」


俺は直感から名前を決めた。

でもそこまで悪い名前でもないだろう。


「僕の名前は……コガネ。

 コガネが僕の名前だ!」


コガネは自分の名前が気に入った様子で、とても喜んでいた。


「ではコガネ、姿を変えてみましょう。

 コガネの体の中にはいくつかの魔石が埋め込んであります。

 その力を使えば、体を変化させることくらいは簡単なことです」


コガネは、マリアの言葉を聞いて体を変化させていく。

狐の姿が徐々に小さくなって、人間に近い姿へと変化していった。



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