第25話 冒険者ギルドでの交渉と奴隷商の見学



俺たちの目の前にはだいぶ太った中年のエルフがいる。

どうやら冒険者ギルドでも、それなりの地位にいるものらしい。


「初めまして。買取担当主任のマクドナルドだ」


不機嫌を隠さない顔で、俺たちに挨拶した。


「初めまして、冒険者のネトリです」


俺は軽く頭を下げる。


「さて魔石の買取についてだが、どういうことかな?」


「何のことでしょう?」


マクドナルドからの質問に俺は首を傾げる。


「先程の買取担当が持っていった君たちの持ってきた魔石が、爆発したと聞いている」


「まだ代金をもらっておりませんので、魔石は一つも渡しておりませんよ」


マクドナルドは不機嫌そうに追及するが、俺は知らない振りをする。

あくまでも俺たちは魔石をまだ渡していない。そういう事になっている。


「なるほど。なら買取担当がもっていた魔石が爆発したのは、どういうことかな?」


「俺たちとは全く関係のないことですね」


俺はニッコリと笑った。これは全て予定通りだ。だから対応できる。

突発的に起これば、俺にこんな対応はできない。


「関係ない、……あくまでそういうのかな?」


「ええ、まだ代金をもらっておりませんので魔石は渡してません。

 ですので俺たちは無関係です」


「……そうか。それで魔石の買取だが、そちらの魔石は爆発したりはしないだろうな?」


「当然でしょう。

 キチンと料金を支払っていただいた魔石が爆発するなんて、ありえません」


そもそもこの冒険者ギルドは貴族専用のようなものだ。

貴族が自分の家名を出して、利用するギルドである。

そのため貴族以外の利用者は、対策をしていないとカモにされる。

そして権力でそれを握りつぶされる。

実力至上主義の帝国の冒険者ギルド本部。悪趣味で最低な冒険者ギルドだ。

トモエが噂を聞いていて、対策を行って助かった。そうでなければ魔石は奪われていたことだろう。

職員は顔や名前、種族を隠していた。そのため見つけることも困難だ。


「それで代金はどうなりましたか?」


俺はマクドナルドに問い掛けた。


「確か代金は金貨200枚だったか?」


「300枚です。聞き間違われたようですね」


俺は笑みを顔に張り付けていた。

他の町にある冒険者ギルドで売ることも考えたが、これだけのものになると本部での鑑定が必要なる。

そのため地方で売ることは困難だ。更に鑑定のために魔石を送ったりしたら、いつの間にか魔石が紛失されることは確実だろう。

当然補償などない。

弱者が搾取されることは、帝国では当然のことだ。


「ふむ。貴様が聞き間違えたのではないのかな?」


「では200枚で売りましょうか?」


俺は全く表情を変えずに言う。ちなみにトモエとマリアは無表情である。


「……いや、300枚払おう。

 300枚で問題ないな?」


「はい、問題ありません」


マクドナルドは正しい選択をした。これで魔石が爆発することは無いだろう。

トモエとマリアも笑みを浮かべた。



******



「流石は帝国ですね。一筋縄ではいきません」


冒険者ギルドを出たところで、トモエが感想を漏らした。

ちなみに金は俺のアイテムボックスの中である。

俺たちはマクドナルドに聞いた奴隷商の場所に向けて、歩き始める。


「……トモエ、気付いてますか?」


「もちろんです」


マリアとトモエが話し合っていた。俺は何も気が付かないため、蚊帳の外だ。


「『風』と『水』の妖精よ」


トモエが妖精に指示を出したので、俺はトモエの魔力を回復する。

そうこうしていると、俺たちの前に後ろから3人の男が現れる。

後ろには2人の男と足にけがを負った1人の女性が現れた。

合計6人。6人は首から上が水球に飲み込まれており、呼吸が出来ずに苦しんでいる。

首から下は風に切り刻まれて、血を流していた。

マリアが首輪に手を触れると、6人は土の中に飲み込まれていく。そして気が付くと、6人の姿は土の中へと消えていた。

周りには多くの目撃者がいたかもしれないが、俺が目を向けると誰もが俺から目を逸らした。


「町中で襲うなんて信じられませんね」


町中で土の中に埋めたマリアが、ニッコリと黒い笑みを浮かべた。


「さて、奴隷商へ向かいましょう」


俺たちは壁の方へと足を向けた。

奴隷商は壁の近くに店を構えているらしい。

どうやらこの帝都も王都と同じく、中心が一番偉く治安が良い。

外に向かうにつれて住んでいる者の地位が下がり、治安も悪くなっていく。

そういう傾向があるらしい。

特に帝国は弱いことが罪であるという考えのようで、この帝都の外周部の治安は王都のものよりも悪い可能性が高い


「……襲われるのは、これで終わりにして欲しいな」


俺はふと願望を口に出した。


「大丈夫でしょう。

 周りで色々見ておられたようです。

 私たちに手を出すようなものは、もういないと思いますよ」


トモエはニッコリと笑う。……笑みの奥に恐怖を感じる。

俺の願い通りに奴隷商に着くまでに、俺たちは襲われることが無かった。



******



俺たちは人間が営んでいる奴隷商の元へと、やってきた。

残念ながら大邪神を信仰している奴隷商はいないようだ。

流石に今回の奴隷商は創造神信仰ではないようだが。


「奴隷を見せてもらいに来た」


俺は髪の毛が寂しい奴隷商に用件を告げた。奴隷商は嫌な顔をしながらも、俺たちのことを舐め回すように見た。


「予算は?」


「金貨200枚」


他にも色々使う可能性もあるため、持っているお金の全額を答えるわけにはいかない。


「どんな奴隷が希望だ?」


「魔法使いを頼む。

 出来れば女性がいい」


俺の答えを聞いて、奴隷商は顔を顰めた。


「魔法使いか?

 なら人間の奴隷のほうがいいだろう。

 亜人の魔法使いなど、ほとんどいないぞ」


「事情があって人間の奴隷は使えない。

 条件の合うやつを見せてくれ」


元々エルフやドワーフは精霊や妖精の力を借りることが出来る。そのため魔法というものに頼るという考えが無い。

獣人等については、魔法使いとしての適性を持つ者が少ない。優れた肉体を持つ者が多いが、その反面魔法というものを使うものが少なかった。

それでも俺たちは魔法使いを必要としていた。俺たちが戦うのはドラゴンだ。

妖精や精霊はドラゴンの前では委縮してしまう。決定的な火力を叩き込む役割を熟すことは難しいだろう。


「……一度確認する。少し待ってろ!

 そんなやついたかなぁ?」


奴隷商は店の奥へと入っていった。

俺たちが望むような奴隷は、いるとすれ獣人の奴隷だろう。エルフとドワーフは論外。鳥系統の翼人や爬虫類系統の鱗人、両生類系統の滑人と魚系統の魚人は魔法使いの適性があると聞いたことは無い。

特に滑人と魚人は水のある所から移動することが、生態的に考えにくいので帝国でも奴隷となっている者はいないだろう。翼人と鱗人はあまり賢いと聞いたことが無いので、魔法使いになっているとは考えにくい。

消去法から獣人となり、狐や狸などの魔法使いの適性のある獣人が今回の目的となる。


「……そう考えると魔法使いではなく、頭が賢そうな奴隷といったほうが良かったかな?」


俺はトモエの方を見る。


「大丈夫でしょう。その辺りは、奴隷商のほうが弁えていると思います。

 問題は適性のある奴隷がいない場合と、値段が高すぎる場合です。

 奴隷商が戻るのを待ちましょう」


トモエは俺の後ろで控えていた。マリアも同様である。彼女たちは俺の奴隷という立場である。そのため奴隷商の前で、彼女たちが目立つのはあまりよくないと考えたからだ。


「マリア。魔法使いの魔物を作ることはできないのか?」


俺は誰もいないため、内緒の話をマリアと行う。


「……主様。このような場所で話す内容ではありませんよ。

 一応回答しますが、恐らく目的の相手と戦う際は戦力になりません。

 余程強い意志を持つ者を作らないと、委縮して戦うことが出来ないでしょう」


そうなると特定の獣人奴隷を見つける必要があるということか。しかも俺たちが買えるような値段の奴隷でだ。

なかなか難しいな。


「……魔法使いの奴隷はいなかった。

 魔法使いになれそうな奴隷を、一応何匹か連れてきた」


奴隷商は鎖につながれた奴隷を複数連れていた。奴隷商の仲間が、一人ずつ鎖を持っていた。

どれもが狐や狸などの獣人奴隷である。


「これは狐のオスで、年齢は20歳。こっちは狸のメスで、年齢は30歳だ。

 それからこいつが鼠のオスで15歳。最後がイタチのオスで、10歳だ」


「値段は?」


俺は現実的な問題を確認する。


「狐が金貨500枚。狸が金貨600枚。鼠が金貨400枚。

 イタチが金貨800枚だ」


全て予算を超えていた。


「……イタチが高いのですね」


トモエが小さな声で質問を行う。


「ん?まぁ若いからな。それに顔もいい。

 その分値段が張るということだ」


「……もう少し安い奴はいないのか?」


「いないな。他を当たってくれ」


奴隷商を見ると、俺のことを拒絶しているように見える。

……これ以上は無理だな。

俺は引き下がることにする。


「……分かった。ありがとう」


俺は奴隷商に礼をいうと、その場から立ち去ることにした。



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