第24話 癖の強い冒険者ギルド



俺たちは無事に帝都の中に入ることが出来た。

帝都も他の町と同様に壁に囲まれた町である。帝都周辺も多少離れれば、魔物が出る地域がある。

魔物の襲撃から守るために、壁があるのはこの世界では当たり前のようだ。


「……ご主人様。

 エルフドワーフ連合国の場合は、壁がありません。

 妖精や精霊が魔力の濃度を調整して、魔物が生まれないようにしているから必要でないのです」


この町にもエルフやドワーフはいるだろう。そこは王国とは違うはずだ。

それでも妖精や精霊は協力してくれないのだろうか?


《考え方の違いだな。

 帝国は魔物を資源として考えているようだ。

 そのため敢えて発生させているような感じだな》


そういう考え方もあるのか。


「……トモエ。まるで主様の心を読んでいるようですね」


マリアがトモエに質問をしてきた。


「……そうね。何となくだけど、ご主人様の心の考えが、分かるようになっていた。

 どうしてそんなことが出来るかは分からないけど、分かるものは分かるのよ」


トモエの眼が少し据わっているように見える。

……怖い。少し怖い。


「大丈夫です。ご主人様。

 何も怖いことはありません」


……それにしてもどうしてトモエは俺の心が分かるのだろうか?


《正確な理由は不明だ。

 考えられるのは奴隷契約。肉体的な繋がりで、精神まで繋がった。

 トモエの特殊能力。

 そんなところだが、決定的なものは無い。

 まぁ諦めろ》


理由は分からない。でも特に問題ないとして進めるしかないか。

たぶん理由は考えても分からないだろうし……。


「さて、切り替えよう。

 最初にどこに向かう?」


一応俺がリーダーだが、ちゃんとした考えを持っているわけではない。

なら周りの意見を聞いたほうが無難だろう。


「ご主人様。

 私たちの目的は魔法使いの奴隷を手に入れることです。

 しかし金銭的な余裕がありません。

 ですので最初に冒険者ギルドに行き、魔石を売るのが良いかと思います」


トモエが俺の代わりに状況をまとめてくれた。

非常に助かる。

俺はマリアを見た。マリアも特に問題がないようだ。

俺たちは帝国冒険者ギルド本部へと向かうことにした。

そして歩きながら、冒険者ギルドで気を付けることをトモエから聞いた。それに対して策も練って、準備を整えるのであった。



******



帝都には王都と同じように、中央に城があった。城の様式というか、城の形は王都と帝都で違いがある。どうと聞かれても説明することが出来ない違いだ。

どちらも洋風の城である。よく知らないが、フランスとドイツの城の違いくらいの違いがあると思う。

ごめん。知識がないから説明はできないや。

さて話を戻そう。

俺たちは壁を通り抜けて、帝都の中に入った。そして城の方へと足を運ぶ。俺たちは城に向かっているわけではない。

冒険者ギルドに向かっているのだ。冒険者ギルドは、壁から見て、城の方角にある。そのため城の方へと向かっていた。

そもそも帝国冒険者ギルドは、帝国の組織の一部となっている。そのため帝都にある皇帝が住む城の近くにあっても、おかしいことではない。


「……それで冒険者ギルド本部はどこにあるんだ?」


俺は一緒に歩いているトモエに尋ねた。トモエは元々帝国で冒険者をしていた。

そのためい俺よりも、帝都について詳しいはずだ。


「帝都は皇帝が住む城を中心に作られています。

 当然のことながら、城の外側には城壁があります」


当然だろうな。帝都を守るための壁とは別に城壁があることはおかしいことではない。


「城壁の内側は騎士が守っており、城壁の外側に貴族の邸宅があります。

 正確には多少離れて作られているようですが。私たちには関係ありません」


「その辺りは王国も似たようなものでしょう」


マリアが会話に参加してくる。


「そうですね。大きくは変わらないと思います。

 冒険者ギルド本部はその貴族街の外側にあります。

 私も帝都に住んでいたわけではないので、帝都に入る前に門番に場所を聞いておきました」


そういわれると、帝都に入る際に兵士とトモエは少し話していたな。


「皇帝の城ほどではないですが、それなりに大きな建物のためすぐに見つかると聞いています」


トモエにそう言われて、俺は目立つ建物を探す。

俺たちの進行方向とは少しずれているが、巨大な建物を見つけた。


「……あれかな?」


俺はその建物を指さす。


「恐らくあれですね。

 話に聞いていたものと一致します」


そうして俺たちは冒険者ギルドの方へ、行き先を修正した。



******



帝国冒険者ギルド内には、それなりの人数の冒険者がたむろしていた。

特徴としては、その冒険者のほとんどが貴族らしき人間であること。

いや正確に言うならば、パーティの中に必ず一人貴族らしき人間がいることだ。

俺はトモエを見た。


「……恐らく貴族に雇われているバーティですね。

 それにしても人間以外の貴族は見当たりませんね」


「人間以外の貴族が帝国には、いるのか?」


俺は素朴な疑問として、トモエに尋ねた。


「ええ、いますよ。

 地方には亜人が治める町もあります。

 帝国は実力至上主義ですので、そういう貴族も多いんですよ」


そこが王国との違いか。

確かに帝都では人間以外の種族が多く歩いていた。

当然そういった種族の奴隷もいる。しかし逆にそういった種族が人間を奴隷にしていることもあった。

もちろんトモエは俺の奴隷であるため、首にそれを示す首輪をしている。

マリアも色々問題があるため、首に奴隷の首輪をつけていた。

この首輪は小さな魔石によって作られたゴーレムであり、実際は奴隷の首輪ではない。

ただ奴隷と勘違いさせたほうが便利と思ったため、マリアは首輪をつけている。

俺たちは受付で魔石買取の用件を伝えると、番号札を渡された。

番号札は木製で平らにされた表面に、複数の線が刻まれていた。

その番号札を持ち、俺たちは呼ばれるのを待っていた。


「……どの程度待つ感じだ?」


「先程呼ばれた番号から、残り2人でしたのですぐでしょう。

 ほら、前の番号が呼ばれています」


番号札はトモエが持っていた。俺も番号を読むくらいは出来る。

それ以上に読み書きは普通にできるようになっていた。


《『大邪神の加護』の力だな。

 まぁそれくらい無いと不便だろうからな》


ありがとうございます。

俺はコピーの声を聞き、心の中で一応大邪神へ感謝を述べた。

そんなこととしているうちに、俺たちの番号が呼ばれる。

俺たちは窓口へと向かった。



******



「初めまして、私が買取担当職員になります」


俺たちの前に黒い頭巾を被り、顔を隠した女性(?)が現れた。


「帝国冒険者ギルド本部では貴族などが職員に圧力をかけることを防止するため、職員の種族や名前や顔を隠すことが認められております。

 ご了承ください」


目の前の職員はそういって頭を下げた。

俺に対して友好的な対応をしていることから、この職員は人間ではないと思う。

声の感じや体つきから見て、女性だろう。それ以外は分からないことだらけだ。

服装も全員が同じ制服を着ているため、個人の区別はつかない。

マリアが俺を肘で軽く突いてくる。俺は自分の役目を思い出し、マリアから魔石を受け取る。


「魔石の買取を頼む」


俺は彼女(?)にクリムゾンベアの魔石を含めて、魔石を見せた。


「……これはすごいですね」


買取担当職員はクリムゾンベアの魔石を見ると、驚きの声を上げる。


「どのくらいになる?」


俺は単刀直入に聞く。もし買取担当職員が人間なら俺は下がっている予定だが、この職員は人間ではないようなので俺が対応する。

奴隷だと軽くみられる可能性もあるため、今回は俺が対応していた。


「……そうですね。金貨300枚くらいですかね」


コピーが前に予想していた者よりも高い。なら問題ないかな。

俺はトモエとマリアを見る。どちらも特に異論はないようだ。


「問題ない」


「ではお金を取ってきますので、少しお待ちください」


そういって職員はクリムゾンベアの魔石を持っていこうとしたが、それをトモエが職員の手を掴んで止めた。


「魔石は置いていきなさい。

 まだ代金は貰っていませんよ」


トモエは反対の手で包丁の柄を握っていた。状況次第でトモエはこの職員を斬り殺すつもりだ。それも仕方がない。金貨300枚はこの職員の命よりも高い。

その証拠にトモエは殺気を放ち、職員を睨んでいた。


「申し訳ございません。

 魔石は置いていきますので、武器から手を放してください」


職員がクリムゾンベアの魔石を机の上に置くと、マリアが魔石を確保する。それを見てからトモエが包丁の柄から手を放し、職員の手を放した。


「では代金と上の職員を呼んできます」


再び職員は席を立つと、奥へと入っていった。


「全く油断も隙もない」


俺はそれを見送ると、ため息をついた。

これは帝国冒険者ギルド本部では、よくあることらしい。油断している冒険者に対するギルドの悪戯らしい。といっても奪われた魔石などは、戻ってこないのだが。

完全に犯罪だと思うが、相手は国の組織で苦情も力で捻じ伏せているらしい。

何とも酷い組織である。


「……クリムゾンベアの魔石は置いていきましたが、他の魔石を数個ポケットに入れていきましたね」


マリアが無表情で去っていった奥を見ている。そしてマリアは指で合図を行った。


「フギャァー!!」


激しい爆発音とともに、先程の職員と同じ声の叫び声が上がる。

わざと盗ませた魔石にはマリアが少し細工をしていた。

合図とともに魔石が爆発するようにしていたのだ。実はクリムゾンベアの魔石も同じ細工を行っている。


「どうしたのかな?」


俺は白々しく口にした。


「分かりませんが、魔石が爆発したのではないでしょうか?

 たまに魔石が爆発することもあると、聞いたことがある気もします」


マリアは黒くて悪い笑みを浮かべている。


「そうか。そんなこともあるのか。

 大変だな」


俺は棒読みのようなセリフを口にすると、ニッコリと笑みを浮かべた。



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