第23話 乗り物を作ろう
俺たちの帝都へと向かう旅は、乗り物が無くなり速度が大幅に落ちた。
しかしそれもマリアが落ち着くまでの間の話である。
マリアが落ち着きさえすれば、ゴーレムを生み出すことで乗り物にできる。
俺には地球の知識もあるし、車かそれに類するものを作らせてもいいだろう。
「……マリア。いい加減、落ち着いたか?」
俺は歩きながら、マリアに話しかけた。
マリアも時間が経過したことにより、怒りが少し収まったようだ。
まだクリムゾンのことを怒ってはいるのだろう。しかし怒りで我を忘れるような激しい怒りは、もうマリアの中にはない。
今ある怒りは、マリアの中で制御できるような怒りに変質している。
「……はい。大丈夫です」
マリアの声は少し低いような気もするが、暴れ出すような気配はなかった。
「この辺りにはクリムゾンベアの影響か、素体となるような動物の姿が無い。
素材となるのは土と木だけだ。
つまり作れるのはゴーレムとトレントになる。
それらを合わせて乗り物となる魔物を作って欲しい」
俺たちは徒歩で帝都へと向かっているが、帝都まではまだまだ距離がある。
回復魔法のおかげで食料等の問題はない。
しかし気分的に歩き続けるのは、やりたくない。乗り物に乗って移動したい。
楽がしたい。
それが俺の本音である。
確かに俺たちはクリムゾンベアを倒したことと、その肉を食べたことで強くなっている。
体は丈夫になり、歩き続けても問題はない。
しかしそれができることと、それがやりたいかは別の問題である。
俺は楽がしたい。
嘘偽りのない本音である。
「しかしその材料で乗り物ですか……。
ゴーレムもトレントも力強い魔物を作るのは可能です。
そういう意味では乗り物にするのは問題ありません。
しかしどちらの魔物も素早い動きとは、無縁です。
どちらかというと動きは遅いと言えるでしょう」
マリアは俺の要求に対して、難色を示している。
やはりスピードが問題になるようだ。
「別の素材を使おうにも、街道にはそれらしき素材が見当たりませんね」
マリアが辺りを見回して、ため息をついた。
俺たちが今いる街道沿いには、素材となるような動物のがいない。
近くに森があるが、クリムゾンベアの影響で動物がほとんどいない。
逃げるか食われるかしている。あるのは地面と植物。
「『風』の属性を付与してスピードを出すとかはできないのか?」
俺は思いついたことをマリアに伝える。
「難しいですね。そもそも土に『風』を付与したりすること自体が、難易度が高いです」
「確かにそうですね。
土は『土』属性を持っていますから、『風』を付与するのは難しいですね。
木は『木』属性ですが、『風』と相性は悪くないのでまだ可能性は高いと思います」
マリアの意見にトモエが補足を行う。属性については、トモエは詳しいようだ。
「……例えばキャットバスの上部分に車輪を付けて、自走するような乗り物をゴーレムやトレントで作れないかな?」
俺は地球の知識を使い、バスや車の作成ができないかを尋ねた。
「自走する車輪ですか。
なかなか難しい注文ですね。
そもそもそれが出来たとしても、動きの遅さをカバーできません。
やはりゆっくりと動く存在になります」
マリアは解決の手段が見つけられずに、首をひねっている。
「なら別の方向から考えればいいと思います。
乗り物として外側は、トレントやゴーレムで作る。
動力部分だけは別の素材を使えばどうでしょうか?」
トモエは何か思いついた様子だ。
「それは可能です。
植物を使えば多少の弾力を持つ乗り物は作れます。
しかし動力はどうするのですか?
それは別の魔物から作るにしても、材料がありませんよ?」
マリアは根本となる問題を、トモエに問い掛けた。
「素材ならそこにあるじゃないですか」
トモエはそういって、俺を指さした。
俺?
******
乗り物は無事に完成した。車体自体は木と土を混ぜた魔物で作られている。
見た目だけなら地球にある車と同じである。
「しかしあのような手段で動力を確保するとは、恐れ入りました」
マリアがトモエに笑いかけた。
「前に体が残ることを見たことがあったので、それを思い出しました」
返り血を浴びたトモエがマリアに微笑んでいる。
俺は失った肉体を回復魔法で再生させた。ついでに服も再生させている。
「トモエも俺を切断して浴びた返り血を、『水』の妖精の力で洗い流したらどうだ?」
「えっ?汚れてましたか?
『水』の妖精よ」
トモエは水で返り血を洗い流した。
結局動力については俺の体を切断して、それを使用することになった。俺は事前に覚悟さえしていれば、首から下を切断されても死ぬ前に再生可能である。
死ぬことなく再生可能である。
そのためトモエが包丁で俺の首を切断して、マリアが首から下の肉体を使って動力部を作成した。
「……トモエ、ついでに包丁も綺麗に洗っておけよ」
トモエの包丁は敵を切断することもあるが、解体などで食材を切断することもある。
戦闘と料理で包丁を使い分けていない。
そこは少し気にして欲しいと思うが、俺たちが持つ刃物は包丁くらいしかないため仕方がない面もある。
「ええ、分かっています。
……それにしても乗り心地はあまりよくありませんね」
キャットバスの天国のような乗り心地に比べると、このゴーレム車の乗り心地はあまりよくない。トモエも何気なく不満を口にしていた。
「……仕方ないと言えますね。
所詮は土と木ですから。猫のモフモフと比べると、劣るのは仕方ありません。
街道もそれなりに整備されていますが、道が悪いところもありますから」
マリアは肩を竦めた。
確かに乗り心地は悪い。それでもこの速度で移動することを考えると、かなりの出来だと思う。
そういえば名前を付けていなかったな。
何にしよう。
とりあえず分かりやすいものでよいかな。
「ゴーレムカーだ!」
俺は突然自分の考えを言葉として出した。それを聞いてトモエとマリアは、俺のことを不思議そうに見る。
「ゴーレムカーですか?」
「なんですか?それは?」
「この乗り物の名前だ」
俺は胸を張って答える。
「そうですか」
マリアは適当に相槌を打ち、トモエは視線を外へと向けた。
ゴーレムカーに乗り、俺たちは帝都へと向かった。
******
ゴーレムカーに乗り、無事に帝都の近くまでやってきた。
途中でイノシシ等の動物を素体として発生した魔物を狩り、魔石を手に入れている。
ついでに肉は食料やゴーレムカーを改造するための素体になった。
回復魔法で空腹は補えるが、やはり肉は食べたくなる。
トモエが肉の処理ができるため、トモエに美味しく料理してもらった。
といってもほとんど焼くだけだが。
「何か問題でもありましたか?」
トモエが俺の心の声に気が付いたのか、黒い笑みで俺に問い掛けてくる。
「……何もありません。
トモエさんにはいつも感謝しております」
「ならいいんですよ」
……まずいな。最近はマジカル〇〇〇を使っていない。
そのせいもあり、俺のパーティ内のでの立場が低くなっているように思える。
《気のせいだと思うぞ。
真面目な話、お前のパーティでの役割はかなり重要だ。
どんな怪我や病気も治せる回復職。
飢えや渇きまで対応可能だ。
魔力の回復もお前がしている。それのおかげでトモエは妖精の力を、大量に使っている。
どう考えても、お前を蔑ろにしていい理由が無い》
しかし最近はトモエが少しイライラしているように思える。
《……欲求不満じゃないか?》
そうなのか?
《さぁ?》
さぁって、お前。何も分からないということか?
《それを考えるのはお前の役割だ。
何でもかんでも俺が教えると思うと、大きな間違いだぞ?
どちらにしても落ち着かせたいなら、回復魔法を使えばいい。
精神的なものも回復魔法で回復可能だ》
確かにコピーの言う通りだ。俺は自分の精神を回復魔法で回復していた。
それと同じことをトモエとマリアにもするべきだった。
怪我や病気もないと、飢えや空腹の回復しかしていない。
それが原因でトモエやマリアに何かが起こっているのかもしれない。
俺はとりあえず回復魔法を行う。魔力には余裕がある。というか限りが無い。
なら使いまくるのが正しい選択だろう。
俺はトモエとマリアの肉体と精神の回復を行う。
これで何があったかは分からないが、問題は解決したはずだ。
「……ご主人様。
ありがとうございます」
トモエが少し照れながらも、俺に頭を下げた。その隣ではマリアも同じように俺に頭を下げている。
「……そろそろ徒歩に切り替えましょう」
巨大な壁を持つ帝都が視界に映る頃に、マリアがゴーレムカーの旅の終わりを告げた。
流石に帝都までゴーレムカーで行くと、色々と悪目立ちする。
俺は『大邪神の加護』持ちのため、目立ってしまうことは仕方ないことだと思っている。
しかしわざわざ悪目立ちする必要もないだろう。
俺たちは徒歩に切り替えて、帝都へと向かうことにした。
これで俺の体の一部を使用したゴーレムカーともお別れか。
「ゴーレムカーはどうするんだ?」
俺はマリアを見た。
「いつも通りですよ。
野に放ちます。キャットバスなどとは違い食事をする能力もありませんから、適当に死に絶えると思いますよ」
「なら俺たちで魔石を抜き取ったほうがいいのでは?」
俺の言葉にマリアは少し考え込む。
「……そうですね。
売るわけにはいきませんが、私たち専用として持っておくのもいいかもしれません」
マリアはゴーレムカーから魔石を取り出し、その肉体を土へと返した。
ゴーレムの応用で土以外については、土の中に埋めている。
ようやく俺たちは帝都へと辿り着くことが出来た。
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