第21話 クリムゾンベアの死体活用法



俺はクリムゾンベアを倒した後のことについて、トモエから話を聞いた。

……マリアは魔石を見てトリップしていたため、話を聞くことができなかった。


「……それじゃあ、俺はクリムゾンベアを倒した後すぐに崩壊したのか?」


俺はトモエが準備したクリムゾンベアの肉を頬張りながら、トモエに話しかける。


「はい。あの後ご主人様の肉体は、すぐに崩壊してしまいました。

 マリアが言うには魔石による強化に、ご主人様の肉体が耐えられなかったということです。

 その後に私とマリアで、クリムゾンベアの魔石を取り出しました。

 マリアはクリムゾンベアの魔石を見た途端に、あの様です。

 私はクリムゾンベアの解体を行い、肉を食べることにしました」


「……どうして肉を食べることにしたんだ?」


俺の問い掛けにトモエは、不思議そうに答えた。


「ご主人様はご存じではないのですか?

 魔力を取り込むためです。

 通常パーティメンバーが魔物を倒すと、魔物から魔力を取り込み強くなることが出来ます。

 しかし強くなるためには、魔物を倒す以外に魔物を食べるという方法があるのです。

 これは魔物を倒すよりも効率が悪いのですが、今回のような強力な魔物の場合は食べることで一定の効果が見込めます」


つまり弱い魔物なら食べても強くなれないけど、化け物のように強い魔物なら食べるだけで強くなれるということか?


《その認識で間違いない。ただトモエが言った通り、倒すほうが効率が良い。

 食べて強くなれるのは今回のような、異常な強さを持つ魔物だけだ》


……それにしても結構クリムゾンベアの肉は、美味しく感じられるな。


《肉体が魔力を欲しているからな。この世界では魔力を含む食品は、美味しいと感じる。

 魔力が旨味の役割を果たしていると考えればいいだろう》


なるほど。それで美味しいのか。

理論についてはよく分からなかったが、俺はクリムゾンベアの肉を頬張った。



******



「……食べきれない分の肉はどうするんだ?」


俺は腹が膨れるほどクリムゾンベアの肉を食べた後に、トモエへと問い掛ける。


「残念ながら燃やすなどして、処分するしかないですね。

 下手に他の魔物がこの肉を食らうと、かなり強力な魔物に進化する可能性があります。

 弱い魔物なら問題になりませんが、このクラスの魔物は確実に問題になります」


「……それにそれだけじゃありません」


ようやく正気に戻ったマリアが口を挟んできた。


「このクラスの魔物の場合、肉体に残された魔力から魔石を生成しゾンビ化する可能性もあります。

 当然その場合は、生きていたころよりも弱体化していると思いますが」


「じゃあ、こいつの肉体は処分するということでいいのか?」


「その通りです」


「いいえ、違います」


トモエとマリアで意見が分かれた。


「どういうつもりだ?

 この魔物の死体を残しておくと危険だというのは、あなたも言っていたではありませんか?」


「あなたこそ何を考えているのですか?

 これだけの素体を捨てるなんて、どうしてそうなるんです?

 この素体を使い、新たな魔物を作ればすごい魔物を生み出すことが出来るのですよ!」


マリアは興奮して、少し目が血走っていた。

俺はとりあえずマリアの意見を聞くことにする。


「それでマリアはそんな魔物を作り出して、どうするつもりだ?」


「もちろん王国へ侵攻させます!」


それを聞いて俺は少し考え込む。

その手があったか。俺たちにとって王国というのは、あまりいい印象が無い。

俺は最初のブレードこそ助けてもらったが、それ以降は売られそうになったこともある。

いきなり殺されそうになったこともある。

戦いの途中で見捨てられたこともある。いい印象を持っていない。

トモエも奴隷にされた国のため、王国に対しては少し思うこともあるだろう。

マリアについては自分を作った魔族の命令で、滅ぼすべき国と考えている。


「……王国に侵攻する前に、帝国の冒険者に殺されるんじゃないのか?」


ここは帝都に向かう途中の森の中だ。

途中には帝国の辺境都市もある。当然森も王国に行く前に途切れている。

帝国の冒険者に発見されて、倒されるのが落ちではないだろうか?


「その点は大丈夫です。

 今回のクリムゾンベアは変異の過程で狂暴性が強まり、知性という面ではかなり劣っておりました。

 確かにそのままの状態では、王国に辿り着くことは困難でしょう!」


ならと俺たちが言いそうになるのを、マリアが手で制する。


「私はクリムゾンベアの魔石を見て学びました!

 変異を知性に振り分けて、食べて欠損した肉体を凝縮して再構築します!

 そうすれば熊獣人に擬態した魔物を作り上げることが出来ます!!」


「……熊獣人ですか?

 中々珍しい獣人ですね」


マリアの言葉にトモエが反応した。

どういうことだ?


《獣人は獣と人間の間に生まれた子供だ。

 つまり熊と交わった人間がいないと、熊獣人は生まれない》


……なるほど。確かに珍しいだろうな。


「しかし人間の中には動物愛護(物理)を行っている者も多いと聞きます。

 そういう意味では熊獣人も珍しいですが、いないわけではないはずです」


マリアは人間を滅ぼすために作られたこともあり、かなり人間について詳しいようである。


「……そういわれると、確かにそうですね」


マリアの言葉にトモエも納得する。

この世界の人間はかなり変態のようだ。


《人間というのは数が多い。そうすれば特殊な変態も、ある一定の割合で出てくる。

 仕方のないことだろう》


「魚人もいるくらいですから、熊獣人くらいなら普通ですね」


トモエの言葉に俺は戦慄する。魚相手に交わった人間がいるのか?


《実験目的か変態かは知らないが、いや知るつもりはないが魚人は存在する。

 しかもそれなりにたくさんの種類の魚系統の亜人が存在する》


俺には理解できない性癖である。

そもそも獣の時点で、可愛らしいとは思っても欲情はしない。

性の対象と見做すことが出来ないのだ。

これが多様性というやつか!


《当たり前だが、鳥系統の翼人も存在するぞ。爬虫類系統の鱗人や両生類系統の滑人も存在する。流石に昆虫などになると、間の子供が存在しない。

 試した人間はいるが、生まれた子供はいない》


好奇心というか研究心というのは、恐ろしいものがある。

つまりこの世界では脊椎動物の間なら、子を成すことが出来るようだ。

中々恐ろしい世界だな。


「ではこの死体からクリムゾンアサシンベアを作成します。

 知性を高めに設定して、見た目は熊獣人のようにします。

 主様、魔力の回復をお願いします」


マリアが両手に魔力を集中させて、魔石を作っていく。今までよりもかなり慎重に魔石を作っているようだ。

クリムゾンベアの魔石を見ることが、かなり良い刺激になったのだろう。

真剣な表情で両手の中に生まれた、真っ赤な魔石を見ている。真っ赤な魔石は人の握り拳くらいの大きさで、赤く澄んだ宝石のような輝きをしていた。

それでいて赤い魔石は、何か妖しい輝きを放つように変化していく。

俺はそれを眺めつつも、マリアに魔力の回復を行う。

魔力の消費もかなり多い。今までよりも圧倒的に魔力の使用量の多い魔石だ。しかし大きさは今まで作っていたものと、そこまで変わりがなかった。

つまり魔石の質が変化したということなのだろう。

マリアはクリムゾンベアの魔石を見ることで、大きく成長したように思える。


「……出来ました。

 後はこれを残っているクリムゾンベアの死体に入れれば、大丈夫のはずです」


マリアは作り上げた真っ赤な魔石をクリムゾンベアの胸の上に置く。魔石はまるで体が液体で出来ているように、クリムゾンベアの体の中へと沈み込んでいく。

沈み込んだ魔石から赤い光が放たれ、クリムゾンベアの死体が宙へと浮かぶ。

赤い光がクリムゾンベアの体を包み込み、赤い光の繭へと姿を変えた。

光の繭は徐々に大きさを小さくすると、最終的に3メートルくらいの大きさで落ち着いた。

ようやく光が収まると、その中から1体の熊が姿を見せる。

どう見ても熊だ。見た目は二本足で立つ赤いヒグマだ。


「初めましてっス!

 ……なんで裸なんスか!?

 恥ずかしいっス!!」


二足方向の赤いヒグマは、両手を使い自分の胸と股間を隠す。

……えっ!?どういう状況!?

俺は理解が追いつかず、マリアを見た。マリアは赤いヒグマを見て、大きく頷いている。

どうやら俺の理解するには、この世界の物事は難しい過ぎるようであった。



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