第18話 辺境都市ロトフの奴隷商



俺たちは今、帝国の辺境の都市ロトフにいる。そこで俺たちは新たに冒険者となった。

前は王国冒険者ギルドに所属していたが、今は帝国冒険者ギルドの所属である。

ちなみに両方に所属することについては、問題がない。

ある程度は前のギルドでの実績も考慮してもらえるため、全くの一からのやり直しというわけではない。

少しの実績を持つ、低ランクの冒険者という扱いだ。

帝国は実力至上主義であり、町を歩く種族は様々だ。しかしそれは帝都での話だろう。

ここは王国に一番近い辺境都市ということもあり、人間が多い。

亜人は王国からの奴隷狩りに恐れて、もう少し遠くの都市に住んでいることが多いらしい。

奴隷としてトモエを連れていると色々声をかけてくるものがいるため、力づくで様々なことを聞くことができた。


「まずは魔法使いを仲間にしようと思う」


俺はトモエとマリアに話しかける。なおキャットバスは帝国に入る前に、野に放っている。恐らくその辺の森で、自由に生きていくことだろう。

俺たちはバスの床の上で何度も盛っていたこともあり、キャットバスはもう二度と会いたくないと言われていた。

それよりも新たな仲間にする魔法使いだ。


「まず人間はダメだ」


個人的には男性も嫌だが。これは個人の意見である。しかし人間がダメなのは。俺が『大邪神の加護』を持っているからだ。

こちらはまともな理由である。


「そうですね。私たちには感じられませんが、ご主人様のことを考えると人間以外でなければならないでしょう」


俺の意見にトモエは賛同する。


「ではどうしましょうか?

 この町は王国が近いこともあり、人間が多めの町です。

 別の町に移動しますか?」


マリアが俺に提案する。


「いや、まずは候補を確認してからだ。

 この町にも奴隷商がいる。

 奴隷商を確認後に、この町を出よう」


俺たちがいるのは帝国の東側の辺境都市ロトフ。そこから西に向かい帝都に行き、さらに西に向かう。

南に行くと創造神を信仰している聖国に出る。聖国とは関り合いたくないため、西に向かいエルフドワーフ連合国から南下して教国を目指す予定だ。

教国から山脈にいる『断絶』のドラゴン討伐に向かう予定となっている。

その途中で仲間獲得と、実力の向上を目指すことになっている。

とりあえずの予定が魔法使いの勧誘である。


「……そうですね。各町で奴隷を確認するのは、必要なことだと思います。

 そういう意味では、王国で確認しなかったのは少し惜しいですね」


トモエは残念そうにしていた。これは掘り出し物が見つけられなかったからか、それとも自分と同様の状況にいる同胞を助けられなかったからかは分からない。

でもそれは仕方がないと思う。マリアに会うまでは、乗合馬車に乗るお金などで金銭的に余裕がなかった。

マリアに会った後はキャットバスの中で盛っていて、それどころではなかった。

仕方がないことだ。


《全然仕方がないことではないが、奴隷商に寄っていても無駄だろう。

 亜人奴隷は基本的に王国では王都に集められている。

 外国から輸入した珍しい奴隷だからな。地方での売買は基本的にない。

 個人間のやり取りがあるくらいだ。

 ハンブクの例でいえば、ハインツが持ち主から引き取っているのがほとんどだ。

 お前が介入する余地などなかった》


……恐らくハインツは権力などを使っていたのだろうな。

俺は何となくそう感じた。


「まぁ過ぎたことを言っていても仕方がない。

 この町にある奴隷商に向かおう!」


俺たちは冒険者ギルドや力づくで教えてもらった情報から、亜人専用の奴隷商のもとへと向かった。



******



帝国では亜人と人間で扱う奴隷商が違う。人間が亜人奴隷を扱い、亜人が人間奴隷を扱う。これは昔に亜人奴隷を扱う亜人の奴隷商が、人間の奴隷と亜人の奴隷で扱いに差をつけたのが原因と言われている。もしくはその逆が原因と言われたりもする。

まぁともかく、亜人奴隷は人間の奴隷商のもとにいる。そしてこの町の人間の奴隷商は一人しかいなかった。


「ん?何しに来た?」


少し治安が悪そうなところにその奴隷商はいた。人間の男性、年齢は40代くらい。中肉中背で、少し鼻が大きいのが特徴の男だ。


「ああ、奴隷を見せてもらいに来た」


ここでは俺が奴隷商と会話を行う。奴隷の首輪のあるトモエは論外だし、マリアも交渉は避けたいといっていた。消去法で俺となっている。


「冷やかしか?なら帰ってくれ!」


俺は服装は最初の長袖長ズボンのままであり、トモエは長袖長ズボンに皮の防具を付けている程度。マリアもこの町で服を買ったが、似たようなものである。

俺たちはそこまで金を持っているように見えなかった。


「奴隷を買いに来たんだ」


俺は奴隷商に重ねて言う。


「予算は?」


「金貨50枚」


俺たちは食事や宿などで多少のお金を使っている。これでも少しきついくらいだ。


「最低でも金貨100枚は必要だ。客じゃないなら帰れ!

 ……それとも売りに来たのか?それなら高く買ってやるぞ?」


奴隷商の眼に妖しい光が宿る。

……嫌な流れだな。このまま粘っても、得られるものは少ないか。


「悪いが売るつもりはない!

 ……買えないのなら、帰らせてもう」


俺はそういうと、トモエとマリアを連れてその場を立ち去ることにした。

それを奴隷商が、妖しげな眼付きで見ていた。



******



「……どう思う」


ある程度奴隷商から離れた位置で、俺はトモエとマリアに問い掛けた。


「『大邪神の加護』の影響もあり、相手にすらされていませんね。

 買うことは難しいでしょう。

 それより私たちを襲う算段をしていそうですね」


俺もそれを感じた。元々トモエのことを、俺を殺して奪おうとした奴らは何人もいた。

全て返り討ちにしているが、これはそういうやつらが増える切っ掛けになりそうだ。


「なら急いで次の町に向かうほうが良さそうですね。

 キャットバスはもう使えません。

 新たに魔物を作りますか?」


俺は少し考え込んだ。このままだと次の町に行っても、同じことの繰り返しになるだろう。


「……そうだな。とにかくこの町を出ることにしよう。

 ところでマリア。お前が奴隷商との交渉をするのではダメなのか?」


『大邪神の加護』を持つ俺と奴隷のトモエを除けば、マリアしかいない。マリアが交渉に臨んだほうが良かったのではないか?


「やめておいたほうがいいですね。

 奴隷商は人物鑑定が使える場合があります。

 私が鑑定されると、魔物であることが分かります。

 主様の下僕ですから、見つかっても言い訳ができます。

 私は主様に使役されている魔物ですと言えば、問題ありません。

 しかし私が奴隷商と主体的に話をすると、その言い訳が使えなくなります。

 むしろ主様を利用しているとみられるようになります。

 危険が大き過ぎるので、避けるべきと考えます」


マリアの実力なら、見つかっても何とか出来る可能性が高い。しかし下手に揉め事を起こすのは避けるべきか。国単位になると、予想以上の実力者もいるかもしれない。

敵は少ないほうがいい。

それにしても人物鑑定か。少し面倒だな。

……もしかしたら王都の奴隷商も俺を鑑定して、『大邪神の加護』に気が付いたのかもしれないな。

あそこの奴隷商は大邪神を信仰していた。とすると同じような奴隷商を探すべきか。


「マリアに魔物を作らせて、まずは帝都に向かう。

 途中で多少の金策を行い、帝都で大邪神を信仰している人間の奴隷商を探すぞ!」


俺は方針を決めると、マリアの魔力を回復することにした。



******



俺たちは巨大な白い狼に乗って、移動している。

今回は特にバスのような座席は無い。巨大な白い狼の上にマリア俺トモエの順で跨っている。

急いで辺境都市ロトフから脱出するために、多少不便でもすぐに走り出せる魔物を作成した。

キャットバスは適正とか色々うまくいったケースらしい。あそこまでになるのは、珍しいようだ。そう思うと、惜しい魔物と別れたと思う。

しかし俺たちは乗っているときの態度が悪いので、キャットバスから嫌われていた。

そういう意味ではどちらにせよ、俺たちはキャットバスに乗れなかったのかもしれない。


「金策についてはどうする?」


俺たちは夕暮れの街道を白い狼に乗って、疾走している。


「金策ですか?

 魔石を売ればいいのではないですか?」


トモエがマリアに聞こえるように、少し声を張り上げて答えた。


「私が生み出す魔石を売るつもりなら、やめたほうがいいですね。

 冒険者ギルドを一度見ましたが、魔石は鑑定されているようでした。

 普通の魔物の魔石なら問題ありませんが、私の作った魔石は危険です。

 色々バレる恐れがあります」


マリアは色々と危険な部分がある。それを誤魔化すために、俺たちが矢面に立つ必要がある。

少し面倒だが、マリアには別の面で非常に助けられている。

あまり短慮に走らないように、気を付けないといけないな。


「そうなると途中で魔物を討伐して、魔石を得る。

 魔石は冒険者ギルドに売って金に換えるというのが、一番まともな策か?」


「ですね。

 他の方法も探す必要がありますが、それが一番簡単な方法でしょう」


俺の提案にトモエが賛成する。マリアも特に代案が無いようなので、しばらくはこの方針で行くしかないようだ。


「……では帝都に向かいつつ、魔物を倒すということでよろしいですね?」


「ああ、それでいこう」


マリアの確認に応えて、俺たちは街道を離れて森の中へと向かうことにした。



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