第17話 一度情報を整理しよう
俺たちのキャットバスの旅は順調に進んだ。キャットバスは四つ足の猫のため、それなりに揺れる。しかし座席などがクッション性のあるモフモフであるため、少し座席に体を沈めるだけのことであった。それはモフモフを感じられて幸せでもあった。
最終的に座席ではなく、床に寝転がりながら旅を進めた。
たまに盗賊などに襲われることもあったが、問題なく返り討ちにして魔物に変えている。
「……そろそろ各自の目的について、一度話し合ったほうがいいと思う」
トモエがキャットバスの中で、そう切り出した。
確かに俺たちの目的はそれぞれ違う。俺のマジカル〇〇〇の力に、トモエとマリアは虜になっている。そのため俺を裏切ることは無いだろう。
しかし彼女たちは彼女たちの目的を果たそうと考えている。それは虜になった後も変わらない。俺に危害を加えることではないからだ。
彼女たちが何をしようとしているか、それを知ることはこれからの行動に大きな影響があるだろう。
「私の目的は『ドラゴンの討伐』。元々はドワーフの戦士として認められるために掲げた目標。でも今は別の意味がある。
以前に負けた汚名の返上。殺された仲間の仇。
私は『断絶』のドラゴンを殺す!」
キャットバスの床に座り込むトモエの眼に、強い炎が宿る。
「『断絶』ですか……。
それはまた面倒な相手ですね」
「『断絶』?」
マリアは聞いたことがあるようだが、俺は『断絶』なんて知らない。
「『断絶』とは聖国と教国を隔てる険しい山脈に住まうドラゴンのことです。
聖国と教国は考えが全くの真逆です。
敵対関係にあるといってもいい。しかし山脈と『断絶』によって隔てられている。
だから聖国も教国も争いをせずに存在していると言えます」
聖国と教国の間に険しい山脈があり、そこに住まうのが『断絶』と呼ばれるドラゴンね。
マリアの説明は分かりやすい。
《『断絶』はいわゆる西洋タイプの竜だな。四つ足で巨大な体と翼を持つ。
ドラゴンには他にも蛇の体に短い手を持つ東洋タイプの龍がいる》
俺はトモエを見る。トモエは身長が130センチ程度で、痩せ型で体の凹凸は少ない。髪は銀色で、長い髪をツインテールに今はしている。目は金色で、耳は人間とは違い少し尖っている。これは恐らくドワーフの特徴だろう。
彼女は急所を皮で守る防具を身に着けており、腰には2本の包丁を持つ。防具は一応鎧ということになっている。ビキニアーマーと同じような鎧であり、露出は多い。森に行ったときなどは鎧の下に、普通の服を着ていたが今は脱いでいる。
キャットバスの中で愛し合うのに邪魔になったからだ。
彼女は『水』と『風』の妖精の力を使える怪力の美女だ。背の低い美女だ。
そんな彼女の目的がドラゴン討伐か。
トモエはマリアを見ている。
「私の目的は『人間の殲滅』。現状では王国と聖国を目標にしている」
《『大邪神の加護』は人間しか嫌悪感を抱かない。そのこともあり聖国の教えを信仰するのは人間が多い。逆に教国は亜人が中心となる。
人間の殲滅を目標にするなら、人間至上主義の王国と創造神信仰の聖国が一番の目標になるだろう》
「そもそも私は魔族によって生み出された魔物です。
主様はご存じかもしれませんが、魔族は魔大陸から出ることができません。
そのため魔族の敵である人間を殲滅するために、私が生み出されました」
《魔族も魔王同様に魔大陸から出ることができない。
その代わりに魔物を使ったということか》
「私の能力は属性を持つ魔石を生み出すこと。
その魔石を埋め込むことで、魔物を生み出すことが出来ます。
私はその力を使って、人間を殲滅するように命令されました」
……少し妙だな。
「何のために?」
俺はマリアに問い掛けて、マリアを見る。マリアは身長が150センチくらいで、太ってはいないが少しふくよかに見える。体型としては胸は大きく、腰が括れており尻も大きい。胸の大きさは巨乳といったところだろう。超乳というほどの大きさは無い。
髪は黒色で長い。後ろは腰くらいまであるだろう。癖もなく真っすぐに伸びている。ストレートと呼べばいいのだろうか。
目の色は黒で、ほぼ人間と同じ。違いというと細長い黒い艶のある尻尾があるくらいか。服装は長袖長ズボンで、服のサイズが少し大きい。そのため隙間から色々肌が見える。
尻尾を服の中に隠しているが、サキュバスである。そのためその姿からは、妖艶さが伺える。
そのマリアは今、少し困惑しているようであった。
「……何のためですか?」
「そう。何のために人間を殲滅する?
勇者を殺すことは分かる。勇者は魔王を殺せる唯一の存在だからだ。
それに勇者は使命として、魔王を殺さなくてはいけない。だから敵だ。
それは分かる。
でも人間を殺す理由が分からない。勇者の仲間は人間ではない。
勇者は『大邪神の加護』を持っているからだ。
むしろ勇者の仲間になり、魔族や魔王の敵になるのは亜人の方だ。
だから教えて欲しい。
何が目的で人間を滅ぼそうとするのかを」
魔王や魔族にとって、人間を殺す理由が分からない。王国も聖国も魔大陸と接しているわけではない。
魔大陸と海を隔てて接しているのは、帝国と聞いている。
何故わざわざ遠い王国と聖国を狙うのだろうか?
特に聖国なんて、勇者を殺そうとする側の国だ。
魔王や魔族は勇者が殺されたら困るということだろうか?
「……残念ながら私は理由を知りません。
ただ人間を殺せとしか、命令を受けていません。
狙うは王国と聖国という風に命令を受けております」
マリアは詳しいことを聞かされていないようだ。
そうなると正解を、この場で導き出すのは難しいだろう。
どちらにせよ、マリアの目的は分かった。
なら次は俺か。
俺は身長が175センチで筋肉質。がっしりとした体格をしている。黒目黒髪。髪は短めにしている。顔はそこまで優れているわけではないが、見れないほどの不細工でもない。普通というのが一番しっくりと来るだろう。
そんな俺の目的は……。
「俺の目的は勇者のハーレムを作るための手伝いだ。
それに尽きる。
俺は大邪神よりそれを行うように命令されている。それ以外に何をすればいいのか、わからない。
だからまずは勇者が生まれる75年後まで生きて、勇者と出会うのが目標になる」
こうして確認すると、3人の目標は特に競合していない。
そのはずだ。
「……勇者の種族は決まっているのか?」
その問いに2人は首を横に振った。
勇者についてはあまり知られていない。そういう存在がいるというだけで、それ以上の情報が無い。
その辺のことも帝国で調べたほうがいいかもしれないな。
魔大陸に接している唯一の国である帝国なら、確実に勇者の情報があるはずだ。
「俺たちは王国内で魔物を生み出しながら、帝国に向かう。その後は『断絶』のドラゴン退治をして、次に人間の殲滅だ。
王国と聖国を滅ぼす。
勇者が生まれる時期になれば、勇者と合流して魔大陸に行く。
魔王を倒して勇者がハーレムを作る。
全員の希望を聞くとこうなったが、何か問題はあるか?」
「……ご主人様としては人間を滅ぼすことについて、何も抵抗はないのですか?」
「王国と聖国は勇者にとっても、俺にとっても害悪だ。
だから滅ぼすことに問題はない」
最初の村のブレードと村長には感謝しているが、それ以外の人物はあまり良い印象が無い。むしろ悪い印象がある。
『大邪神の加護』を持っている俺にとって害悪ですらある。
「……私は主様の決定通りでよいと思います。
しいて言えば、途中仲間を増やすべきだと思います。
ドラゴンは強敵です。まずは帝国に行くまではいいと思います。
その後に仲間を求めるために、エルフドワーフ連合国や獣人連邦に向かうのも有りかと思います」
マリアの意見を聞いて、俺はトモエを見た。
「……確かに戦力的に少し厳しい気がする。
私たちは職業的には、戦士と武闘家と僧侶になる。
そうなると後は魔法使いが欲しいところかな」
妖精の協力や魔物使役があるが、ドラゴンを相手の場合だと厳しいらしい。
ドラゴンに妖精は怯えるし、魔物も本能的な恐怖で使えないと考えたほうが良いらしい。
そのため火力となる職業の仲間を増やすのも、必要になるのかもしれない。
俺たちは情報の整理を終えた後に、快楽を貪ることにした。
「……盛り過ぎだニャ」
背中の上で激しい運動を始めた俺たちに、キャットバスが適切な苦情を告げた。
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