第16話 読まれてなければ何を書いても大丈夫



俺たちは今、バスの中にいた。といっても魔物『が』バスである。

巨大な猫の魔物背中がバスのようになっていた。


『キャットバス』


ちなみに猫は普通に四つ足です。

マリアは新たに作り出した魔物の名前を、そう名付けた。

どう考えてもヤバい。

アウトのような気がする。でも大丈夫だろう。

この小説を読んでいる人間はほとんどいない。だから問題ないはずだ。


《メタ発言やめろ!》


コピーに怒られるような事態になったが、マリアは何者なのだろうか?

地球の知識を持っている?


《それは無い。ただの偶然だろう》


そういうわけで俺たちは辺境都市から離れることにした。

マリアを仲間にした以上、ブレードたちに会うことは許されない。

それに俺が辺境都市ハンブクにこれ以上いるのも危険だ。

前金はそれなりに貰っているため、金銭的には余裕がある。

元々金を貯めていた理由としては、馬車による移動を行うためである。

乗合馬車で町から町へと移動するために、俺たちはお金を貯めていた。

しかし俺たちにはキャットバスがある。これに乗って移動すれば、馬車の代金はかからない。


「これでしばらくは安全に移動できるな」


「そうでしょうか?

 乗合馬車とは違い、護衛の冒険者がいません。

 魔物や盗賊への対応は、自分たちで行う必要があります」


トモエが懸念事項を告げた。


「でもキャットバスは魔物ですよ?

 それにこの子はそれなりの実力を持っています。

 そのため魔物に襲われることはありません。

 盗賊については、難しいですね。

 見た目から、襲われない可能性もあります。

 その一方で、とりあえずで襲われる可能性もまたあります」


でもまぁ……。


「盗賊くらいなら、トモエやマリアがいるから大丈夫だろう?」


俺は二人の実力を当てにしていた。

トモエは魔力の消費が激しい妖精を使う戦士。武器は包丁2本。業物である。

マリアはやはり魔力の消費が多い魔石使い。魔力から魔石を作り出して、それを魔物や動物に与えることで新たな魔物を作ることができる。

『風』属性の魔石をゴブリンに与えて、エレメントゴブリンアサシンが生まれた。

同じく『風』属性の魔石を猫に与えることで、キャットバスが生まれた。

新しく生まれる魔物は、ある程度マリアの思い通りに作ることが出来るらしい。

ゴブリンの場合は暗殺者。猫の場合は移送能力特化などだ。

そしてマリアがいる間は、マリアの言うことを聞くらしい。

つまり置いてきたエレメントゴブリンアサシンは、ブレードが始末することを祈るしかない。

マリア自身は魔石を生み出す能力以外に、拳士としてもかなりの実力を持っているようだ。

その辺のことは俺には分からない。

でもこの二人がいれば、普通の盗賊程度なら問題ないだろう。


「まぁ……確かに盗賊程度なら何とかなるでしょう」


トモエが少し照れながら答える。俺がトモエの実力を当てにしていることを、嬉しく思っているのだろう。

俺たちはキャットバスの中で寛いでいた。キャットバスは猫が魔物に変化したもののため、基本モフモフである。

今座っている座席も床も材質は猫の肉体である。ある程度丈夫になっているが、温かさがありとてもいい手触りだ。

俺たちはバスの一番最後部にある広い座席に腰かけていた。

右隣にはトモエがいる。左隣にはマリアがいる。

俺は皮の鎧を着ているトモエの頭を撫でながら、寛いでいる。

マリアの方はぴったりとした服だと尻尾が隠せないので、俺が複製した俺と同じ長袖長ズボンを着ている。

マリアは俺よりも体が一回りくらい小さい。胸や尻は大きいが、全体を見れば俺のほうが大きい。

そのため服に多少の隙間がある。俺はその隙間に手を差し入れて、マリアの体を直に撫で回していた。

トモエの方も皮の鎧は動きが制限されないように、色々露出している部分がある。俺はそこや少しの隙間から、色々とトモエを撫でることにする。

俺はこのバスの旅を、とても楽しんでいた。



******



「……囲まれてますニャ」


魔物であり乗り物であるキャットバスが、その場に止まってそう口にする。

このキャットバスという魔物は、人語を理解する程度の知能を持たせているらしい。

そのため俺たちとは言葉でコミュニケーションを取ることができた。


「囲まれている?相手の数は?何者ですか?」


トモエは席から立ち上がると、キャットバスに確認しながら包丁を構える。


「敵は人型の生物ニャ。数は8ニャ」


よく見るとキャットバスの周りには矢が落ちている。

トモエが『風』の妖精に矢避けを依頼しておいて、助かったようだ。

矢を見れば、敵が盗賊の可能性が高いとわかる。

ちゃんとした鉄製の矢じりなどが付いているところを見ると、敵は人間だろう。


「その変な魔物の中に誰かいるのか!?

 大人しく出てこい!

 さもないと殺すぞ!」


周りから威勢の良い声が聞こえてくる。

確実に盗賊だな。

俺たちは街道沿いを進んでいたが、今は街道が森の中を近くを通っていた。盗賊たちは森に隠れて獲物を物色しているのだろう。

このままキャットバスの外に出るのは、あまり良い考えではないだろう。

目の前に3人盗賊が現れて、後ろにも2人盗賊がいる。つまり3人は隠れているようだ。

俺はトモエを見る。


「『風』の妖精よ」


風の斬撃が盗賊8人を襲う。妖精にとって隠れている盗賊を見つけることは、とても簡単なことだ。さらに油断している盗賊を殺すことも、とても簡単なことだ。

俺たちはキャットバスの中から出ることなく盗賊を始末すると、再び帝国に向けて進み始めようとする。


《盗賊の仲間殲滅イベントはどうする?》


コピーが変なことを聞いてきた。

それって俺たちに関係のあることなのだろうか?


「……少し待っていただいてもよろしいですか?」


マリアが口を開いた。


「何かあるのか?」


「いえ、せっかくですので魔物を作っておこうと思いまして」


マリアが手のひらから魔石を生み出した。


「どうして?」


俺には魔物を生み出さなければならない理由が分からなかった。


「私は生みの親の魔族から人間を滅ぼすために活動するように、言われておりましす」


マリアは妖艶に微笑んだ。


「……盗賊がいるような場所だから、魔物がいたほうがまだましかもしれない」


トモエは人間に奴隷にされていたことから、人間に対して良い感情を持っていない。

さらに今回の相手は盗賊だ。盗賊を魔物に変えて盗賊のいるような場所を魔物の支配地域にすることは、トモエにとって許容範囲内のようだ。

俺も特に反対する理由がない。

コピーの発言から盗賊には仲間がいるようだし、それを殲滅させるためにも魔物を放ってもいいだろう。

俺の仕事は人間を救うことではない。

勇者のハーレムを作るための手伝いをすることだ。

魔物が暴れることについては、俺に被害が無ければ特にどうと思わない。


「トモエは辺りを警戒してくれ。

 マリアはその間に魔物を作ってくれ。

 俺はマリアとトモエの魔力を回復させる」


俺たちはキャットバスから降りて、作業を開始する。


「……そういえば盗賊には仲間がいるかもしれないけど、そっちはどうする?」


「探すのも面倒ですから、マリアの魔物に任せればいいのではないですか?」


「そうですね。

 それなりに強い魔物を作りますので、そちらは作り出される魔物に任せましょう!」


マリアは姿を現していた盗賊の死体に魔石を埋め込むと、魔石を発動させた。


「今回は素体が死体ですので、ゾンビ系統の魔物になります。

 『毒』の魔石を埋め込みましたので、ポイズンゾンビです。

 この辺り一帯に毒の霧をまき散らす、強力なゾンビです。

 私たちは巻き込まれないように、できるだけ早くこの場から立ち去りましょう!」


俺たちは早速キャットバスに乗り込むと、その場から急いで立ち去ることにした。

ポイズンゾンビの毒はかなり強力らしいが、俺やトモエには通用しない。

『風』の妖精は毒を吹き飛ばすし、俺は回復があるので体の毒は無力化できる。

それでも毒があるのは気分がいいものではないため、急いでその場から立ち去ったのだ。

5体のポイズンゾンビがなんの命令を受けることなく、その場に取り残さることになった。



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