第14話 優勢からの大ピンチと話し合い



ブレードとゴブリンジェネラルの戦いは一方的であった。

ゴブリンジェネラルはゴブリンの中でも上位に属している。キングの次くらいの実力者だ。

しかしブレードには通用しなかった。そもそも木の棒で大剣を、どうにかできるわけがない。

少し打ち合った後、ブレードの一閃でゴブリンジェネラルは倒された。



******



トモエとゴブリンジェネラルの戦いはブレード以上に、すぐに決着がついた。

最初の一撃でゴブリンジェネラルの首が、トモエの包丁によって斬り裂かれる。

ハッキリ言えば、トモエの相手ではなかった。



******



ハインツは一番苦戦していたといえるだろう。

ゴブリンジェネラルの攻撃を、ハインツは全て躱していた。

木の棒の攻撃であっても、ハインツの細い剣で受けることは難しいのだろう。

むしろ異常なくらいの頑丈さを誇るトモエの包丁の方がおかしいのだ。

しかしハインツは全ての攻撃を余裕をもって、躱している

やがて大きな隙を見せたゴブリンジェネラルを、ハインツの剣が串刺しにした。

その一撃が致命傷になり、ゴブリンジェネラルは地に倒れ伏せる。

少しヒヤッとする場面もあったが、無傷の勝利であった。



******



ゴブリンジェネラルとの戦いは、全てこちら側の勝利で幕を下ろしている。

俺が警戒する範囲では、敵はこれ以上確認できない。


「……全員無事に終わったようだな。

 ネトリ!敵は他に確認できるか?」


「いいえ。確認できません」


俺の回答を受けて、ブレードが考え込む。


「……妙だな。こいつらは予想以上に弱かった。

 他に仲間がいるのか?

 それに精霊や妖精がこいつら程度で撤退するとは考えにくい……」


ブレードの体から剣が生えて出た。……いや、ブレードが剣で貫かれていた。

誰だ?敵は感知していない。姿が見えない。

隣を見ればトモエの首が落ちている。ハインツが血を流して、その場に倒れていた。


「……どういうことだ?」


俺は状況を理解できないが、とりあえず防御態勢を取る。

何故そうしたのかはわからないが、俺は防御態勢を取っていた。

そのおかげで、俺は両腕を斬り裂かれるだけで済んだ。


「回復!トモエ!ブレード!ハインツ!」


俺の首が宙に舞う前に、3人の黄泉返りを行うことができた。

そして俺の意識は徐々に消え去ろうとしている。

だから俺は落ち着いて回復魔法を使う。

俺は知っている。首を切断しても、すぐに意識が無くならないことを。

ならそのわずかな時間で、体を再生すればいい。

俺にはそれができる。トモエのおかげで練習する機会は何度もあった。

練習の成果を今こそ見せるとき!


「……死ぬかと思った」


俺は首から下を回復魔法で再生させた。近くには俺の首から下の体が落ちている。

周りを見渡せば、3人が黄泉返りの状況を理解できずに少し固まっていた。


「敵だっ!!姿が見えないっ!!対応急げっ!!」


俺が叫ぶのと同時に、心臓に痛みが走る。心臓が貫かれている。

刃が抜かれるのと同時に、俺は傷を再生する。

それにしても俺はまだ裸のままだ。体の再生と服の再生は同時にできない。

服と木の杖を再生するか。いや、服だけでいいだろう。木の杖はまだ残っている。


「『風』の妖精よ!」


「『風』の精霊よ!」


トモエとハインツが妖精と精霊に強く命令している。

それと同時に、3体のゴブリンが現れた。

姿形は普通のゴブリンのように見えるが、肌の色が黒い。目も黒い。黒色のゴブリンである。


「ゴブリンアサシンか……」


ブレードが大剣を構える。

姿を現したゴブリンを3人が倒そうとするが、奴らは素早く逃げていった。


「深追いはするな!こちらも一旦体勢を立て直すぞ!!」


ブレードの指示で逃げるゴブリンを追うことは無く、戦闘は終了した。

敵は予想以上に強い。そのことを痛みをもって分からされた。



******



ゴブリンアサシンの襲撃後、俺たちは一旦休憩を取ることとなった。

流石にこのまま進むのは危険過ぎる。一度情報の整理が必要だ。


「……あいつらはただのゴブリンアサシンではありません。

 精霊もしくは妖精の力を持っていました。

 いうなら、エレメントゴブリンアサシンです」


ハインツが敵について気が付いたことを口にする。トモエを見ると大きく頷いており、ハインツと同じ考えのようだ。


「精霊の力を使えるとはどういうことだ?」


ブレードが疑問を呈した。


「どうやって生まれたかはわかりません。

 ただあいつらは『風』の力を使い、体と隠していました。

 俺たちが不意を突かれたのは、そのせいです」


「……魔法使いの可能性は?」


「ありません。

 『風』の精霊にも確認しています。あの力は私たちと同種の力だと言っています」


精霊または妖精と同種の力。つまり魔力生命体か。

その力が使えるゴブリンということか。


「……疑問なんだだが、そんなゴブリンは自然に発生するものなのか?」


俺の口から疑問が零れる。

それに奴らの扱っていた剣は、それなりの品質ものものであった。

3体が全て同じような剣を持っていた。普通それはあり得ない。

ゴブリンには剣を作るような技術力は無い。なら冒険者から奪った考えるのが妥当だ。

その場合、同じ剣を3本奪ったということになる。

冒険者は基本的に兵士と違い、それぞれ好きな武器を持っている。

同じパーティメンバーでも武器は違う。剣を持っていても、それぞれ違う剣を持っている。

そうなるとどうやって同じ剣を集めたのだろうか?


「それに奴らの武器は統一されていた。

 おかしくないか?」


俺の疑問に全員が黙り込む。

おかしい。おかしいことが多過ぎる。


「……誰かが裏で糸を引いている?」


誰の呟きかはわからない。しかしそれを聞いたときに、全員が顔を上げた。


「武器については誰かが準備して、それを渡したからか!」


「精霊もしくは妖精については、術者が別にいたと考えれば納得がいく。

 ゴブリンアサシンは、そいつの命令を聞いていただけだろう」


俺たちは口々に推測を述べていく。


「なら犯人は……」


「エルフですね」「ドワーフだな」


トモエとハインツの声が重なった。


「エルフでしょう?

 『風』を使うのはエルフの特徴です!」


「ドワーフだろう?

 武器を作るのはドワーフだ!」


トモエとハインツは二人で顔を突き合わせている。


「……その意見を聞く限りは、エルフが関与しているみたいんだな」


ブレードの声に、ハインツが振り向く。


「ブレードっ!?」


「ハインツ。落ち着け!

 武器なら人間でも作れるし、金で調達が可能だ。

 それより『風』を使うのはエルフの特徴なのだろう?」


それを聞いてハインツが顔を歪ませた。


「そうですね。

 普通のドワーフは『火』か『土』を使います。

 エルフが使うのが『風』と『水』です」


……あれ?トモエはドワーフだが、『風』と『水』を使うぞ?


「例外はありますが、あまり見たことがありません」


ハインツの声に俺は首を傾げる。


「……ご主人様。

 私はかなり珍しい例外です。

 そのこともあり私のことを幼いエルフと誤解して、ご主人様が襲われたのだと思います」


俺はハインツを見た。


「確かにその通りだ。

 俺はドワーフでなく、幼いエルフと誤解した。

 だから幼いエルフを襲ったお前が許せなくて、心臓を貫いたんだ。

 誤解していた。すまない」


ハインツが軽く頭を下げた。


「いえ、大丈夫です」


相手が貴族であるため、そこは流しておく。


「そうなると今分かっているだけで、敵はゴブリンアサシンが3体。

 それとエルフが一人以上ということか?

 既にゴブリンジェネラルは3体倒している。

 目標達成として、帰るわけにはいかないのか?」


もし次があれば敵は確実に俺から狙ってくるだろう。

当初の目標を達成したことにして、今すぐに逃げ出したい気分だ。


「いや、今の戦力なら倒せる相手だ。

 今のうちに倒したほうがいいと思う!」


俺の意見にハインツが反対意見を述べた。俺たちの目がブレードへと向けられる。

この臨時パーティのリーダーはブレードだ。

当然の人選だ。

なら最終判断はブレードが行うことになる。


「……ネトリ。お前は俺たちを黄泉返らせたようだが、何度も可能か?

 それと黄泉返りが出来なくなる条件は?」


俺はリーダーの質問に真面目に答えた。この回答で俺たちの方針が決まるからだ


「何度も可能だが、一日以上経つと出来なくなる。

 それと俺が死ねば、復活までは一日かかる。

 つまりお前たちは黄泉返りが出来なくなる」


「そうか……」


ブレードは考えこんだ。


「よし!一度引こうっ!!」


ブレードが決断する。


「ブレードっ!?」


「ハインツ。まぁ聞け。

 現状危険が大き過ぎる。俺たちだけで対処できる範囲ではない。

 戦力を整えて、再度挑戦すべきだ」


「しかしこいつらはこれ以上滞在させることができないのだろう?」


「こいつらの力は強力だが、町にはこいつら以上の冒険者がいる。

 領主の協力を得て、対応すればどうとでもなる」


なるほど。ハインツは犠牲が少なく、速度を重視したわけか。

ブレードは犠牲が出るが、確実な解決を目指すわけだな。

一見ハインツのほうが良いと思えるが、全滅の恐れがある。そうすればせっかくの情報まで、失うこととなる。

それに比べれば、確実性を取ったブレードのほうが賢いと言える。

ついで言えば、俺たちにとっても都合がいい。

これ以上この争いに付き合わなくて済む。


「決定権は俺にある!

 一度撤退して、戦力を整えたうえで再度攻撃を仕掛ける!」


「それだと面白そうじゃないから却下です!」


ブレードの決定に異を唱えたのは、いつの間にか現れた青肌の美女。

肌よりも濃い青の長い髪を靡かせて、ぴったりとしたボディスーツのようなものを着た女性が近付いてくる。よく見れば細長い尻尾も生えていた。

何故女性と分かるのかって?

それは体型である。胸!腰!尻!この全てが彼女が女性と教えてくれる。


「……何者だ?」


ブレードが大剣を構えながら問い掛ける。彼女は明らかに人間ではない。

獣人やエルフとドワーフのような亜人でもない。

なら魔族か?しかし魔族は魔大陸から出られないはずだ。

正体不明の美女を前に俺以外が、戦闘態勢を整えている。

それに対して青肌の美女はニッコリと笑うだけであった。



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