第13話 森の探索と探索目標について



結局俺たちは、今いる魔物たちの討伐を手伝うことで決着がついた。

念のためにトモエにも妖精に確認してもらったが、妖精は魔力濃度の調整を拒絶した。

俺たちがスタンピードを待つことは、『大邪神の加護』の関係で不可能であるとブレードは判断している。

恐らく森の中にいても、あと数日が限界とのことだ。ある程度近くにいると、不快感を感じるらしい。

既に冒険者の中には俺たちに対して、襲撃を計画している者もいたそうだ。

そのため魔物の討伐は俺とトモエとハインツとブレードの四人で行う。四人で臨時のパーティを組み行うこととした。

他の人間をパーティに入れれば、俺の襲撃を行いかねないとの判断だ。


「……それで今回の目的はどこまでにするんですか?」


残された時間が少ないため、臨時パーティは既に森の中を進んでいる。

俺の回復魔法についてもある程度説明しているため、準備はほとんどなく森の中へと潜っていた。

俺の質問にブレードが答える。


「今回の目標は核の魔物だ。もしくはそれに類するものだ。

 つまりキング種の討伐を目標としている。

 キング種が見つからない場合、ジェネラル種の3体以上の討伐を目標としている」


キング種とはゴブリンキングやオークキング、オーガキングなどの『キング』の名の付く魔物のことを指す。ジェネラル種も同様である。


「この魔力濃度では考えにくいが、ジェネラル種も見つからないようなら別の目的をその時に設定する。

 しかしその可能性は極めて低いと考えておいてくれ」


つまり経験則からキング種が発生している可能性は極めて高いということか。

俺たちは先頭をブレードが歩いていた。その後ろをトモエ。俺はトモエの後ろで、殿をハインツが務めている。

俺がトモエやハインツにすぐに回復魔法で魔力を回復させるために、この隊列になっている。


「……そういえばハインツが保護している亜人は今回のパーティに連れてこなかったのか?」


俺は少し気になったことを、ハインツに確認する。


「あいつらは愛玩奴隷であり、戦闘奴隷ではない。

 残念ながら足手まといにしかならないだろう」


「そうか。そういうものか」


「そもそも戦闘奴隷は通常は酷い待遇になることは無い。

 酷い待遇だと、戦うことができなくなるからな」


「……俺のところも戦闘奴隷なんだが?」


俺は戦闘奴隷なのに酷い扱いをしていると、みられていたのか?


「お前のところは別だ。

 幼い少女に手を出す変態と有名だったからな。

 戦力が必要な状況もあり、お前を襲うことにしたんだ」


ハインツの言いようから、俺を襲ったことを反省も後悔もしていない様子だ。

やはり貴族というものは、勝手なものである。


「それにしても、まだ余裕がありますね」


俺たちの先頭を行くのは英雄ブレードである。英雄の名は伊達ではない。

確かにこの辺境地にはブレードよりも強い人物が、実はいるのかもしれない。しかしブレードが英雄と呼ばれるのに、十分なほど強いことは事実である。

そのため今のところ散発的に表れるゴブリンについては、ブレードと妖精や精霊で十分であった。


「精霊も俺たちの警護を頑張っているからな。

 ……その分魔力の消費は大きいが」


俺はトモエとハインツの魔力の補充で、それなりに忙しくしている。

その上ブレードについても回復を行っている。

のどの渇きや食事についても、俺の回復魔法で誤魔化している。睡眠も同様だ。

電気の代わりに魔力で動く魔道具があり、懐中電灯のようなものを使用して夜も行動した。

それにより俺たちは眠ることなく、先へと進み続けていた。


「……参考までに前回のキング種はなんだったんですか?」


前を歩くトモエがブレードに尋ねる。


「前回はオークキングが核となっていた。

 といっても魔物の群れの中は、オーク以外も多くいた。

 ゴブリンやウルフ等、多くの種類がいた」


「オーガはいましたか?」


「ああ、オーガもいた。ジェネラルオーガだった。

 もう少しでオーガキングになっていたのかもしれん。

 それと複数のゴブリンキングが存在していた。

 俺が英雄と呼ばれているのは、オークキングを倒したからじゃない。

 オークキング『も』倒したからだ。

 ゴブリンキングとオークキングを、俺は仲間とともに倒している」


仲間?……そういえば、ブレードの仲間はどうした?


「ブレード。あんたのその時の仲間はどうしたんだ?

 いるのなら今回も手伝ってもらうわけには、いかないのか?」


俺はふとした疑問をブレードへとぶつける。


「……仲間はすでに引退している。

 その時の戦いは激戦だった。

 その時の傷で何人かの仲間は引退し、その後に残った仲間も引退した。

 正直に言えば、俺もそろそろ引退する予定だった。

 それに今回はネトリがいるからな。どっちにしろ無理だ」


ブレードは両手で大剣を握っている。

……俺が町で聞いた英雄譚では、英雄は大剣を片手で扱っていた。

ブレード自身も老いによる衰えが、出てきているようだ。


「……それでもブレードは俺たちの英雄です。

 俺たちにはまだ英雄が必要です。

 今回はまだスタンピード前です。そこまで強力なキング種はまだ生まれてないでしょう」


ハインツがブレードの言葉で悪くなりかけた空気を一掃する。


「……すまんな」


「問題ありません。

 それにこいつのおかげで精霊が元気に魔物を殺しています。

 こいつの力はすごいです。

 町の警護のために、ずっといて欲しいくらいです」


「それは無理だな。

 お前は『大邪神の加護』の不快感を感じないから、そんなことが言えるんだ」


ハインツの提案をブレードがきっぱりと拒絶する。


「お前の父親である領主も同じ考えだっただろう?」


「そうですね……。

 これ以上は耐えることが難しいとのことでした。

 下手すれば、住民の反乱すらあり得るとも言っていました」


「そういうことだ」


それにしても俺の意志は全く無視である。

やはり貴族というものは勝手である。

俺たちは精霊と妖精の力で、魔物を倒しながら進んでいる。

倒すのを優先して、魔石の回収は行っていない。

精霊と妖精の攻撃から逃れた魔物も、ブレードが倒している。

現状は順調に推移していた。


「……そろそろかな」


ブレードの声色が変わる。先程までと打って変わり、かなり真剣な様子である。

魔物の知性はその魔物が生まれるときや成長するときに使用した魔力の量と比例した。

魔力をたくさん食べた魔物が、賢い魔物である。

それと同時に魔力をたくさん食べた魔物は、強い魔物でもあった。

統率ができるような魔物は当然賢い。それはすなわち、強い魔物でもあった。


「『風』の妖精が撤退しました」


「『風』の精霊も撤退した」


妖精や精霊は自分たちだけで勝てないような強い魔物相手の場合は、戦うことをやめて逃げ出す時がある。

魔物は妖精や精霊を食べる場合があるからだ。

つまりここから先は、かなり強い魔物がいるということ。


「敵の数は三。恐らくゴブリンジェネラル。

 来るぞ!」


ブレードは大剣を構えながら、注意を促した。トモエは両手に包丁を構え、ハインツも細い剣を構えている。

ここは森の中。幸い時間は昼過ぎのため、まだ明るく視界は効く。

木々が邪魔で大剣を振り回すのは少しやりずらそうだが、トモエの方は問題ない。

俺は当初の予定通りに、ハインツの元まで下がる。それに合わせてハインツが前に出ている。

ゴブリンジェネラルたちは、ゆっくりと歩いてこちらに来ていた。

俺の目にも奴らが映る。

ゴブリンジェネラルは成人男性くらいの大きさで、筋肉がしっかりと着いた体つきをしている。

肌の色は緑で目が赤い。そこは通常のゴブリンと同じようだ。

武器は木の棒。恐らく武器を作るような技術を持っていないのだろう。


「一人一体。何とかなりそうだな」


ブレードはゴブリンジェネラルを見て呟く。当たり前だが、俺は数に入っていない。その分荷物を大目に持っていたりする。

戦闘は3人に任せつつも、俺は周囲の警戒を行う。特に後方注意だ。

別の敵が現れれば、殺される可能性がある。

俺は周りを警戒しつつも、3人の戦いに見守っていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る