第12話 方針を決めることは難しい
「まず確認なのだが、ネトリはハインツの魔力を回復できるのか?」
ブレードが俺たちが協力する前提で、話を進めてきた。
俺の能力を把握しておきたいのだろう。
「……トモエ以外で試したことはありませんが、恐らく可能と思います」
俺はそういって、ハインツを見た。
ハインツは俺の言いたいことを察知して大きく頷く。
「そうだな。一度試してみてくれ」
俺はハインツの細い体に手を触れると、魔力を回復させるように回復魔法を行使する。
……ハインツはかなりの魔力量を持っているようだ。
かなりの量の魔力をハインツに譲渡する。
《少し勘違いをしているようだから教えてやる。
回復魔法で回復できる量は、実際はかなり少ない。
ハインツの回復した魔力量は、お前が使用した魔力量の100分の1以下だ》
なるほど。魔法で魔力の回復を行うのは、かなり効率が悪いのか。
それなら魔法で魔力の回復させることが珍しいことも納得である。
「……お前本当に化け物だな」
ハインツの俺を見る目が、別の意味で変わった。
「どうした?」
「ほぼ空だった俺の魔力が完全に回復した……」
ブレードも俺を睨みつける。
「回復魔法で魔力を回復させるのは、ほぼ実用的でない。
それくらいしか魔力の回復はしないとされいる。
こいつの回復魔法で俺の魔力が完全回復した。
つまりこいつの魔力量は、信じられないくらい多いということだ……」
ハインツは少し顔が青褪めていた。
「勇者にそんな力があるなんて、聞いたことが無いぞ。
ついに大邪神が本気を出したということか」
ブレードの俺を見る目が、かなり厳しいものへと変化する。
《勇者は『大邪神の加護』を持つといっても、魔王を倒せる以外は普通の人間だ。
それに比べれば、お前はかなり強力な力を持っているように見える。
そういう評価がされるのも当然だろう》
「流石は私のご主人様です」
トモエが誇らしげそうに、俺のことを見ていた。
「……ところで、他の魔法は使えないのか?」
ハインツの質問の意味が一瞬理解できなかった。
「どういう意味だ?」
「つまり回復魔法以外は使えないのかと聞いている!」
……そんなことは考えてこともなかったな。
《無理だな。お前には回復魔法以外の魔法はほぼ使えない。
使えたとしても初級魔法程度だ》
つまり……これは上級魔法ではない。初級魔法だ。という感じか?
《違う。本当に威力のない初級魔法しか使えない。
それすら覚えられるかも分からないレベルだ》
残念。
「どうやら使えないようです。
その才能も全くないとのことです」
「ふむ。……先程から少し黙る時間があるようだが、大邪神の意志と交信できるのか?」
「えっ?……ええ、まぁ」
「なら聞いて欲しいことがある」
「断る」
?俺の口から勝手に言葉が零れ出た。
「大邪神の意志を利用しようとするな。大邪神の知識を求めるな。
それは許されざる行為だ。
大邪神に仕えるものが、この者の口を利用して警告する。
決して答えることがないことを知れ!」
俺の口から、俺の意志に反した言葉が発せられる。
これはコピーの仕業か?
《そうだ。あくまでも俺のはお前の監視と協力を行うものであり、他のものに利用されるような存在では無い。
サービスもお前に対してのみ行う行為だ。
他のものの頼みなど、応えるはずがないだろう》
よくわからないが、譲れない一線というものがあるみたいだ。
周りを見ると、3人が茫然自失となっている。
「おい!どうした!?」
俺が声をかけると、3人とも止めていた呼吸を再開し始める。よく見ると3人とも冷や汗をかいているようだ。
「……今のは、大邪神の従者か?」
呼吸を整えながら、ブレードが尋ねてくる。
「まぁ、似たようなものだ」
実際は大邪神の複製らしいが、細かく説明する必要もないだろう。
「ご主人様。先程の瞬間、恐ろしい力をご主人様から感じられました。
ご主人様は何も感じられませんでしたか?」
「いや、全く」
「……そうですか。いえ、なんでもありません」
どうしたんだろう?
《先程お前の体を借りたときに、少し脅しをかけた。
この世界の生物なら誰でも恐れを感じるような力を見せただけだ》
なるほど。そういうことか。
言葉だけでなく力を示して警告したということか。
「……お前たちにスタンピードの協力を依頼する。
それ自体は問題ないのだな?」
ブレードが口を開く。
それに対してコピーは何も言ってこない。
どうやら問題がないようだ。
「ええ、問題ありません」
気が付くと、俺自身が協力すると言っていた。まぁ仕方ないかな。
「……すまん。それは助かる」
「それでスタンピードについて、何時起こるとかは分かっているのですか?」
現状スタンピードが起こることしか、俺たちは聞いていない。
どういう作戦を取るかも不明だ。
「正確なところは分からない。
ただ前回の状況から判断すると、1か月以内というところだ」
1か月か……。少し長いな。
「俺は『大邪神の加護』を持っていいます。ここは人間が住む町です。
1か月もこの町に逗留すると、問題になるのでは?」
「それもあるか……」
ブレードが考え込んだ。
「……私にはよくわからないのですが、そんなに我慢ができないものなんですか?」
ハインツが落ち着いてきたのか、ようやく口を開いた。
「ああ、これは我慢ができないものだ。
少しくらいなら耐えきれるかもしれないが、期間が長くなれば無理だな。
余程強力な『洗脳』などを行えば可能かもしれないが、ネトリを1か月もこの町に置いておくことは無理だ」
ブレードは断言した。それはそれで悲しいものがあるが、それが現実のようだ。
「ならスタンピードが起こってからの対処ではなく、起こる前に対処しましょう。
今のうちに核となる魔物を見つけて、退治すればいいはずです」
「その方法はなぁ……」
ブレードは少し考えこんでいる。
「何か問題でも?」
ブレードの様子を見て、ハインツが疑問を呈する。
「スタンピードが起こる前に核の魔物をらしきものを倒しても、核の魔物が新たに生まれる可能性があるらしい。
それに強い魔物が残ったままになる。核の魔物を倒しても、魔物の協調性が無くなるだけで魔物自体は残るんだ」
核の魔物はスタンピードの中心にいるだけで、いなくなれば全てが解決する存在では無いらしい。
《スタンピードの原因は魔力濃度の増加だからな。魔力濃度が増加し、魔物の質と数が増加することによってスタンピードが発生する。
核の魔物が失われても、統率が消えるだけで攻撃が収まるわけじゃない》
「結局のところ、魔力濃度の増加がスタンピードの原因なんですよね?」
トモエが少し考えこんでいる。
「何か案があるのか?」
「魔力濃度の問題なら、妖精や精霊で解決できるのではないですか?」
「えっ!?」
ハインツがかなり驚いた顔をしている。
「……そうか、あなたのエルフの親は奴隷でしたね。
だから教えてもらえなかったようですね」
「……どういうことだ?」
ハインツの声は震えていた。
「妖精や精霊は魔力濃度を調整することができるんですよ。
ですのでスタンピードが起きないように、魔力濃度を下げればいい。
後は今いる強い魔物さえ狩れば、問題は解決です」
「そんな方法が……。
『風』の精霊よ!
……え?どうして?」
「どうしました?」
どういうことか分からないが、ハインツはショックを受けているようであった。
「おい、ハインツ!しっかりしろっ!!」
ブレードがハインツの肩を大きく揺らす。
「……精霊が拒否しました。
この国のために働きたくないそうです……」
「なるほど。この国は自分たちの子であるエルフやドワーフを迫害する国ですからね。
拒否するのも納得です」
トモエは一人で納得している。
「どうにかならないのか?」
ブレードがトモエに尋ねる。
「無理ですね。
妖精や精霊には意志があります。
それをどうにかすることができるものはいません。
いるとすれば、それこそ大邪神か創造神くらいでしょう」
そうなると作戦はまた一から練り直しになるわけか。
話し合いはもう少し続きそうであった。
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