第10話 辺境都市ハンブクでの襲撃者



俺たちはまだ王国内にいる。流石に王都からは移動したが、まだ王国の中にいた。

理由は簡単。金がない。

流石に帝国は遠くにあるため、歩いて向かうわけにはいかない。

俺たちは帝国まで行くための馬車の代金を稼ぐために、今日も辺境で魔物を狩っていた。


「……流石に辺境まで来ると、魔物の実力が違いますね」


今日も辺境の森の中を魔物を殺すために歩き回っていた。


「同じゴブリンでも、王都周辺のものと比べるとかなり違います」


辺境の森のゴブリンと、王都周辺に生息しているゴブリンでは実力が違うらしい。

俺も何度か止めを刺したことはあるが、まともに戦ったことは無い。

正直実力の違いについては、全く理解ができなかった。


《説明してやる。魔力濃度の違いによるものだ。

 魔物は生まれるときや成長するときに魔力が必要になる。

 空気中の魔力濃度が高いほど、そこに生息する魔物は強力になる傾向がある》


コピーの説明によれば、ゴブリンの強さは違っているようだ。


「……ご主人様。次、来ます」


今は昼だが森の中のため、少し薄暗い。そこへ多数のゴブリンが登場する。


「『風』の妖精よ」


トモエの呟きと共に、強力な風が次々とゴブリンを襲う。俺はその様子を見ながら、トモエの魔力と体力を回復する。そろそろ空腹も回復させる。

俺たちは森の中に何日か籠っているが、水も食料も準備していない。

そもそも『水』はトモエの妖精の力で何とかなる。食料は俺が回復すれば、空腹も回復させることができる。

衣服や体の洗浄はトモエの『水』の妖精が行ってくれる。乾燥は『風』の妖精が行うことができる。

俺たちは軽装で森の中を何日も、戦い続けていた。


「……そろそろ町に戻るか?」


俺の回復は精神的なものを回復することができる。そのためずっと森の中にいても問題はない。しかし魔石の換金等は町でしか行うことができない。


「……大丈夫ですか、ご主人様。

 町中はどちらかというと……」


正直に言えば森の中のほうが安全に思える。町中には人間がいて、俺は『大邪神の加護』で人間に憎まれている。

それに俺がトモエを連れていることも問題だ。

トモエは銀髪で金眼の小学生低学年くらいの体の美女である。

首には奴隷の首輪がある。

町で俺を見る人間の眼差しはとても冷たい。

嫉妬や軽蔑、怒り等の感情が込められた目線を俺に向けてくる。

トモエの美しさから、トモエを俺から救い出すといって襲い掛かる人間までいた。


『私の身も心も全てご主人様のものです。

 ……ご主人様に捧げております』


トモエはそんな奴らに頬を赤らめながら、そういった。照れて身をよじりながら、そういった。

俺に対する視線の厳しさがさらに増した。


「……確かに町中は俺にとって敵だらけだ。

 しかし換金は必要だし、情報も必要だ」


本音では町中に戻りたくはない。しかしこのまま森の中で生活することは困難で、帝国に向かうことも同じように困難だ。

先に進むには町中に戻ることは必要なことであった。


「一度町に戻る。

 ……すまんが俺の護衛を頼む。

 お前だけが、俺の頼りなんだ」


「……はいっ!!」


少し固まったがトモエはとても美しい笑顔で、俺に返事をしてくれた。



******



俺たちは今、冒険者ギルドに来ている。

この手の小説ではよく出てくるものなので、知っている者も多いだろう。

簡単に説明すると、冒険者ギルドは魔石の買取をしている『国の』機関である。

よくある設定と違うところは、国の組織というところだろうか。

独立した機関であるほうが望ましいかもしれないが、国が自分の国の中にそんな組織の存在を認めるわけがない。

この世界ではそれが認められるようなことは、起こっていないようだ。

しかし各国に冒険者ギルドはあり、冒険者ギルド同士の情報のやり取りも多少存在する。

もちろんそれぞれの国の管理の下でだ。

冒険者ギルドの主な業務は二つ。魔石の買取と冒険者という名のならず者の管理だ。

俺たちは一応冒険者ギルドに所属し、管理されていた。


「……これ、今回の分です」


トモエが窓口に魔石を差し出す。窓口対応はトモエの仕事だ。

俺は人間相手だと憎まれてしまう。あくまでも『大邪神の加護』のせいである。

それ以外に理由は無い。

俺は『風』の妖精の力で姿を隠して、守られている。

周りからは姿が見えないが、不快感から俺の場所は周りからバレているようである。

トモエがここにいることから、明らかに俺がいることは分かっているはずである。しかし周りはあえてそれを無視していた。

下手に俺に絡めば、トモエが俺を助けるために戦うからだ。

トモエはとても強い。何度かの揉め事でそれは既に知られている。

そのため俺に関わる人間はいないものと思っていた。そう思っていただ!


「……うっ?」


その時俺に何が起こったのか、理解ができなかった。俺は血を吐いて、体から剣が生えていた。

……いや、俺は刺されたようだ。心臓を一突き。普通なら即死である。

俺は何度かトモエに殺されるようなことをされていたため、その経験で意識を保つことができた。

……それにしても首を絞めたほうが活きがいいとか、やめて欲しいものである。

最近じゃ死なないことが分かってきたせいか、俺を斬り裂くようになってきた。

内蔵の温かさを感じたり、心の中が見たいといって心臓を取り出すのはやめて欲しい。

どうしてこうなったんだろうか?

そんなことを考えていると、ゆっくりと剣が引き抜かれる。

いや、痛いから早く抜いてくれ。マジで頼む。

俺は剣が引き抜かれると同時に、自分を回復する。

これもトモエとの訓練(?)のおかげである。

俺が後ろを振り返ると、そこには金髪の男がいた。金髪の男は包丁を持ったトモエを、俺の血で濡れた剣で防いでいる。


「ご主人様は下がってください!」


俺はトモエの言われたように後ろへと下がる。それにしてもここは王国冒険者ギルド辺境都市ハンブク支部の中である。

ギルド内で襲い掛かるなんて何者だ?

俺は相手の男を見る。金髪で痩身の男。手に持つ武器は、突きを主体にした剣だろう。そんなもので、よくトモエ相手に戦えるものだ。

相手の男はかなりの腕前のようだ。


「あなたは何者です!?どうしてご主人様を!?

 いえ、それより……どうやって人間のあなたが精霊を従えているっ!?」


トモエは顔を歪ませながら、怒りに任せて包丁を振るっていた。

……それにしても精霊か。

妖精と精霊はどちらも自然から生まれた魔力生命体である。実際の肉体を持たず、魔力のみで生きている存在だ。そのため魔法を使うのがとてもうまい。

寿命は無いが、魔力が無くなれば消えてしまう儚い存在である。

生まれたばかりの魔力生命体が妖精。妖精が成長して変態して、姿を変えたものが精霊である。

通常妖精はドワーフについており、精霊はエルフについている。

しかし奴隷の首輪が無いから、目の前の男はエルフではない。人間のはずだ。

そんなことを考えていると、戦いは激しさを増していた。


「『風』の妖精よ!」


「『風』の精霊よ……」


どちらも切り札を切ろうとしている。いや、トモエが切ろうとしているから金髪の男はそれに合わせているだけか。

どちらにしてもこの冒険者ギルド支部は、もう終わりだろう。二人の魔法の威力はこの支部を吹き飛ばすくらいはある。


「やめんかっ!!」


一人の大男が、トモエと金髪の男の間に割って入る。

あれはハンブクの英雄。その名は『ブレード』。

この国では男の一般的な名前に『ブレード』というのがあるらしい。

何か昔の英雄の名前らしく、あやかってその名前をつける親が一定数いるらしい。


「双方引けっ!!

 これ以上やるなら、俺が相手になるっ!!」


「!トモエ!

 引け!これは命令だ!!」


流石にブレードと戦うわけにはいかない。奴は人望がある。

ここで引かなければ、今すぐにこの町から逃げ出さなければならない。

それくらいにブレードの影響力は大きい。

トモエもそれが分かっているのか、俺の命令だからか素直に俺の元まで下がってくる。


「……私は解除する」


そういうと包丁をしまい、両手を上げる。

先程の言葉で妖精に対する魔法は解除されている。これ以上の戦いをする意思が無いという意味だ。


「解除する」


金髪の男も剣を鞘に納め、両手を上げる。どうやら向こうも、ブレードと戦う意思はないらしい。


「この戦いは俺が納めた。双方話を聞くからこちらへ来い。

 当然ネトリ、お前もだ」


ブレードに睨まれて、俺も両手を上げた。



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