第6話 俺が好きなのは女性です



王都までの道のりは街道が整備されていたこともあり、順調に推移した。食事が忘れられることが何度かあったが、それ以外は特に問題もなく王都に着くことができた。


「随分と乗り心地は良くなかったが……」


俺は小声で文句を言う。あまり大声で言うと御者や護衛の兵士から報復が来る。ただでさえ酷い食事が、食事抜きに変更される可能性もある。

あまり美味しくもないが、食べないよりは気分的にましだ。食事抜きは少し困る。


「着いたぞ。降りろ」


俺はやたらと兵士たちが多くいるところに降ろされた。俺を連れてきた兵士が、俺を受け取る側の兵士に手紙らしきものを渡している。

どうやらここが目的地のようだ。

……どうしてだろう?俺の目の前には様々な檻があった。

こういう時はあれだ!落ち着いて尋ねればいい!


教えて!コピー!!俺は心の中で叫んだ。


《説明しよう。君は領主に売られたようだ》


売られた?どういうことだ?


《まず大前提としてこの世界には、人間が信仰する二柱の神がいる。

 大邪神と創造神だ。

 この世界は創造神によって作られた。その後創造神は大邪神によって眠らされて、この世界は大邪神が管理している。これがこの世界に伝わる神話だ。それ故に大邪神が創造神からこの世界を奪ったといわれている。

 聖国が信仰しているのが、世界を作った創造神。

 教国が信仰しているのが、世界を管理する大邪神》


大邪神が創造神を眠らせて世界の管理権を奪ったということだから、創造神を信仰する聖国にとって大邪神は敵ということか。


《その通りだ。そして問題となるのが領主が創造神の信徒であるということだ》


領主は大邪神は敵という考えの人間で、俺は『大邪神の加護』を持っている。


《つまりお前は領主にとって本当に忌むべき存在ということになる》


だから売られた?


《その通りだ。これから君は奴隷として生きていくことになる》


コピーは淡々と語っているが、これはかなりまずい状況ではないだろうか?このままだと俺は奴隷として生きていくことになる。


《状況としてはかなりまずい状況といえる》


どうして教えてくれなかった?


《何故私が教えなければならない?それでは面白くならない。ついでに言えば、君を助けるのは君自身だ》


何とかならないだろうか?俺は考える。


時間を巻き戻すことはできないのか?俺は心の中でコピーに質問した。


《それはできない。君の能力に黄泉返りはあるが、死に戻りはない。時間に干渉するような能力は君にはない》


このまま奴隷になった場合、俺はどうなる?


《領主の計らいで君は聖国に売られる予定だ。そこで君は神敵として処刑される。君は何度も復活して、そのたびに殺される予定だ》


最悪だ。何度も殺されるなんて冗談じゃない。何とか避ける方法を考えないと。


《逃げればいい。君はまだ奴隷契約を結んでいない。今自力で逃げ出せば、助かるかもしれない》


自力で逃げる?どうやって?俺にはそんな力はない。木の杖だけで兵士に勝てるとは思わない。


《他にも武器はあるだろう?》


……武器?そうか!媚薬か!


《それとマジカル〇〇〇だ!今こそマジカル〇〇〇の力を使う時!!》


なぜか俺には見たこともないコピーが笑っているように思えた。



******



あの時の俺は奴隷となり何度も殺されると聞いて、冷静でいられなかった。だから俺は『大邪神の加護』であるコピーの言う通りにしてしまった。

俺は媚薬をガスにして、周りの兵士たちに嗅がせた。

そして俺はマジカル〇〇〇を使った。使ってしまった。

あの時の俺は媚薬ガスを嗅いで、俺自身も発情していた。今回は俺も媚薬の影響を受けていた。だから俺は勃った。相手がムキムキの男相手であっても勃ってしまった。


《マジカル〇〇〇は相手が誰でも勃つようにできている》


うるさいっ!そんなの何の慰めにもならないっ!

そんなわけで俺の初めては汚れてしまった。

俺に黒歴史が生まれた。



******



スッキリとした俺は無事(?)に奴隷になることを回避した。本当に無事かと言われれると少し疑問が残る。肉体的には何の問題もない。しかし精神的にすごい傷を負っている。……俺の記憶を消す方法はないのだろうか?


《ない。人は自分のしたことを背負って生きている。

 自分のしたことから逃げてはいけない。

 『黒歴史』に負けるな!》


黒歴史か。……そうだな。その通りだ。

俺は落ち込みながらも、王都の街並みを歩いていた。

兵士たちは媚薬とマジカル〇〇〇によって、軽い洗脳状態に陥っている。

俺を逃がすこと。俺のことを忘れること。俺の後を追わないこと。

これだけを言い含めてある。洗脳状態は2~3日は持つとコピーが言っていたので、俺はその間に逃げていた。


《兵士相手に見事な立ち回りだ。勃ち回りというべきか?》


オヤジジャグっ!!


《大邪神もあなたの様子を見られて、とても喜んでいた。

 特にあなたが正気に戻って、絶望の表情を浮かべられたところは最高と評価されている》


最低だっ!!


《そこでボーナスを与えることになった》


何がもらえるんだ?

俺は意識を切り替えた。


《金貨100枚だ。ちなみに銅貨100枚が銀貨1枚。銀貨100枚が金貨1枚だ。

 銅貨1枚で日本円で1円の価値がある》


つまり100万円のボーナスということか。結構太っ腹だな。


《神だからな。これくらいは軽いものだ。

 しかしこれを当てにするのはやめたほうがいい》


どうしてだ?神からお金をもらうことに問題があるのか?


《大邪神は無から金貨を作っている》


ふむふむ。


《金貨が何もないところから増えるわけだ。つまりあまり派手にやると金貨の価値が落ちてしまう。そして物価が上昇する。

 いわゆるインフレだな》


インフレ?……うん、分かった。


《理解していないことがわかった。ともかく大邪神からのお金は、あまり当てにしないようにしろ。少量なら問題ない》


少し難しいような話が出たが、特に問題はない。本筋とは関係のない話だ。

結局のところ、俺自身が金を稼ぐ必要があるということか。


《その通りだ。今回だけの特別と考えるといい》


なるほど。問題はこれで何を買うかだ。100万円は大金だ。ここで何を買うかで、これからに大きな影響があるだろう。


《買うもの?そんなの決まっているだろう?》


なんだ?


《もちろん奴隷だ!》


テンプレ展開にコピーは興奮しているようであった。

コピーはテンプレ展開が好きなのか?


《その通りだ》



******



奴隷といっても値段はピンキリだ。それでも人一人分の値段である。普通の奴隷なら100万円では買うことは非常に難しい。

そう普通の奴隷ならだ。

俺には回復魔法がある。死んでなければどんな状態でも回復させることができる。たとえ死んでいても、1日以内なら黄泉返りも可能だ。

俺が狙うのは廃棄寸前または1日以内に死んで廃棄された奴隷だ。

ついでに俺の代わりに戦えて、可愛い女の子の奴隷がいい。

もちろん処〇!


《気持ち悪い》


うるせー!


《女性に幻想を抱きすぎだ。もう少し現実を見ろ……》


いーやーだー!理想の奴隷を持ってきてくれ!


《無茶苦茶言っているな》


俺は無茶苦茶言いつつ、奴隷商のもとへと向かった。コピーが迷わないように道案内してくれているため、王都の地理を知らない俺でも迷うことなく辿り着くことができた。

俺は緊張しながらも、奴隷商の店の中へと足を踏み入れた。


「……何の用だ?」


奴隷商らしき男は俺を睨みつけた。『大邪神の加護』の影響だろう。


「奴隷を見せてくれ」


俺は単刀直入に用件を伝えた。少し気が急いているのだろう。


「……金はあるのか?」


「ある」


「……そうか」


奴隷商は俺を見ながら、少し考えこんだ。


「……もしかしてお前は、『大邪神の加護』を持っているのか?」


?何故だ?何故気が付いた?


《嫌悪感からだ。察しが良い人間ならすぐに気が付く。

 『大邪神の加護』はそういうものだ》


コピーの声を受けて、俺は少し考えこんだ。


「心配するな。俺は大邪神の信徒だ。

 危害を加えるつもりはない。

 ……運がいいな。

 お前のように弱そうな相手が一人なら、金を奪ったうえで奴隷にされる場合がある。

 俺みたいに裏路地にあるような店なら特にだ。

 大邪神に感謝するといい」


……奴隷商が大邪神の信徒で助かったようだ。下手すれば、奴隷にされていた可能性もある。


《サービスだ。話が進まなくなる可能性があるため、奴隷商でかつ大邪神の信徒のもとに案内した》


どうやらコピーに助けられたようだ。


「お前が求めているのは亜人の奴隷だろう?

 見せてやる。ついてくるといい」


そういうと俺は奴隷商に連れられて、店の奥へと入っていく。


「……どんな奴隷がいるのかな」


俺は少しワクワクしながら、周りを見る。そこには檻の中に様々な人が入れられていた。


「ちなみに予算はいくらくらいだ?」


「金貨100枚」


「何か希望はあるか?」


「処〇!」


俺は少し緊張して、声を荒げてしまった。

奴隷商が振り返り、俺を見る。俺のことを見て、肩を竦めた。


「そりゃ無理だ。いいか?

 奴隷狩りに捕まって売られてきた奴隷は、奴隷狩りがヤッている。

 奴隷狩りは、奴隷を味見した後に売りに来る。

 自ら奴隷に売られる奴は、売られる前に男とヤっている。

 気持ちの整理とか、思い出とかいう理由だ。

 処〇の奴隷なんて、子供か余程の高級奴隷にしかいない。

 ここには高級奴隷はいないし、金貨100枚じゃ買えない。

 それとも子供を買うか?

 子供ならそんな無理な要望も叶えられるぞ」


奴隷商は俺のことを呆れたように見ている。


「……しかし俺も商売人だ。客の要望には最大限応えよう!

 ついてこい!」


奴隷商がさらに店の奥へと歩いていく。

もしかして……。

俺は希望と共に歩いていく。


「着いたぞ!

 エルフ。見た目だと分かり難いが、150歳くらいらしい。

 剣士でかなりの腕前らしい。

 それで『処〇』だ!」


檻の中には一人のエルフがいた。金髪碧眼で線は細く、背は高い。俺よりも少し高いと思う。しかも美形。ただし胸をない。ツルペタだ。


……よく見ると体つきが女性らしくない。女性のような美貌を持っているが、女性でないように見える。

股間に膨らみが見える。


「……もしかして男性?」


「そうだが?」


奴隷商は当然のように答えた。


「処〇?」


「こいつの尻には男性経験がないと聞いているぞ?」


……なるほど。お尻が処〇か!


「チェンジで!」


「贅沢だな。

 ……女性で処〇となると、廃棄予定の奴隷になるな」


ようやくテンプレ展開が来たようだ。



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