第5話 領主の町と王都行の馬車
そして翌日、俺はブレードと共に村を出た。目的地は領主のいる町。そこまではブレードが護衛をしてくれる。
ブレードは体を治してくれたこと、黄泉返らせてくれたことに感謝していた。しかしブレードはそれなりの年で、村を捨てることはできない。
領主のところまでは護衛してくれるし、面倒を見る予定といっている。ただ領主のもとに送ったら、その後はブレードは自分の村へ帰る予定とのことだ。
それを聞いて少し寂しいと思ったが、同時に仕方がないとも感じた。
《ブレードのことが必要なら、何とかする方法はある》
コピーが変な誘惑をしてくるが、俺はそこまでブレードを必要と思ってはいない。俺もブレードには感謝しているし、ついて来てくれたら嬉しいとも思う。でもブレードの考えも理解できるから仕方ないと思っている。ちなみに参考までに聞くけど、どんな方法?
《媚薬とマジカル〇〇〇を使えばどんな相手も思い通りだ》
「却下っ!!」
俺は思わず声に出してしまった。
「どうした?急に?」
事情が分からずブレードが俺のことを見てくる。俺は慌てて言い訳をする。
「すっ、すいません。頭の中で大邪神が変なことを言ってきまして……」
「そ、そうか。
一応森の中だ。魔物を呼び寄せる可能性があるから静かに頼む」
ブレードは俺から目を逸らしながら、前を歩いていく。
《森の中で叫んではいけない》
誰のせいと思っているんだ。
今度は心の中でコピーに文句を言う。
《まるで私が悪いみたいだな》
事実だろうが。
「ネトリ。心の中で大邪神様と話すのはいいが、周りをよく見て行動しろよ。
今はまだ森の中だ。あまり油断をしないようにしてくれ」
ブレードが小声で注意をしてきた。
「……申し訳ありません」
俺は自分が悪いため、素直に謝った。こうして俺とブレードは森の中を歩いて行った。
******
森の中で途中何体かのゴブリンやウルフと呼ばれる狼の魔物に遭遇したが、全てブレードによって倒されていた。一緒のパーティとみなされているみたいで、ブレードが倒すだけで俺も同時に強くなっていくのを感じる。
《パーティによる経験値の共有だな。パーティメンバーが敵を倒した場合に、メンバー全員が経験値を得られるようになる。
ただしメンバーの上限は6人まで。それ以上の人数と一緒の場合はパーティメンバーを決めていないと誰もメンバーとみなされない》
6人までは自動でパーティとしてみなされるわけか。7人以上が一緒だとパーティメンバーを決めていないと、誰もパーティメンバーとしてみなされない。
ただし何人かがパーティメンバーを決めていれば、残りの人間がパーティメンバーとみなされることになるわけか。
「ブレードさんはかなり強いんですね」
「まぁな。伊達に長生きをしていない。
もっとも冒険者は引退したから、現役の冒険者には負けるけどな」
俺からしてみればブレードはかなりの実力者に見えるが、世界的に見ればそこまででもないようだ。
《ブレードは村で一番強いといえる。
しかしそれはあくまでも村での話だ。領主の町や王都に行けばもっと強い人は何人もいる。
また人間種は基本的に弱い。獣人やエルフ、ドワーフと比べるとどうしても実力は落ちる。更に強い魔族とは比べるまでもない》
もしかして種族の差は大きいのか?
《その通りだ。かなり大きい。その分人間は繁殖能力がとても高く、数は一番多いとも言える》
パーティを組むなら人数は6人という上限があり、俺は『大邪神の加護』により人間には嫌われる。仲間にするなら人間以外が妥当か。
《その通りだ。確かに仲間にするなら人間以外がお勧めだ。もし人間を仲間にする場合は、媚薬とマジカル〇〇〇の使用を強くお勧めする》
俺はコピーの言うことをいったん無視して、ブレードに話しかける。
「ブレードさん、俺は見ての通り弱いです。
こんな俺が仲間を手に入れるとしたら、どうすべきと思いますか?」
「奴隷だな」
ブレードは即答した。
「お前の場合は人間の仲間は作れない。なら獣人やエルフ、ドワーフなどの亜人を仲間にするしかない。
王国で手に入る亜人の仲間といえば奴隷だ。どうにかして奴隷を買うのが一番だろう」
何とかしてお金を手に入れて奴隷を買うのが一番か。
《媚薬とマジカル〇〇〇を使えばどんな相手でも奴隷のようにできる》
俺はコピーのことを無視して、話を進める。
「……奴隷ですか。何かお勧めとかってありますか?」
「まぁその辺は領主とのもとについてからの話になると思うが、とりあえず女だな」
「女ですか?」
「そうだ。常に一緒に行動することになる。
ならむさくるしい男よりも見目麗しい女のほうがいいだろう」
なるほど。心の中に留めておこう。
「ありがとうございます。
参考になりました」
「これくらいいいってことよ。
それより問題は奴隷を買うお金だろうけどな」
俺はブレードと共に笑いながら先に進んでいった。
******
俺たちは無事に領主の住む町へと着いた。村長からの手紙もあり、俺たちは無事に領主と面会することができた。俺とブレードは領主の執務室で領主と面会を行うこととなった。
「貴様が『大邪神の加護』持ちの人間か」
俺の目の前には30代くらいの金髪の男が机で書類仕事をしていた。金髪の男が顔を上げて俺を睨みつけてくる。
「確かにこの嫌悪感は『大邪神の加護』と思えるな。
それで貴様はどのような力を持っている?」
金髪の男は俺を値踏みするように見ていた。
「……俺は回復魔法が使えます」
「……」
「……」
「……それだけか?」
金髪の男の眼は一層険しいものへと変わっていく。
「……はい」
俺は何とか声を絞り出した。正直今すぐ逃げ出したい。この男怖い。
「そうか。貴様の身は私が預かる。貴様は今から俺のものだ。
ブレードといったか、護衛ご苦労。後はこちらの仕事だ。
この男は明日王都に向けて移送することにする」
領主がそういうと、後ろに控えていた領主の執事が俺とブレードを部屋の外へと案内する。そこで俺はブレードと別れ、俺は牢屋へとぶち込まれた。
「?何故?」
《隔離するためだな。下手に外を歩かせでもしたら、町の人間に襲われる恐れがある。そのこともあり、ブレードも真っすぐに領主の館を目指しただろう?》
確かにそうだ。この町に入ってすぐにできるだけ他の人間と関わらないようにして、領主の館へと足を踏み入れた。
それでブレードはどうなっている?
《ブレードは宿屋に向かっている。明日の朝一番で村へと戻るつもりだろう》
それで俺はどうなる?
《どうにもならない。先程領主が言った通り、王都へ連れていかれる予定だ》
「おいっ、飯だ!
置いておくから適当に食べろ!」
看守らしきものが何か食事のようなものを持ってきた。何かのスープとパンのようだ。とりあえず食べてみるが、まずい。
《牢屋で出される食事だからな。
質もそれなりのものというところだろう》
何とかして全て食べ終わるが、硬くて味が薄くて食べられなくもないがまずかった。村長の家で食べた食事とは比べ物にならないくらいだ。
《村長の家ではブレードがいたからな。村長もブレードの手前、酷い食事を出すわけにはいかなかったのだろう。
ブレードは村一番の実力者だから》
それに対してここでは俺に配慮すべき理由は無いということか。
《その通りだ。ネトリの能力を領主は普通の回復魔法と判断している。
そのため配慮すべき理由がない》
俺は何もすることが無いため、横になり寝ることとした。
******
翌朝に俺は荷台が檻となっている馬車に乗せられた。これに乗って俺は王都まで行くらしい。檻の中には俺だけしかいない。
《奴隷の運搬用の馬車だ。恐らく奴隷の買い付けに王都まで行くのだろう。
そのついでにネトリを王都に連れていくということになる》
なるほど。俺はついでか。
こうして俺の王都行の旅が幕を開けた。
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