第4話 これからについてと食事



「理由は結構簡単だ。

 彼女たちは正気に戻しても自殺するかもしれない。自殺しなくても確実に迫害される。

 なら彼女たちを一生支える存在が必要だ。彼女たちの村は俺も住んでいたが、村にそんな男はいない。俺も年齢的に支えるのは無理だ。途中で先に逝く。

 だからお前に確かめた。お前が支えるなら彼女たちは助かる。

 でもお前にはそのつもりはない。これは責めているわけじゃない。

 普通のことだ。

 助けがなく迫害される人生を送らせるくらいなら、ここで何も分からないまま殺してやったほうがましだと俺は判断した。

 そういう理由だ」


少し機嫌が悪そうにブレードは教えてくれた。

本当は俺に助けるといって欲しかったのかもしれない。でもそれでも俺は俺は助けようとは思えなかった。


「……すいません」


「謝るな!お前は普通だ!お前は悪くない!

 それを言うなら助けてくれない村の男どもも悪い!

 助けられない俺も悪い!

 お前だけの責任ではない!」


強い口調でブレードが言う。

俺は本当に普通の人間なのだなと思った。

漫画やアニメの主人公ならきっと違う結果になっていただろう。



その後ブレードと共に全てを『処分』して俺はブレードの住む村へと行くこととした。



******



村までの道中はブレードに守ってもらい安全であった。

ブレードは元々病気を患っており、それが原因でゴブリンにやられたようだ。俺が黄泉返らせた時に病気も治っていたらしい。

病気が治った今なら森の中にいるような魔物なら、素手でも負ける気はしないとのことだ。


「そろそろ村に着くぞ」


食料や水分を全て回復魔法で誤魔化しながら、俺たちは村に着くことができた。なお普通の回復魔法なら空腹やのどの渇きは回復しない。普通と違うことは覚えておくようにと、ブレードからはそう言われている。


「戻ったぞ!!」


村の入口でブレードが叫ぶ。


「無事だったのか?」


「心配したぞ」


ブレードの姿を見て多くの村人が集まり、ブレードの無事を喜んでいた。


「……ところでそいつは誰だ?」


村人の1人が俺に疑わし気な眼差しを向けてきた。


「命の恩人だ。村長はいるか?色々報告してくる」


「村長なら家だ。

 ……ブレードの客か。なら歓迎しよう」


ブレードの一言で、村人たちは俺に対しても笑顔を見せる。貼り付けたような笑顔だが。


「……ネトリ、一緒に村長の家に行くぞ」


俺はブレードに促されて、村長の家へと向かうこととする。


「……周りのやつらのことは気にするな。奴らには敵意はない。

 ただ『大邪神の加護』の関係でお前のことが憎いだけだ。

 その辺も含めて村長に説明する。ある程度の礼もするし、心配するな」


村長の家への道すがら、ブレードが村人たちの様子について説明してくれる。

やっぱり『大邪神の加護』はデメリットが大きいな。


《メリットもある。私の助言なども『大邪神の加護』によるものだ。

 どちらもあるということを忘れないようにしろ》


頭の中ではコピーが役に立つことを強調してくる。

そこまで大きな村でないのか、村長の家はすぐに着いた。村長の家はレンガで出来ており、平屋建ての家だ。そこそこの大きさがあり、そこは村長の威厳なのだろう。


「村長!入るぞ!」


ブレードがノックと同時に村長の家へと突入する。


「ブレードか?

 無事だったのか?」


「ああ、運よくここにいるネトリに助けてもらえた」


たまたま入口の近くにいた村長に案内されて、俺たちは客間へと入る。そこは机と椅子があるだけの質素なものだったが、机も椅子もそれなりに頑丈なつくりをしていた。


「まぁ掛けてくれ」


村長に促されて、俺たちは椅子に座った。テーブルの挟むように村長とブレードが座り、俺はブレードの隣に座っている。


「とりあえず話を聞こう」


村長に言われて、ブレードが話始める。俺はそれを隣でじっと見ていた。



******



「なるほど。娘たちは残念だが仕方ないな。

 予想していたことだ。

 仮に助かったとしても、この村では生きていけないだろう。

 ブレードの判断を尊重しよう。

 それでネトリ君だっけ?彼についてはどうするつもりなんだ?」


「彼は勇者ではない。しかし『大邪神の加護』を持つものだ。

 この村に置いておくのはまずい。

 領主に引き渡すべきだろう」


「それはいいとして彼を一人旅をさせるつもりか?

 聞いているとゴブリンにも勝てないそうじゃないか。

 一人だと領主に会う前に殺されるだろう」


殺されないかもしれないが、確かに一人旅だと危険であるのは確かだ。


「俺はこいつに命を助けられた。

 領主のところまで俺が送っていく。

 悪いが領主への紹介状を書いてくれ」


ブレードは同じくらいの年の村長へ向けて、頭を下げる。


「分かったそれくらいならいいだろう。

 それで今日はどこに泊まるつもりなんだ?」


「もちろん俺の家にだが?」


「お前の家には何もないだろう?

 今日ぐらいは俺の家で面倒を見てやる。

 どうせ出かけるのは明日以降だろう?

 今日くらいはゆっくりしていくといい」


あれよあれよという間に、今日は村長の家に泊まることが決まった。


「そういえばネトリ君といったか。君は『大邪神の加護』を持っているそうだね。

 なら1か所に留まるのはやめたほうがいい」


村長が急に俺のほうを向いて話始める。


「『大邪神の加護』を持つということは人間から恨まれるということ。

 普通の人間の仲間は持つことはできないし、1か所に留まれば憎まれて攻撃を受ける。

 たとえその憎しみが『大邪神の加護』によるものと分かっていてもだ」


「……ならどうすればよいでしょうか?」


一応目上の人間に対して失礼のないように、気を付けて発言する。


「一つは旅を続けること。すれ違う程度ならほとんどの人間が我慢できる。

 1日や2日程度なら大丈夫だろう。

 ただどこにも乱暴な人間はいる。それには注意したほうがいい。

 もう一つが人間以外と暮らすことだ。かつての勇者の仲間もそういう理由から人間以外で構成されていたことが多い」


「有名なところだと、エルフ族やドワーフ族や獣人族といったところだろう。

 魔大陸に行けば魔族もいるが、奴らは人間の敵だ」


ブレードは獰猛な笑みを浮かべていた。


「なるほど、参考になります。

 それで彼らはどこに?」


「ここは王国東部の魔物森の近くだ。西に向かうと王都があり、そのまま行けば聖国がある。聖国の北が帝国で南にあるのが教国。教国の南が獣人連邦で獣人はそこか帝国にいる。エルフやドワーフは聖国と教国の西にある連合国にいる。

 注意しないといけないのは聖国は『大邪神の加護』を持つものを神敵扱いしている。聖国には近づかないほうがいい」


「逆に教国は『大邪神の加護』を持つものを神の代弁者として、崇拝している。

 聖国に行くくらいなら教国に行くほうがいいだろう」


村長とブレードがそれぞれ答えてくれる。


「魔大陸というのはどこにあるんでしょうか?」


「魔大陸は帝国の更に北だ。海を渡る必要があると聞いている。

 俺たちは実際に行ったことが無いため、実在するかも疑問視しているね」


「魔王や魔族についても同様だ。魔王とやらを倒せば魔物が大人しくなるなんて、信じているやつは、ほとんどいない」


村長とブレードはそういって笑っていた。


《仕方ないでしょう。この辺りの人間なら、勇者は信じても海の向こうの魔族や魔王を信じなくてもおかしいことではありません》


コピーがそういって、村長とブレードの発言について補足する。

勇者はこの大陸で実在して、活動をしている。しかし魔王や魔族は魔大陸の外に出ることが無い。そのため魔王や魔族の存在を信じられていないということか。

魔王についてもかなり昔から生きているため、彼らにとって魔物とは凶暴なものという認識なのだろう。逆におとなしい魔物というのが想像できないと思う。


「とりあえずは領主のもとに行って、恐らくそこから王都に向かうことになるだろう。

 そこで君について多少調べられることになると思う。

 その後についてはどうなるか私には分からないが、悪いようにはならないと思う」


村長は俺を安心させるように笑う。


「領主のところまでは俺が守ってやる。

 何も心配はいらない」


ブレードも俺に笑ってくれた。



******



その日の夜は簡単な宴会となった。名目はブレードが無事に戻ってきたことによるものだ。それと俺の歓迎会を兼ねている。

村長の子供や孫の一部は俺に対して睨むような顔をしていたが、これも『大邪神の加護』によるものだろう。仕方ないと思ってあきらめよう。


「……これ美味しいですね」


俺はこの世界で初めてまともな食事を取っていた。パンがあり肉がある。とても贅沢に思えた。


「この肉は猟師が取ってきたイノシシの肉だ。

 かなり美味しいだろう」


村長が場の空気を和ませるように笑っている。他のものもそれが分かっているのか、俺に対して何かしてくるような者はいなかった。


「今回の肉は当たりだな。

 誰が取ってきたんだ?」


ブレードは村長と当り障りのない話を始めていた。その間に俺は肉を食う。美味しい。本当に美味しい。

この世界に来てからほとんど空腹は回復魔法で誤魔化していた。それで生きていくことはできるだろう。でも食事することはそのこと自体に意味がある。

俺は幸せを噛み締めながら、食事を行った。

食事が終わった後は、お湯をもらい体を拭いて就寝した。

幸せに包まれて俺は夢の中へと旅立った。


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