第3話 ゴブリンに勝利と後始末
ゴブリン。それは緑色の肌をした醜い魔物。背は低く小学生の低学年くらい。
髪の毛はなく、腰蓑のみを付けている。
いわゆる序盤に出てくるテンプレな弱い魔物である。
「でもその魔物にも俺は勝てないんだけどな」
俺は今、ゴブリンが住処にしている洞窟の中を歩いている。何とかして俺はゴブリンを倒さないといけない。
そうしないと、ゴブリンに倒されて再び食われることになる。
《逃げ切れる可能性は0%だ。ここで倒すしかない》
俺の今の装備は普通の服と木の杖のみ。仲間はいない。
このままではゴブリンに勝てないと思う。
ちなみに敵の数は?
《夜行性の進化前のゴブリンが10匹で、全員オスだ》
俺がゴブリンを倒すにはどうすればいい?強い武器か?仲間か?何かの策か?
それ以前に勝てるのか?
《勝てる。相手はゴブリンだから。
現状何とかなるレベルだ》
俺の頭の中に響くコピーの声は少し呆れたように感じる。
《その通りだ》
そのセリフよく使うね?
《その通りだ。私は全自動対応をする大邪神の複製だから、大邪神から作られたAIのような存在だ。そのためよく使う定型句が存在する》
なるほど。そういうものか……。
《その通りだ》
それで?どうすればゴブリンに勝てる?
《それくらいは自分で考えろ。
何でも教えてしまうと面白くない》
くそっ!それくらい教えてくれてもいいじゃないか。
俺は洞窟の中を歩いていく。俺は独り言を話していたが、どうやらそれも気配隠蔽で気付かれないようだ。
《その通りだ》
それうるさいな。切ることはできないの?
《仕方ないな。しばらくは黙っている。とっととゴブリンを倒す手段を見つけろ》
優しくないな。俺は洞窟の奥へと歩いていく。先程いたところが食堂もしくは食糧庫なのだろう。俺の体が食われていたし。
「何だ?この先から何か聞こえてくるぞ!
18禁のような声が聞こえてくる!!」
《ネトリの肉体年齢は15歳だが、精神年齢は18歳以上と設定されています。
18禁の場所に行っても問題ありません》
何の説明だ?とにかく俺は声のするほうへ向かうこととした。
そこではゴブリンが人間の女性相手に繁殖行為を行っていた。
「……薄汚れていて、この中は暗いから見る分にはあまりよくないな。
声の方はまだ興奮するけど」
俺は洞窟の奥で行われている行為を観察する。そこには3人の女性がいて、それに纏わり付くように6匹のゴブリンがいた。
女性たちは既に正気を失っており、ゴブリンになすが儘にされていた。
「女性たちの回復は可能か?」
《可能だ。しかし全員が村娘で戦力としては期待できない。
正気に戻すことはできるが、記憶は消せない。その辺りは要注意だ》
俺は一度彼女たちを見捨てて、先に進むことにした。
まずはゴブリンを倒す方法を見つけないと。
******
とりあえず洞窟の中は見て回ったが、仲間になりそうな人間は見つからなかった。
強いて言えば、捕まっていた3人の女性たちくらいだ。
その3人は戦力としては期待できないらしい。
「何か見逃しているのか?」
俺は洞窟の中を思い出す。この洞窟はいくつかの横穴があり、そこを部屋代わりにしてゴブリンは使用していた。
部屋は食糧庫と女性が捕まっていた繁殖室、それから武器などが置いてある武器庫だ。
「武器といっても、ほとんどが木製。
金属の武器もボロボロの剣とかがあるだけだ」
恐らくここにある武器を俺が使ってもゴブリンを倒すことは難しいだろう。
「……他に何か使えるようなものは無いかな?
俺の手持ちは木の杖と媚薬くらいか」
俺は媚薬を眺める。これはかなり強力な媚薬で、基本的には俺に通用しない。ただし大邪神の気分によっては通用するらしい。
恐らくゴブリンや女性たちには通用するだろう。
「これをガスにしてゴブリンたちに嗅がせれば、10匹のゴブリンが3人の女性に襲い掛かる。
当然あぶれるものが出てくるから、仲間割れを期待できるかもしれない」
この作戦ならいけるのではないだろうか?
……そういえば俺が攻撃される前に聞こえた声は誰の声なのだろうか?
《それはゴブリンの声だ。異世界転移される際に、お前は『言語理解』を与えられた。
これの能力で、ゴブリンの言葉も理解できるようになっている》
……もしかしてゴブリンってそれなりに賢い?
《仲間内で言葉を交わす程度の知能は存在する》
じゃあ話し合いで解決なんてことは……。
《不可能だ。彼らにはお前と交渉する必要性がない》
今の状況はこちらが一方的に不利な状況だ。どうする?どうすればいい?
やっぱり媚薬ガスしかないか。
「媚薬ガスを使った場合に俺はゴブリンを倒すことができるのか?」
《回答を拒絶する。試してみるといい》
やっぱりか。結果がわかってしまうと面白くないから、教えてくれないか。
「今回媚薬ガスを使うと俺に作用するか?
これくらいなら答えてくれてもいいだろう?」
《今回については媚薬ガスはネトリには影響しない》
?少し言い方に疑問を感じるが、俺には影響しないことが分かった。
なら試してみよう。
俺は媚薬の瓶から錠剤を取り出し、錠剤に魔力を流す。魔力の流し方は体が覚えていて、普通に行うことができる。
「ガスは無味無臭で無色のため、全く知覚できないな。
念のためにあちこちでガスを発生させるか……」
俺は洞窟の中を歩き回りながら、媚薬ガスを発生させていった。
******
媚薬ガスの効き目は恐ろしいものであった。
10匹至ゴブリンたちは我先へと、3人の女性へと襲い掛かっていく。
3人の女性もまた、ガスの効果で狂ったようにゴブリンを求めていた。
「……想像以上の効き目だな」
俺は先程まで獣のような声を上げていた、今は疲れ果てて倒れているゴブリンを見る。10匹のゴブリンが全て疲れ果てて倒れていた。隣には同じように3人の女性が倒れている。
「これはチャンスか?」
目の前には疲れて倒れているゴブリン。少しの音くらいなら、起きることは無いだろう。それ以前に疲れ果てていて、起き上がれないかもしれない。
俺はゴブリンの武器庫にあったこん棒を構える。
「俺の木の杖よりも威力は上だし、ボロボロの剣よりも頑丈そうだ」
俺は全力で一匹のゴブリンの頭をこん棒で殴りつける。さすがに一撃で潰れるようなことは無いが、殴られたゴブリンも他のゴブリンも起きてくる様子はない。
「とりあえず他のゴブリンが起きてこないように注意しながら、全てのゴブリンを数発ずつ殴っていこう」
俺はゴブリンが起きてこないように警戒をしながら、ゴブリンの頭をこん棒で殴っていく。途中でこん棒が潰れたため、別のこん棒に変えながら何度もゴブリンの頭を殴り続ける。
気が付くと10匹全てのゴブリンの頭を潰し終えていた。
「…………とりあえず、俺の勝ちのようだ。
俺はゴブリンを倒したんだ」
ゴブリンを倒したことで俺の体が少し熱くなるのを感じる。レベルはなくても魔物を倒せば、少しずつだが成長するようだ。
そう思うと、少し力強さが増したように感じられた。
「さて問題はこの後どうするかだ。
具体的にいうとこの3人をどうするかだ」
俺は裸で倒れている3人の女性を見る。彼女たちはかなり酷く汚されていた。
ついでにいうと既に正気も失っている。俺の媚薬ガスで更に狂ったが、その前から彼女たちは正気ではない様子だった。
《参考までに伝えておこう。彼女たちは既にゴブリンの子供を身籠っている。
正気に戻すことはできるが、記憶は消せない。
ゴブリンの子供については一度腹を裂いて、治すことで対応は一応可能だ》
助けることはできるようだ。でもそれは肉体的な話。精神は違う。
ついでにいうと彼女たちが元の生活に戻れるかというと別の問題ではないのだろうか?
《その通りだ。一般的にゴブリンの住処に連れ去れてた女性は死んだものとして扱われる。本当にすぐに助けられた場合を除いて、ゴブリンの慰み者になった後は助かったとしても殺されるケースがほとんどだ》
理由は簡単に想像がつく。ゴブリンの子を孕んでいると疑われるため。ゴブリンと交わった者を恥として処分するため。そんなところだろう。
《その通りだ。ここで君にプレゼントを上げよう。
ゴブリンの食糧庫へ向かって欲しい》
よくわからないが、俺は言われた通りに食糧庫へと向かった。
《そこに食べ残しの骨があるのが見えるかな?》
確かにコピーの言う通りに骨があった。何の骨だ?
《人間だ。それも戦力になる人間だ》
そうか!俺は1日以内なら黄泉返りも可能な回復魔法を持っている!
それを使い、黄泉返らせれば良かったのか!
《その通りだ。これがこちら側で想定していたゴブリンの倒し方だ。
最初から想定外であったのは良いことだ。この調子で続けて欲しい。
本来なら1日が経過して時間切れになっているが、今回は大サービスだ。
今から5分だけ黄泉返らせるチャンスを上げよう。
それでは決断して欲しい》
俺が悩んだりゴブリンを倒したりして時間切れになった助っ人を、手に入れるチャンスか。もちろん俺は迷いなく骨を手にして回復魔法を使った。
「ん?俺は殺されたはず?」
俺の目の前には裸の爺さんが現れた。年齢は70歳くらいで白髪、筋肉がそれなりについている体をしている。
「……それに俺の体が妙に軽いな。
坊主、お前何か知っているな?」
爺さんが鋭い眼光を俺に向けて、ニヤリと笑った。
******
俺は自分の服を爺さんに渡すと、回復を使って新しい服を作り出した。初期の服なら何度でもいくつでも作り出せるらしい。
幸い俺の体が大きいこともあり、筋肉質な爺さんでも俺の服を着ることができている。
最初は転生などについては隠そうかなと思っていたが、爺さんの眼を見て諦めた。
俺のごまかしを許してくれそうな目でない。俺は全てを包み隠さずに話すことにする。
「……つまり俺は坊主に助けられたということか。
それと何か坊主から嫌な感じがするのは、『大邪神の加護』か。
なら坊主は勇者か?」
「違います。勇者ではありません。
それから坊主ではなく、ネトリといいます。
どうして俺が勇者になるんですか?」
「そうかネトリか。悪い悪い。
勇者については簡単だ。勇者が『大邪神の加護』の加護を持って生まれてくるからだ。
生まれたばかりの赤子が憎い場合は勇者の可能性がある事は、誰でも知っていることだ。
それを知らない以上、ネトリが転生者というのも納得だな」
爺さんは一人で頷いている。
「ところでおじいさんの名前について教えてもらってもいいですか?」
「俺か?……そういえば名乗ってなかったな。
俺の名はブレード。昔は冒険者をしていたブレードだ」
「ブレードさんですね。ありがとうございます」
俺は丁寧に対応することを気を付けていた。
確実に俺よりもブレードのほうが強い。俺の武器は木の杖で、ブレードは何も持っていないがそんなことは関係ない。
そもそも木の杖なんて誤差の範囲だ。
「それでこれからどうしましょう?
特に向こうにいる3人の女性について、どうすべきか迷っているんですけど……」
「3人?ああ、ゴブリンの苗床になった人間だな」
ブレードの目つきがさらに鋭くなる。元々ブレードの目つきはかなり鋭いのに、鋭さが増していた。
「ネトリ、お前の話だと正気に戻すことができるんだよな?」
「その通りです」
「記憶を消すことはできないのか?」
「それはできません。そこまでの力は持っていません」
俺は首を横に振った。
「そうか……。ならもう一つ質問だ。
彼女たちを嫁にするつもりはあるか?」
「え?」
突然の質問に俺は困惑する。
「どうして?」
「大切な質問だ。答えろ!」
ブレードの真面目な様子に俺は息を飲む。その上で真面目に考える。
初めて会うゴブリンに汚された女性を嫁にする。
無いな。正直に言って無い。俺はそれができるような人間ができた存在では無い。
「……無理です」
俺は正直に言葉を絞り出すように答える。
「そうか。なら3人は殺そう」
ブレードは大きく息を吐くと、断言する。少し残念だと感じているようだが、こちらを責める様子はない。
「……理由を聞いてもいいですか?」
「そうだな。お前も知っておくべきだな」
そういってブレードは俺に理由を教えてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます