第9話 決定された処断

 この王国では、王国法というものが恣意的に扱われていて、先程のわたしへのフィスラボルト公爵家からの追放処分のように、王国法に基づかなくても処分を下すことできるという話を聞いていた。


 つまり、ウスディドール殿下のような権力者の意向で処分はどうにでも変わるということになる。


 恣意的に扱われていると言っても、それが王国の為を思ってのことであれば。肯定をされるところもあるのだろう。


 しかし、実際は権力者個人の利益や、ただの自己満足の為のものでしかなかった。


 それが、わたしの処分においても反映されていた。


 とはいっても、処断のような処分はなんとか避けたいところだった。


 しかし…。


 ウスディドール殿下は、


「わたしはブリュレットテーヌを処断することを命じる!」


 と厳しい口調で言った。


 処断!


 それはわたしの生命を強制的に奪うもの。


 わたしにとって、想定をしてはいたものの、可能性は高くないと思っていた言葉だった。


 この王国では、国王陛下、王妃殿下、聖女を侮辱してはいけないということが王国法で定められてはいる。


 王室に対する反逆の一種と位置付けられているのだ。


 しかし、だからといって、違反した場合でも処断された例は今まで存在していない。


 他の王国法と同じく、権力者の裁量が大きく働いてはいるのだけれど、言葉での侮辱であれば、一番重くても一年間の地下室閉じ込めだったと聞く。


 もちろん、薄暗い地下室に一年間、ただ閉じ込められるだけではなく、粗末な食事しか与えられないという劣悪な環境なので、大変な苦痛を味わうことになる。


 これはこれで絶対に避けたいところだ。


 ただ、それでも処断によって生命を奪われるよりははるかにましだろう。


 そのようなことを思ってきたわたしではあったのだけれど、わたしはこれらの人たちに対して侮辱をしたという意識はない。


 まして、王室に対して反逆したとい意識もない。


 それどころか、わたしはこれらの人たちに酷い目に合わされているのだ。


 むしろ本来は、わたしに対して詫びるべきだと思う。


 いずれにしても、わたしは処分すら受け入れるつもりはない。


 わたしは、


「わたしは、ウスディドール殿下、オギュレリアさん、継母のことを侮辱したという認識はありませんし、王室に対して反逆をしたという意識もありませんので、処分自体受け入れる気はありません。まして、処断など、受け入れることは絶対にできません。先程、ウスディドール殿下の下した命令自体も暴挙だと思っておりましたが、今、ウスディドール殿下がわたしの処断を行おうとしていのは、王国法を勝手に変更するという暴挙でございます。ウスディドール殿下ほどのお方が、そのような暴挙を行おうとするなど、信じられないことです」


 と言って反撃を行った。


 しかし、わたしはこうして話をしていても、ウスディドール殿下は微笑んだままなので、心の中では、


 この王国に限ったことではないにしても、国王陛下や実権を握った王太子のような権力を持った方が、自分の意志で王国法の運用を変えるということは結構あることだと聞いていて、わたしがウスディドール殿下に反論しても、ウスディドール殿下の意志が変わるわけがないと思うので、もう無理だろう……。


 というあきらめの気持ちが湧き出してきていた。


 ウスディドール殿下は、わたしの話を聞き終わると、依然として微笑んだまま、


「暴挙とはまた面白いことを。ふざけたことを申すものだ。わたしそのものが王国法だということをどうもお前は認識していないようだな。わたしがお前を処断すると言ったら、その通りになるのだ。まあよい。もう無駄な話は終わりだ」


 と言うと、近衛軍の兵士たちの方を向き、厳しい表情になると、


「兵士たちよ、このものをこの謁見の間からつまみだせ! そして、地下室に連れて行き、閉じ込めてしまうのだ!」


 と指示をした。


 待機していた兵士の内、三人がわたしのところにやってくる。


 その内の二人がわたしの腕をつかんだ。


 一人はわたしの動きを見張っている。


「その手を離しなさい! わたしはウスディドール殿下の婚約者で、処断される人間ではないのです!」


 わたしはそう叫んだのだけれど、兵士たちは冷たい表情をするのみ。

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