第10話 処断されたわたし

 ウスディドール殿下は、


「ブリュレットテーヌよ、お前はすっかり無様な姿になってしまったな。そういう姿をわたしは見たかったのだよ」


 と言った後、嘲笑した。


 王妃殿下とオギュレリアさん、そして、継母も、わたしのことを嘲笑する。


「わたしをなぜそこまで笑いものにするのですか!」


 わたしはそう叫ぶのだけれど、嘲笑はおさまらない。


 そして、ついにウスディドール殿下は、


「お前が地下室に行った後、正式に申し渡すことになるが、お前は明後日の昼前に処断されることになる、これだけわれわれのことを侮辱し、反逆をしたのだから、今すぐこの場でお前の生命を奪ってもいいのだが、それだけは避けることにした。ありがたく思うのだな」


 と決定的な言葉を言った。


 わたしは明後日、たくさんの見物人に罵倒されながら、処断されることになったのだ。


 最大級の屈辱をそれで受けることになる。


 わたしについては、


「ウスディドール殿下と婚約者である聖女を侮辱した傲慢な人間」


 ということが強調されるので、同情してくれる人など誰もいないのに違いない。


 いずれにしても、もうわたしの運命は定まってしまったと言っていい。


 追い打ちをかけるように、オギュレリアさんは、


「あなたのようにウスディドール殿下や自分の母親、そして、わたしを侮辱するような人間は、処断されるのがあたり前だわ、ああ、いい気味」


 と言って高らかに嘲笑し、継母も、


「わがフィスラボルト公爵家から追放され、これから処断をされる。あなたに苦しめられてきたわたしにとっては、これほどうれしいことはないわ」


 と言って嘲笑する。


 わたしは、


「あなた方に笑われる筋合いはない!」


 と叫んだが、負け犬の遠吠えのようにしか思われていなかった。


 そして、兵士たちは、


「さあ、参りましょう!」


 と言ってわたしの体を謁見の間にある扉の方へ無理矢理動かし始める。


 わたしは、


「ウスディドール殿下、こんな仕打ちはあんまりです!」


 と叫び、兵士に対して抵抗しようとするも、力が違いすぎてどうにもならない。


「どうしてわたしがこんな目に合わなければならないのよ! わたしはウスディドール殿下の婚約者。この場から追い出されるべき人間ではないわ! ウスディドール殿下、どうか、もう一度わたしを婚約者にして下さいませ!」


 わたしの目からは涙がこぼれてきた。


 しかし、ウスディドール殿下は依然としてわたしのことを嘲笑しているだけ、


 兵士たちも容赦ない。


 わたしの意志など全く無視して、任務を遂行していく。


 わたしは嘲笑されながら、謁見の間から追い出され、地下室に閉じ込められた。




 それから処断されるまでの間、わたしは地下室で過ごした。


 わずかな灯りしかないので、薄暗く、しかも寒い。


 服はドレスからボロボロの服に着替えさせられ、食事は処断の時まで一回しか提供されなかった。


 しかも、固いパンの一切れと水のみ。


 わたしは水しか飲むことはできず、空腹のまま過ごすことになる。


 わたしはここに来てから最初の内は、自分の運命の悲惨さに対して涙が止まらなかった。


 生命を奪われるという恐怖心もどんどん大きくなっていて、わたしは大声で泣き続けた。


 そうしていると、わたしのところに使者がきて、正式に処断されることを伝えられた。


 わたしはそれを聞いて、もはや運命は定まったと思い、涙を拭くことにした。


 そして、来世に期待をするようになった。


 今までは、この世界のほとんどの人たちがそうであったように、人生はこの世一回限りと思っていた。


 しかし、来世があると思わなければ、あまりにも救いようがないと思うようになり、その存在に対して期待をするようになった。


 わたしはその後、地下室にいる間、ずっと、


「来世では素敵な方と結婚して幸せになれますように」


 と祈り続けていた。


 特に王侯貴族に生まれ変わりたいとは思わなかった。


 平民に生まれ変わった方が、わたしが今世で経験してきたような苦しみを味わうことはないのではないかと思うようになっていたのだ。




 そして、処断の日がきた。


 わたしは、十二月の冷え込んだ空気の中、断頭台に送られた。


 雲は多いものの、雨は降っていない。


 それは、つらく苦しい思いをしているわたしに対して、何の配慮もしてくれていないような気がして。寂しさを感じさせられる。


 もちろんそれは、わたしのただのわがままな思いに過ぎないのは自分でも認識はしているのだけれど……。


 ボロボロの服を着せられ、手は縄で縛られている。


 みすぼらしい姿のわたし。


 周囲にはたくさんの見物人たちがいた。


 わたしが予想した通り、この場は、


「この反逆者め!」


 という罵声で包まれていて、わたしに同情をする声は全くない。


 みじめな状態だ。


 でも、もうそれを気にしていても仕方がない。


 また、一旦は抑えた恐怖心も、地下室から出ると再び湧き出してきた。


 そして、


「処断されたくない!」


 と思いがどうしても湧き出してくる。


 しかし、断頭台に来ると、そういう気持ちは急速に薄れてきた。


 わたしの心の中で、覚悟が決まったのだ。


 そして、改めて、


「来世では素敵な方と結婚して幸せになりますように」


 と祈り始めていく。


 その祈りの中、わたしは十七歳の短い生涯を閉じたのだった。

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