第8話 決断しようとする婚約者

 わたしは、ウスディドール殿下に、


「オギュレリアさんも継母も、わたしが二人を侮辱したと言っていますが、オギュレリアさんがわたしからウスディドール殿下を寝取ったことは事実ですし、継母がわたしをイジメたことも事実です。そして、権力に対する欲望しか心の中にはないことも事実でございます。これのどこが二人を侮辱したことになるのでしょう? わたしには理解ができません。聡明でおられるウスディドール殿下であれば、わたしの言うことができると思っております。また、フィスラボルト公爵家から追放するという愚かな処分もきっと撤回していただけると信じております」


 と言った。


 少し言い過ぎたとは思ったが。これぐらい言わないとウスディドール殿下も理解ができないのだと思ったのだ。


 すると、ウスディドール殿下は、


「ここまでずっと話を聞いてきたが、結局のところブリュレットテーヌが、この二人のことを侮辱しているということはよく理解ができた。そして、わたしに対しても、お前はわたしの下した処分のことを『愚かな処分』として侮辱をしている。公爵夫人に対する侮辱についても、許せないところだが、それよりもっと許せないのは、わたしに対する侮辱と、わたしの婚約者で聖女であるオギュレリアに対する侮辱だ。これはただの侮辱ではなく、王室に対する反逆になるので、さらなる処分が必要になる。ブリュレットテーヌよ、今まで侮辱したことを謝る気はあるか?」


 と微笑んだままわたしに言ってくる。


 怒りながら言ってくるよりも、微笑みながら言ってきた方が、より一層威圧感がある。


 しかし、わたしは、


「謝る気など、全くありません!」


 と言って、毅然とした態度で立ち向かう。


 わたしが謝ろうと謝るまいと、先程のことからすると、関係なく処分を下すだろうと思っていたので、なおさら謝る気はない。


「ならば仕方がない」


 ウスディドール殿下は王妃殿下の方を向き、


「想定した通りになってきました。ここは打ち合わせの通り、わたしが処分を下したいと思いますが、それでよろしいですね?」


 と言うと、それに対して王妃殿下は、


「わたしたちの想定通りですね。打ち合わせをした通りの処分でいいと思いますが、決断はあなたがしなさい。権限はあなたにあるのですから」


 と応えた。


 どうやら、わたしが取った態度は、ここにいる三人の想定の内だったようだ。


 とすれば、その処分の内容はどちらにしても、あらかじめ決めていたのだろう。


 ただ、どんな処分が下されるかというところまでは想定するのは難しい。


 生命を取られる心配もあるとは思っていたが、それは可能性として高くはないと思っていたのだけれど……。


 ウスディドール殿下は、王妃殿下に、


「わかりました、わたしの決断により処分をさせていただきます」


 と応えた。


 わたしがその言葉を聞いた後、ウスディドール殿下は、わたしの方を向くと、


「このブリュレットテーヌは、わたしの婚約者で聖女であるオギュレリアとわたし自身を侮辱した。これは、王室に対する反逆であり、しかもその反逆を続けて行っている。残念なことではあるが、これはもう厳しい処分をせざるをえない」


 と言って、一回言葉を切った。


 そして、ウスディドール殿下は、


「ブリュレットテーヌが自分の母親である公爵夫人を侮辱したことも許せないことだ。先程、わたしがお前に対して、フィスラボルト公爵家からの追放を命じたのは妥当な判断だったと改めて思ったよ。全く、お前という人間は、どうしょうもないとしかいいようがない」


 と言って笑った後、厳しい表情になり、


「ブリュレットテーヌがこのわたしとわたしの婚約者であり聖女であるオギュレリアを侮辱したことは、王室への反逆であり、王国法に違反している。ブリュレットテーヌは先程もわたしに対して反逆の意志を示していたので、これで二度目ということになる。一度目は王国法の適用はせず、わたしからの命令という形で、ブリュレットテーヌを公爵家から追放する処分を下したが、二度目の今度は王国法の適用をすることによって、王国法に違反した場合の処分の権限を持つわたしが、ブリュレットテーヌを処分することにする」


 と言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る