第6話 公爵家からの追放へ
ウスディドール殿下の決断。
ウスディドール殿下にはかなりの権限が委譲されている。
わたしに対する処分についても、ウスディドール殿下の判断でできるようになっているのだろう。
反逆だと決めつけているので、その処置は決して軽いものではないと思われる。
しかし、生命さえ取られなければいいとわたしは思っていた。
わたしは、
「どういう決断でございますか?」
と聞いた。
すると、ウスディドール殿下は、
「このままお前がわたしに詫びなければ、フィスラボルト公爵家から追放することになる。わたしに反逆するということはそういうことなのだ」
と応えた。
「でも、そうしたとして、跡継ぎはどうなさるのですか? フィスラボルト公爵家には、わたししか直系の人間はいないのですが?」
フィスラボルト公爵家は、まずお父様の子供がわたししかいない。
そして、お父様も兄弟姉妹はおらず、おじいさまにも兄弟姉妹はいなかった。
直系と言えるのはわたししかいないのだ。
ただ、ウスディドール殿下は、わたしにそう言ってくる以上、跡継ぎは直系にこだわらない方針なのかもしれない。
どういう返事をしてくるのかと思っていると、ウスディドール殿下は、
「跡継ぎのことなら既にも決めている。ここにいるオギュレリアだ」
と応えた。
「ウスディドール殿下、光栄なことに存じます」
「オギュレリアさんであれば、王妃としての公務を立派にこなしつつ、フィスラボルト公爵家の当主として立派にやっていけるものと思っております。そして、わたしも精一杯オギュレリアさんに尽くしたいとと思っております」
オギュレリアと継母は、うれしそうに言うが、特に驚いた様子はない。
王妃殿下は何も言わないが、驚いた様子もない。
わたしがウスディドール殿下に詫びるのを断ることを想定して、この二人と打ち合わせを重ねていき、その中で、わたしのフィスラボルト公爵家からの追放と、オギュレリアさんがフィスラボルト公爵家の当主の座につくことを決めたのだろう。
王妃殿下はその打ち合わせに入っていたかどうかはわからないが、少なくともこの二人が決めた時点で伝えられたのだと思うし、ここで何も言わないのは、了承しているということなのだろう。
国王陛下にもそれは伝えられているだろうし、もし、それに反対意見を持っていたとしても、既に権限がウスディドール殿下に委譲されているし、王妃殿下までが了承している以上、覆すことはできないだろう。
わたしはそう思ってきたのだけれど、根本的なところの思い違いをしているような気がしてきた。
わたしがウスディドール殿下に詫びたとしても、難癖をつけて実行された可能性が高いと思うようになってきたのだ。
ウスディドール殿下はオギュレリアさんのことを熱愛しているし、王妃殿下と継母、そしてオギュレリアさんとの絆は想像以上に固いものがある。
わたしは、一応、
「ウスディドール殿下、もし、わたしが今、ウスディドール殿下にお詫びをしましたら、追放処分は撤回されることになるのでしょうか?」
と聞いた。
すると、ウスディドール殿下は、
「そういう気持ちはあった。それは先程も申した通りだ。しかし、せっかくわたしにそのような気持ちがあったのに、お前はそれに応えることはできなかった。今までのお前の反撃で、面従腹背になることが理解されるようになってきたし、特に『直系はわたししかいない』というおごりの言葉を聞いて、これは間違いなくわたしに対して面従腹背になり、そして、脅威になると思うようになった。もうわたしの中でお前の処分は決まった」
と相変わらず微笑んだまま言った。
つまり、もうわたしがウスディドール殿下に詫びなかった時点で、わたしのフィスラボルト公爵家からの追放は決定したことになっていたのだ。
いや、というより、わたしが断ろうと断るまいと、フィスラボルト公爵家からの追放は決まっていたというのが、正確な理解だろう。
その場合は、もう少し酷い難癖のつけ方になったのかもれない。
そういう意味では、わたしがウスディドール殿下の要請を断ったのは、
「ウスディドール殿下に対する反逆」
という名分を与えることになってしまったので、ウスディドール殿下たちにとっては、計画がうまくいって、これほどうれしいことはないと思う。
その分、わたしにとっては、いいようにやられて、怒りは増していくばかりだ。
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