第5話 わたしの怒りはたまっていく

 ウスディドール殿下は何を言っているのだろう?


 ウスディドール殿下はオギュレリアさんの性格の悪さを知らないのだろうか?


 つねに傲慢な態度をとり、人を見下すような態度をとっている。


 学校の中でも、イジメをしているのはわたしではなくてオギュレリアさんなのだ。


 もっとも本人は、


「礼儀知らずの人に礼儀を教えているだけ」


 ど言っている。


 そして、イジメられている側の方も、ブルリルト公爵家の威光をおそれて、泣き寝入りしている状況だった。


 その為、ウスディドール殿下にはそうした情報は伝わることがないのだと思う。


 もっとも、もし情報がウスディドール殿下に伝わったとしても、オギュレリアさんとのラブラブさからすると、容易には信じることはなかっただろう。


 そして、今回も、わたしから婚約者の座を奪う為に、策略を使ったのだと思う。


 自分自身を使って。


 オギュレリアさんはわたしからウスディドール殿下を寝取ったのだ!


 そう思ってくると、またわたしは頭痛に襲われた。


 それと同時に、わたしの心の中に怒りがたまっていく。


 苦しい。


 頭痛の方は先程と同じく、我慢をしていたら短い時間でおさまったのだけれど、怒りの方はますますたまってくる。


 すると、ウスディドール殿下は、


「わたしに詫びないのか、お前は?」


 と再び迫ってきた。


 返事は一つしかない。


「なぜわたしがウスディドール殿下に詫びなければならないのですか? ウスディドール殿下こそわたしに詫びるべきです」


 そうわたしは返事をした。


「ほおー、言うね」


 ウスディドール殿下はわたしに対して微笑んだ。


 先程からウスディドール殿下は、わたしに対して怒りを抑制した口調で言ってきていたのだけれど、ついに微笑みまで浮かべたのだ。


 これはわたしにとっては意外な反応だった。


 わたしが詫びるのを断っているのだから、すぐに怒りの反撃をしてくると思ったのだ。


 怒りの反撃をしてくれた方が、わたしのこの怒りを闘志に変換することができるので、わたしとしては好都合。


 しかし、ウスディドール殿下の微笑みにより、わたしの怒りは一瞬ではあるものの、行き場を失ったようになってしまった。


 その隙を逃さず、ウスディドール殿下は、


「お前は詫びるべき時に詫びることができない厚顔無恥な人だね。わたしはますますお前との婚約をしていた時間が無駄だったことを認識したよ。この時間を今さら返せとはいえないから、妥協をしてせめて詫びてほしいと言っているのにな。オギュレリア、そして、公爵夫人よ。わたしの言うことは、決しておかしいことではないだろう? わたしは別に無理難題を言っているわけではないだろう?」


 とオギュレリアさんと継母に微笑みながら呼びかけた。


 すると、オギュレリアさんは、


「ウスディドール殿下のおっしゃる通りです。ここにいるブリュレットテーヌはウスディドール殿下に詫びなければなりません」


 と言い、継母は、


「この子はフィスラボルト公爵家の恥です。ブリュレットテーヌよ、今すぐウスディドール殿下に謝りなさい」


 とわたしに向かって言ってくる。


 この二人の言葉は、わたしの怒りを再び燃え上がらせる。


 オギュレリアさんに対しては、


 わたしからウスディドール殿下を奪ったくせに、何を言っているの!


 と思ったし、継母に対しては、


 わたしを長年イジメて苦しめてきたくせに、何を言っているの!


 と言いたくなった。


 しかし、この状況でそれらのことを言うのは、自分自身を追い込んでいくだけなので我慢し、黙っていた。


 すると、ウスディドール殿下は継母の方を向き、


「公爵夫人よ、このブリュレットテーヌは今、フィスラボルト公爵家の当主になっているのだな」


 と言った。


「そうでございます。ウスディドール殿下」


「このものに対しては、わたしが怒りを抑制して、詫びることを要請しているというのに、その要請を受け入れない。ということは、わたしに対する反逆と考えていいな」


「ウスディドール殿下のおっしゃる通りでございます」


 ウスディドール殿下は微笑むと、今度はオギュレリアさんの方を向く。


「オギュレリアもそう思うな?」


「ウスディドール殿下のおっしゃる通りだと思います」


「よし。では最後のチャンスをブリュレットテーヌにやろう」


 ウスディドール殿下はわたしの方を向くと、


「ブリュレットテーヌよ。もう一度だけ言う。わたしに詫びろ。そうしなければわたしも決断をしなければならない」


 と微笑んだまま言った。

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