第2話 納得できないわたし
わたしは、
「戯れでないのでしたら、理由をきちんと申してくださいませ」
と言った。
それに対して、ウスディドール殿下は、
「お前に言われなくてもちゃんと申すわ!」
と言った後、一旦言葉を切った。
そして、
「お前との婚約を破棄するのは、一番目の理由として、お前とはフィーリングが全く合っていないということ。二番目の理由としては、お前の性格が王妃としてふさわしくないということだ。お前は家では継母をイジメ、学校でもイジメを行っていると聞く。こんな人間がどうして今までわたしの婚約者だったのか。理解ができない。わたしがお前の性格を知っていたら、婚約などしなかっただろうに」
と吐き捨てるように言った。
わたしはその言葉を聞いて、腹が立ってきた。
本当にフィーリングが合っていないかどうかはまだわからない。
わたしたちはまだロクに会話もしていないのだ。
そういう言葉は、ある程度付き合ってから言うべきだと思う。
この一番目の理由にも腹が立ったのだけれど、二番目の理由にはもっと腹が立った。
わたしは気品のある態度を取るように努力していたので、人からは傲慢な態度を取っていると誤解されたことはあった。
それをイジメだと解釈する人がいて、ウスディドール殿下に伝えた可能性がある。
心外だと言わざるをえない。
特に継母については、イジメたのは継母の方であって、わたしではない。
わたしはウスディドール殿下に反論しようとしたのだけど……。
ウスディドール殿下はわたしに反論する隙を与えない。
「ここまで話をしたことだけでもお前との婚約を破棄した理由になるだろう。しかし、一番大きな理由は、本当の意味でわたしの婚約者にふさわしい女性が現れたことだ。その女性は聖女の資質を持っていて、その資質のないお前よりもはるかにわたしの婚約者としてふさわしいのだ。どうだ、理解したか? これだけ理由があるのだ、わたしが婚約破棄を決断するのも当然だろう」
ウスディドール殿下は厳しい口調でそう言った。
治癒魔法の能力が高く、高潔で、この王国の教会に認定された女性のことを聖女という。
王国の人たちからは尊崇される存在。
この世界で治癒魔法を使えるのは女性だけ。
その女性のことを「治癒魔法使い」と呼ぶ。
各王国にはその「治癒魔法使い」の養成学校があり、この王国にもその学校は存在していた。
ただ、ほとんどの人の場合、軽い病気や軽いケガを治す程度の能力しか持っていない。
聖女と認定されるには、重い病気や重いケガを治すことができるほどの高い能力が必要。
これほどの能力を持ったものは十年に一度にしか現れないと言われている。
貴重な存在だ。
ただ、歴代の聖女の中には、高潔といえない人たちが散見され、その中には自分の利益を第一にする人たちさえもいた。
そういう人たちが存在しているのは、聖女にまず求められるものが、治癒魔法の能力の高さだったからだ。
人格に難があっても能力が高くて、その能力を発揮することができるのであれば、貴重な存在なので、尊崇されたのだ。
国王にとっては、こうした貴重で尊崇される存在の女性を王妃として迎い入れることは、自らの求心力につながるし、自分の健康を維持するという意味でも役に立つ。
その為、王国の法としては定められることはなかったものの、聖女が出現した場合は、優先的に王妃として迎い入れるという風潮があった。
王太子の時に迎い入れることが多いので、最初は王太子妃ということになる。
しかし、わたしにとっては納得できるものではない。
わたしは残念ながら治癒魔法を使うことができないのだけれど、それでも現時点ではわたしがウスディドール殿下の婚約者で、これから王太子妃、王妃になっていくのだ。
ここでその座を譲ってたまるものか、と思う。
「ウスディドール殿下、わたしはウスディドール殿下のおっしゃることに納得することはできません」
わたしはそう言った後、反撃を開始しようとしたのだけれど、ウスディドール殿下は、
「うるさい! もうわたしは決めたことなのだ! お前には何も言う資格はない!」
とわたしに対して叩きつけるような大声で言った。
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