第9話 空白

東海地方のかおるの実家で、僕はかおるの遺体と対面した。頭には包帯が巻かれ、顔は口元だけしか見えなかった。それを見たとき、僕は、かおると子供を失ってしまったことを実感した。


でも涙が出ないのはなぜだろう。僕はほかの誰よりも大泣きに泣くだろうと思っていたのに、涙が出ない、、、、、?


昨日の朝の、かおるとの電話で、一秒でも長電話をしていたら、、、、、


なぜかおるが、なぜ動かない? なぜしゃべってくれない?????


ただ明日になったら火葬、かおるが砂と、骨と空気だけになり、海へ帰っていく? これまでの僕の人生すべてが、言葉にならず、喉の下にあって、ありとあらゆる感情を抑えていたのだが、泣けない僕はあの海岸、九州の海に行けば、必ず、かおるに会えると考え部屋を、かおるの実家を抜け出した。本当のところは、火葬と聞いて、逃げ出した格好である。それから急いで新幹線に乗り、福岡の博多駅に着いてすぐに、タクシーに乗り換え、行き先を告げた。その後どうやって話をしていたのか、その後どうしたのか記憶は、定かではないが、気がついたら、ぼくはあのかいがんにたっていた、、、、、!


かおるが、ティファニーのシルバーリングが入っていた、包みごと捨てたあの海岸である、、、、、!


そして気がつくと、かおるとの想い出を一つ一つたどっているのだった。ゆっくりと一つ一つ思いつくままに、浮かんでは消えたのは、大切にしていた時間である、、、、、!


そして砂浜からゆっくりと海へと歩き出しながら、思い出せるだけ思い出すと、また初めから思い出す、、、、、!


僕の頭の中で、かおるとの時間、二人だけの時間が、共有されるまで、あと少しというところまで、、、、、


その時砂浜のほうで誰かの声がした。ほっといてほしいなー、僕は今大事なことをしている最中なのだ、、、、、!


また誰かが何か言っている。うるさいなー、今すべてを思い出しているのだ。最後の大事なところが思い出せないじゃないか、、、、、!


ええっと、僕が自分のアパートに戻った深夜、固定電話のベルが鳴ったのだ、、、、、!


その電話は、その、で、ん、わ、、、、、?

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