第9話:夜這イ
Reader-A37
「ここが……中央都市ガイアピットか」
人が雑多となって徘徊するメインストリート。その中央にポツンと佇む、くるぶしまで隠れるくたびれたローブを羽織った浮浪人が一人。
それが俺のことなんだけどな。
傍から見たらものすごい不審者なんだが、誰も注意を向ける以前に、認識されておらずいないものとされていて……………この国を包みこんでいる暗雲の一角、それがこの光景の正体として、もやとなって広がって満ちている。
「まぁ、今の俺にゃ関係ないか、煙草買いに行こーっと」
にはは、と笑い流しながら、目的の路地裏を探すために、人が波となって入り交ざる濁流を遡る。
「メインストリート6番街脇の商店街、オルターが常連のコロッケ屋さんのとなりの路地をまっすぐ……」
例によって正確な地図などは何一つ無いが、前世の記憶と言う名の蜘蛛の糸を、ちぎれぬように繊細に手繰り寄せる。
「……………くそ、ここまでか?」
2,3回曲がったところで、流石に手がかりが無くなってしまい路頭に迷う。こうなったらぼっち人海戦術しかないか?
―――にゃーん
「……猫?」
イベントにもあったな。主人公たちは猫を追いかけて路地の更に深くへと誘われる……
「……」
反射的に、その声の主が進んだであろう方向に歩を進める。
何度も曲がってはそのたびに見失うが、自分の身体のスペックをフルに使って追跡する。
奥へ、奥へと導かれ、この場を満たす湿度が幾分上がったと思った頃。
「なーん」
無造作に配置された段ボール。その中に、怯えている様子の子猫が三匹と、俺をこの場に導いてくれた声の主が一匹。
「俺はね、正当な労働にはしっかり対価を払う主義なんだ」
手に下げたカバンからコロッケを取り出すと、丁寧に油衣を取り外し、猫舌でも大丈夫な温度に息を吹きかけて冷ます。
「ほれ、おあがり」
母猫が恐る恐るパクリ。大丈夫と判断したのか、そのまま子猫に与えるところを確認した後、この路地にいるもう一人に声を掛ける。
ホームレスにしか見えない格好で壁にもたれている姿は、なんとも言えない哀愁を関しるが、そんなことは気にせずに話しかける。
「やあ」
「……」
「コロッケ、食べるかい?」
「……(首を横にふる)」
「……そういえば、3ブロック前の大通りで黒猫が横切ったよ、いいことでも起きるかな」
「……そいつは良かった、色は何色だったんだい?」
「真っ白な猫だったよ」
いくつか会話を交わした後、男が、自分がもたれていた壁を手元にある杖で決められたリズムで叩く。
「ありがとう、コロッケ食べるかい?」
「いただこうか」
壁から生まれた通路を通って、
「—————うわ、すご」
カビ臭い倉庫の半地下、雑多に暮れた人々が密集し、空気の悪い熱を生み出していた。
「さてと……」
体の彼方此方に、何かが接触するように移動せざるを得ない、そんな中俺が見つけたのは煙草屋だ。
酒、煙草、コーヒーなんかの嗜好品は、節制令により市民にはあまり出回らないし、買おうとしても手が届かない値段だ。だからここみたいな場所で買うしかないのだが、
「えぇ、ここキャッシュ無理なの?」
こう言う場所で取引するには……………
「親父、アメリカン1ダース」
ドン、と机に乗せられたのは、量産型の足。
「Olivia、いやEmmaシリーズか。まけて5だ」
「チッ! 粗悪品が!」
吐き捨てる様に悪態を口にし、差し出された箱を奪い取る。
「……………お客さんはもう少しまともなもん出してくれるか? 今はLicaシリーズのFから上がマニアに高く売れんだ」
◇◇◇◇◇
Reader-主人公
「お疲れ様です、指揮官」
「お疲れ様。怪我はもう大丈夫なのか?」
「何度同じことを聞くのですか、3日前にとっくに完治いたしました」
「そうよ、何しみったれた顔してんの、幻想少女なんてただの捨て駒、いいところ兵器でしょ」
「イエルロ!」
「だってそうじゃない! 体をスペアに変える?
「イエルロちゃん、ちょっとお痛たが過ぎますよ」
普段温厚なブルースの怒気にたしなめられ、納得いかないという表情のまま、すごすごと口を尖らせる。
「……指揮官、お休みになられてはどうでしょうか」
「……あぁ、そうするよ」
そのまま指揮官室の扉を開ける。
気まずそうな静寂を背にして……
「……今日も書いてから眠るか」
最近、再び日記を書き始めた。電子化が主流となった今では、製造している元が貴重となった紙製の日記帳。
カリカリ……と万年筆のペン先を動かす音だけが聞こえる。
「……窓なんて開けてたか?」
この部屋に風の流れを感じ、窓に視線を向ける。
案の定、開け放たれたガラス戸を締め切り、鍵を上げる。
―――中に侵入者を招いているとは知らずに。
「こんな夜分遅くに窓を開けたままとは、いささか不用心じゃないかい?」
「!!??」
声に驚き、とっさに振り返ると、
「クロノ……ホワイト……」
「やあ、いい天気だね」
「……この地下の世界に、天候があると思うか?」
「俺は地上のことをいいたかったんだ。満点をあげたくなるくらいの土砂降りだったよ」
にはは、と掴みどころのない笑い方を上げるクロノ。
冷や汗を流しながら、どうこの場を切り抜けるべきか思考を加速させるのだった。
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幻想少女のなり方について
1つ目
①半年に一度、有志を集めるアンケートが配布される。
②適合者と準適合者に分ける。
③適合者はオリジナルとして、準適合者は量産型としてそれぞれの企業に配られる。
2つ目
孤児院などの身寄りのない子供や、医療機関から脳死と判断された子供をそれぞれの企業が買い、育成したのち1つ目の②にかけられる。
3つ目
身体的に障害があり、親か自身が希望して幻想少女になる。この場合、非戦闘用に制作されることが多いため、適合者が多くなる。一定の権力者が希望することが多い。
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