第8話:【急募】ミステリアスってどこですか?

Reader-主人公


「その幻想少女……いや、

時計弄りの白クロノ・ホワイト』だったか?」


緊迫感漂う空間に、部屋の主と俺とで二人きりの密談。


「新たなS級殲滅者スレイヤーは一瞬にして姿を消した。君の部隊の証言によると、その姿が量産型幻想少女:Licaシリーズに酷似していた、と……」


クロノに助けられ本部に戻った後、俺は総指揮官の部屋に呼び出されていた。


「はい、違う点はいくつかありましたが、あれは確実にLicaでした。過去に役目を終えた子などの確認は行っているのでしょうか?」

「あぁ、過去にされたものに関しては現在調査中だ。もっとも、Licaシリーズは量産型の中でも最古参、古いものだと100年以上前に誕生したものも現役で活動している。無駄骨に終わるだろうな」


処分、という言葉に、手の皮が白くなるほど固く結んでしまう。


「それで、クロノについて教えてくれるか?」

「はい。大部分はLicaとなんら変わりはありませんが、指先まで隠れるほどの黒いロングコートにズボン、紫色の目、左目に眼帯、喫煙者。そして……気怠げそうなと、対象を殲滅する際はとてもを。俺たちに対して、笑いかけるなど、感情があるようでした」

「それは……


俺に届かないように細心の注意を払った呟きが、当人の思惑に逆らって俺の耳に入る。


「ありえない、とはどういうことでしょうか」

「! ……なんのことだ?」

「いえ、いま……なんでもありません」


これ以上追求するな、と言わんばかりの視線に刺され、そのまま話を中断させてしまう。


「最近、頭を悩ませる状況ばかりだ。ご苦労だったな、しばし休暇を楽しんだのち、新たな任務を与える」

「はっ、失礼します」


総指揮官に促され、この場から退室する。






しかし、俺がいなくなった後の指揮官室では、また新たな波乱が生まれようとしていた。


「……………ふぅ」

「なかなか、興味深い話をしておったな?」

「!? こ、これは。貴女様程の方がどうしてこの様な場所に?」

「何、わしも興味があったのじゃ。もしかして、やも知れぬからな」






◇◇◇◇◇






「どうでしたぁ?」


入り口で待機していたブルースが声をかけてくる。


「緊張したよ。あの人を見たのは入軍式の舞台挨拶をされているのを見たくらいだから、まさか会話をする機会があるとは思わなかった」

「それだけ私たちが立派に任務を果たした、ということですぅ。幸いにもスカレットちゃんとイエルロちゃんもスペアを使わずに修復を終えたようですし」

「それはよかった。……でも、俺の力で得た結果じゃない」

「イレギュラーはありましたけどぉ、クロノ・ホワイトが到着するまで時間を稼いだのは指揮官のお手柄ですぅ。誇っていいですよぉ」

「ありがとう、そう言ってもらえるとうれしいよ」


笑いかけると、俺の周りでぴょんぴょん飛び跳ねながら、何かをしようと模索し出したブルース。


「むぅ〜、ちょっとしゃがんでください!」

「ぅ、うん」


彼女の鳩尾の高さまでしゃがみ込むと、ポスっと頭に何かをのせられる感覚があった。


「よしよし、頑張りましたねぇ」


どうやら、足りない身長でどうにか頭を撫でようとしてくれていたらしい。仲間の温かさを感じながら、総指揮官の部屋の前でやることじゃないなと思い立ち上がる。


「もうちょっと撫でられてもいいんですよ?」

「ありがたいけど、また今度」

「そうですかぁ。それにしてもクロノ・ホワイトって誰なんでしょうか?」

「本当にね……クロノ・ホワイト、一体何者なんだ……」


醸し出すミステリアスな空気感を思い出しながら、指揮官室へと帰路に立つ。






◇◇◇◇◇






Reader-A37


「はぁ、はっ、はぁ、はぁッ、」


戦争の残骸にもたれかかり、肩で息をする俺。燃え残った廃材戦争の象徴に肩を貸されるとは、俺も随分落ちたな。


「すぅ——……フゥ———……けほッけほ!」


煙草に火を付け、咳き込みながらその動作を反芻する。


「滅多に使うもんじゃねえな、必殺技タキオン


体温を調節する回路がイカれたのか、身体中から湯気が上がりそうなほどの高熱に犯され、強化骨格を修繕していない全身に追い討ちをかける様な極負荷に、尋常じゃない量の脂汗を流す。


視点を落とすと、異常な方向に曲がった右大腿骨。


「今、やらないと、ヤバいな。最悪機能しなくなる」


自ら歯に自身の服を噛ませ、ズレた足骨を矯正する。


「フゥ———ゥゥッ! フゥ———ゥゥッ! —————ッッッゥゥゥゥゥウウウ!!!」


———メギ、ゴッガ、グチョ、ビキビキビキ




———ガギッ!!




「はぁ……はあ……はぁ……………にはは」


痛い、痛いというのに思わず笑いが込み上げてきてしまう。


「やっと会えたね、名前も知らない主人公君」


今はこれでいい、体を治したらまた会いに行こう。




ようやく訪れたシガータイムに、俺は落ちる様に意識を失った。


======================================


Licaシリーズの製造年代


Licaシリーズの最も古いA01は、約110年前にDr.フォードボルトによって製造され、プロメテスインダストリーに製造法を委託されたことが資料に残っている。No.AからBに移るまで20年近いラグがある。

現存して稼働中の幻想少女の中でもっとも古いのはLica-A03であり、オリジナルとして最古のオルターとは11年の差がある。

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