第7話:紫煙で肺を焦がしながら

「……ふぅ——————」


道中、名無しの指揮官の死体から奪ってきた煙草に火を付ける。


肺の細胞を全て燻し殺すように紫煙を充満させ、尖らせた口先から噴出させる。


「ケホ……ケホッ」


粘膜を刺激され、焼けるように痛む喉を労うための咳払いを二つ。目尻に雫を浮かべながら、吸っては吐いて、吸っては吐いてを繰り返す。


「……ん、そんなに美味くないなぁ」


脳裏に、親代わりになってくれた土木屋の親方の匂いを思い浮かべながら、追悼を表す線香のように口元から立ち昇る一筋の煙。


これは俺にとって、一つの儀式であった。


「……………量産型」


困惑を隠しきれない声で、主人公くんが喉から声をこぼす。へえ、顔初めて見たけど、結構童顔なんだなぁ。


まぁ、そりゃそうだよね。九死に一生を得るための最後のチャンス、それが塵ほども役に立たない量産型で潰れたんだ、がっかりだよな。


「……にはは」


思わず笑いが立ち込めてくる。この場の主導権は俺が握っているんだ、どんな行動をしてもそれを嗜める人はいない。







「ならさ、なっちゃえばいいじゃん理想の幻想少女!!」







今から俺は

この瞬間から、Lica-A37、それが今の俺の名前だ。


左目の眼帯を千切り捨て、高らかに叫ぶ。


「加速しろ、俺だけの世界……『超越加速タキオン』」






◇◇◇◇◇






「『超越加速タキオン』」


突如現れた彼女は、明らかな意志をもって。量産型が異能を持つことはありえないはずなのに……………


瞬間、彼女を中心として。知覚はできている、しかし身体が少しも動かない。


目を見開いた状態で目の前の光景を見ていることしかできない。


まるで重力など感じていないかのように、軽やかに前に飛び跳ねたと理解した瞬間、抜刀された剣で抵抗など感じていないかのように刃を鉄の塊に滑らせる。


一体、また一体と次々に一刀の元に置いて両断されていく機械人形。音すら無い無機質な空間の中で、曝け出された彼女の目だけが爛々と輝いている。


流れるように首に値する部位を跳ね上げ、コアを貫き、時に千切るように乱雑に、時に花を手折るように丁寧に……………






結果、30秒足らずで52体の機械人形を殲滅した。







君は誰なんだ?


そう紡ぎたいのに言葉が出ない。


俺の視線に気がついた彼女が、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる—————





















そう思った瞬間には、すでに彼女に抱きつかれていた。


「———ッ」


『何を』


そう声を出そうとしても、肺から空気が抜けることすら出来ない。ただ彼女の体温を感じ、全身の柔らかさ、それに比例する儚さを感じることしかできない。






『頑張れよ』







囁くように、蠱惑的に囁かれたと認識した途端、彼女のぬくもりが消え、世界は元に戻っていた。


「…………! みんな大丈夫か!!」


その後、白髪の君に命を拾われた俺たちは、起きた出来事を上層部に報告。


謎の幻想少女を新たなS級殲滅者スレイヤーと認定、呼称を『時計弄りの白クロノ・ホワイト』とし、調査を続けているが、全ては謎のままである。


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殲滅者スレイヤー


組織に所属せず、個人的に機械人形を狩り続けている幻想少女の総称。

誰からも称賛されることは無い。しかし彼女たちにとって、獲物の断末魔こそが祝福し讃えるための讃美歌なのだ。


S級


戦場に置いて、特別な力を持った幻想少女に与えられる称号。

1人で盤面をひっくり返すほどの影響力があり、国によって厳重に管理されている……………とされていた。70年前、とある『統率者コマンダー』が解放するまでは。

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