第2話:食えたもんじゃないです

「しくじったな」


ありのまま、今起こったことを話すぜ。

塵の楽園ダストピアからシューターを逆にたどって、貧民街に出たはいいものの、人に見つかって逃亡。

街総出で追い回されて、なんとか郊外に出ることに成功したは良いが、ぶっ壊れたスラスターが暴発して、防犯ネットに片足囚われたまま宙吊りになっている。


このままさっきの集団に見つかったらやばい。なぜかと言うと、幻想少女の体は金のなる木だからだ。


パーツをバラして売りつければ、その地区でトップの大富豪になれるからな、わざわざ助けて国に提出し、二束三文を得るよりもずっと重いものが懐に入る。


「てってれー、バーナーカッター」


ゴミ箱にシュートされる前に武装を解除されなくて本当に良かった。


量産型とはいえ、整備直後で有り余るパワーを生かして、前世の肉体では絶対にできない挙動で縄を切る――


「おうッ、あう、ごべぇッ!!?」


重力の流れで下に落下。そのまま体中をぶつけながら静止を待ち、ぼろぼろ雑巾になりながら立ち上がる。


「ぁ、ふっ、こ、ここらへんに確か……」


地上に行くためのエレベーターがあるはず。


この世界の大体の情報はメモリーの記憶媒体が記憶している。そして俺はLicaシリーズの初期組No.Aであることから、今では消されている情報も大体入っている。


そのうちの一つが、閉鎖されたエレベーターだ。

自身の身体を電子体として打ち出すことで、超高速な疑似テレポートを可能にする『クラウン』の超技術。


「これか?」


下民に部品等を奪われないように精巧に隠されていた機構を掘り起こし、ケーブルをつなぎ直す。


「整備の仕方くらいインプットされてたりしなかったりぃ」


主な問題は大方直ったが、最大の問題が一つ。


「ありゃあ、電子結晶がパワー切れだ」


最後に使われたのは10年以上前だからな、エネルギーが長い年月を経て揮発していったんだろう。


「つけ直したら一回分くらいは動くか? ほら、リモコンの電池と一緒で」


問題は、このエレベーターでは地底に戻れないことだけど。


「……………スゥ———、ふぅ、うん、まぁ、なんとかぁ……なるか、時間もないし、うん」


てなわけで電子結晶をポーン! スイッチポチッ!


「おぉ?」


転生してから初めて味わう浮遊感。バチィ!! と音がなった瞬間―――――
























「夕焼け小焼け」


西日が差す、美しく残酷な地上へと降り立った。






◇◇◇◇◇






「つらい」


時代を感じさせる塹壕にこもりながら、剝ぎ取った生皮を頭からかぶって震えを落ち着かせていた。


今日の晩飯はバイソン型汚染獣の生肉。放射線やその他諸々の病原体に侵されたリスクたっぷりの一品、ぜひそのままの味でお楽しみください。


流石に脂身とかモツなんかの部位は避ける。限界までこそぎ落として、消毒液に2,3時間漬け込んだものにかぶりつく。


「ごぼお゛ぇ―――!」


むせ返るほどの薬品臭、消毒で取れなかった分の危険成分に、体の異常を知らせるアラートが鳴り響く。


「せめて火で焼いて殺したいところだが……」


下手に明かりや煙を焚くと、獣がよってくるからな。今はこれで我慢するしか無い。


「つらいぃいぃぃ……………痛っ!!」


あっっっと、この即効性のある頭痛と吐き気はサバスウイルスの変異種、だな? 体の痙攣、走るような痛み、目の乱視はエレキ病だし、さっきから出てる快楽物質と眠気、発熱は夢魔病だろ。


「がふっ!? あ、あぶねぇあぶねぇ、ごぶ、全部エリクスの範囲内で良かったわ」


吐血しながらそれを確認すると、胸元から取り出した錠剤をラムネ菓子のように噛砕き、吐血した喉で嚥下。膝を抱え丸くなり、体中を這い回る脂汗や悪寒と戦い耐える。


「落ち着け、落ち着け。大丈夫だ、幻想少女の抗体と耐性、あとエリクスを信じろ、よーし」


万能薬エリクス。大体のウイルスを駆逐する作用があり、地上戦で生水を飲まなければならない時、砕いたエリクスを溶かすことで98%の病原体を駆除できる。残りの2%が怖いが、今はこれで進むしか無い。


「……………怖いっ」


何度も頭を過った言葉、『どうして俺がこんな目に』。


「……………おーし、汚染獣が沈静化する夜の間がチャンスだ。ぶっちゃけ、なんの対策も練らずに地上に出れば、放射線で一週間も待たずに死ぬからな」


エレベーター基地からかっぱらってきた工具箱で、破損した足を整備しながら次の方向を決める。

目指しているのは、『第14回サブイベント:空は誰のもの?』で発見されたと言われている、最初期の幻想少女工場だ。ソシャゲあるあるでどこにあるのか、主なマップはわからないが、公式が発表した設定集では、スペースD:第三プラントのエレベーターを乗ったらまっすぐと書かれていた。

現在位置は第二プラントから南下、第三プラント上部に着いている。うまくいけば、明日の夜にはたどり着いているだろう。


「んお、脚部コアがとけかかってる。どおりで痛いと思った」


駄目になった部品を外し、最低限動けるように組み替える。


「よし、出発!」


笑う膝を叩き、にじむ瞳から生理食塩水を振り落とし、ほころびた笑顔を作る。




真の理想が、きっとそこにあると信じて。


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貧民街


この国では、中心部から離れるほど貧しくなっていく。ろくな仕事にありつけず、ただ日々を浪費していく生活を送っているが、それでも生きるために食わなければならない。強盗、物取り、殺人が蔓延る場所であっても住み続けるしか無い。ここ以上に安全な場所など無いのだから。


Licaシリーズ初期組


Licaシリーズの型番は、Aに近いほど古く、1に近いほど昔に作られている。AからZまで、1から99までを想定しており、今機能している中で最も新しいのはNo.Jの49番である。


電子結晶


電気エネルギーから錬成に成功したエネルギーの塊であり蓄電式。幻想少女の動力としても採用されている。


食事


幻想少女の生命維持は電力によって賄われているが、やむを得ない事情がある、もしくは本人の希望により、有機物接種による小型電子発電炉により分解されたエネルギーを利用することができる。しかし、電子に変換できない、もしくは回路を蝕む何かが体内に入ってきた場合、即座に修復材及びエリクスの接種が好まれる。

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