第1話:逝かれた足を引きずりながら。

プシュゥゥゥゥゥ―――


空気が漏れ出した音を立て、コールドスリープ装置のような機械のハッチが開く。


「………よかった、無事に修復されたみたいね」


(こ、こは?)


朦朧とした意識の中、頭の中を反復するように響く声、その主をぼんやりと眺める。逆光になっており全体像しか見えないが、声質的に女性の物だとわかる。


「いくら量産型といえど、使っているのはまだ年端もいかない少女たちの命だもの、直らなかったら、信じて預けてくれた親御さんたちに申し訳ないわ……………それに、ね?」


俺は確か……家で倒れて……


「Lica-No.A! 立ちなさい!」


装置に入っていた俺以外の人たちが全員立ち上がる。


「……ッ!?」


驚いたのは、その少女たちが全てだったからではない。半透明なバイザー越しのその顔が、ハマっているソシャゲのRレアキャラクター、『Licaシリーズ』に酷似していたからだ。

故に、絶対規則が指示されているはずの量産型幻想少女のの反応が遅れた。


「……あら? 一人反応しない個体がいるわね、完璧に修復したはずなのに……心苦しいけ、処分ね」


瞬間―――――俺の体は空を舞っていた。縦横無尽に吹き荒れる風圧に無理やりワルツを踊らされながら、確実に地面へと近づく俺。


「―――ッ! 死んでッ、たまるか!!」


呆けた脳を再起動させ、咄嗟に脚部に配置されている推進装置スラスターを起動させる。しかし、これは戦闘時の平行移動を目的とされたもので、宙にとどまるだけの出力は無い。

更に言えば、姿勢制御装置なども存在しないので、荒れ狂う体を自ら正さねばならない。


「くっ……そ!!」


頭の中で警鐘が鳴る。異常を伝えるブザーが、スラスターがオーバーヒート寸前であることを警告してくる。


「こッ―――れだ!!」


最後の力を振り絞り、廃棄されたものが行き着いた末に突撃する。


ガラガラガラと崩れ落ちるごみの山、俺は……


「ハァ、ハァ、ハァ―――」


五体満足でなんとか生還していた。


「ここは……」




ダストピア塵の楽園


ソーシャルゲーム『ホロウメモリアル』に登場する、『地底都市:パラディーソ』の廃棄物が全て行き着く投棄場所。

放浪人は日々宝の山を漁り、売却して得た金で、文字通り臭い飯を食っている。1日1日を生き延びるために……




「……本当にここはホロメモの世界なのか?」


右太ももの付け根の汚れを、そのへんに落ちていた泥に塗れた布切れで拭い取る。


『プロメテスインダストリー Lica-A37』


「……ここからどうするかねぇ」


まず年代の把握だ。意識が朦朧としていたが、俺の部隊を襲撃した敵対存在は『バーナテヴィル』で間違いないだろう。やつが活発に動き出したのは、主人公が軍に……HMDホロウメモリアルドールズに指揮官として加入してからだ。


つまり、ここからメインストーリーが開始される。


ホロメモは、ソシャゲにしては珍しくマルチエンディングを採用しており、最初の転換点となるのは……


「第四進行中……」


俺はそこで主人公を補佐し、正しく導かなければいけない。そうでなければ楽園パラディーソは破滅の一途をたどることになる。


「力がほしい」


自我があるとはいえど、所詮肉体の性能は純正幻想少女の足元にも及ばないし、特殊能力すら無い。




思い出せ……………




「……いくか」


一つの目標を定めた俺は、イカれた両足を引きずる。


全ては主要キャラクター達の平穏のために。


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幻想少女:ホロウ・メモリアル


第三次世界大戦によって、世界中全ての土が汚染されてしまった地上。人々は各国の脅威から身を守るため、地下に巨大な空洞を掘り、都市を建設。二度と脅かされることのない平穏を望み、名を『理想郷パラディーソ』とした。過激化する差別、不足する食料、日に日に募る不満。


政府は、少女を媒体とすることで稼働する兵器、『幻想少女』の開発を発表。


再び青い空を見るために、少女たちは戦い続けるのである……

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