豪剣VS狩人

 闘技場近く、ジャングルの中。木々やツタが生い茂っている。コウコウと謎の鳥のさえずり。実に自然豊かだ。


「対戦相手どこだよ」 


 全く人の気配がなく、リュートはやさぐれていた。


「クソゲーか?」 


 立ち止まり、溜息ひとつ。少し休もうとする。


 その矢先やさき


 木々の間を通して銃弾が飛来。


「んあ、危ねぇな」 


 リュートはすんでのところで刀で弾いた。


「ふむ。どうやら凡人ではないようだな」


 どこかに潜むのは熟年じゅくねん狩人かりゅうど。風のように静かなる声。リュートの耳には入っていない。


 ラストパレード。整えられた白髪。彫りの深い顔からはいくつもの戦線を走り抜けてきた軌跡が浮かぶようだ。翡翠ひすい色のガウンを羽織っている。不動の姿にはプロの風格。


 狩人は、再び狙撃銃スナイパーライフルを構えた。


 自身の誇りプライドに懸けて、放つ。


「次は外れない」 


 ――尋常じゃねぇ速度だな。が、動きが直線的。俺の反射神経なら余裕で躱せる。次は左脚狙いか。


 確信した剣士。だが。


 弾丸が、有り得ない方向に軌道を変えた。


「ぐっ――! マジかよ!」 


 そして深々とリュートの右脚にねじ込まれる。


 よろめき、膝をついた豪剣。


「その程度で寝るな」 


 追い打ちをかけるように、もう一発。


「ぐぐぅっ!」 


 右腕を守るも、左腕をやられるリュート。


 ――くそ。弾丸の軌道が直線じゃなくなったせいで居場所も分からねぇ。だが、なにか狙いがあるはずだ……! 


 作戦を考えあぐねているうちに。


「あ? 身体が、動かねぇ……!」 


 弾丸に塗られた毒が身体を支配。


「若さゆえ、経験をもつ者に届くことはない。トドメだ」 


 豪剣に向けられた最後の銃弾が、放たれる。


『おい、えぐい映像になるぞ! みんな目を伏せろ!』 


 会場の、阿鼻叫喚。誰もが豪剣の敗北を想起した。しかし。


「ふぅ。やあっと分かったぜ。お前はこっちだ」 


 心臓――ではなく、脳天に向かってきた弾丸を刀で弾いたリュート。


「なに!?」 


 ここにきて狩人が二点に驚愕。


 一つ。毒でもう動くはずのない身体が動いたから。


 二つ。絶対に読まれることのない、自信に満ちた発砲が、通じなかったから。


「ひねくれた性格が災いした……なぁ、狩人ぉ!」  


 叫ぶ豪剣。真っ直ぐさをこめた確信をもって――


「おらぁっ!」 


 抜刀。


 刀から繰り出される一閃。空を切り裂き、彼方へ剣閃けんせんが飛ばされた。


 ――遠く遠い、時計塔の屋上。


「バカな。何者なんだ、あの剣士はッ……!」 


 剣閃が直撃し、倒れ伏したラストパレード。


『ウォォォォォォ!』 


 会場が、一連のどんでん返しに熱狂。


『そういうことか……!』 


 勘のいい観客が気付く。


『あのオッサン、最初の一発で実力を測っていたんだ……! そこで油断して狙いと逆の部分を撃つっていう作戦を安易にもとった。いくらでもやり方があっただろうに』 


 若さゆえの爆発力と、閃き。それが逆転の一手となったのだ。


「……ふふ、だが満足だ。わたしは敗北者。これで心置きなく引退できる」 


 その身体が光に包まれ消えゆく。


 自身の誇りプライドに支配された男の、解放のときだった。


 豪剣VS狩人、決着。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る