第4話 前橋霞は魅了する。①
今回のフレッシュマンキャンプの目的地は、群馬の北部にある牧場。俺の地元でもあるため、馴染みがある場所だ。動物はもちろん、ちょっとしたアクティビティも楽しめる。スケジュールにBBQの文字があったが、できることは知らなかった。
その後はホテルにて交流会みたいだが、正直に言ってしょぼい。これは企画する側の問題なのか、予算的な問題なのか分からないが、バスの中でも「地味じゃない?」「びみょー。」みたいな言葉が上がっている。別に俺は期待はしてなかったが、楽しみにしている人からみたら拍子抜けだろう。
1時間ほどバスに揺られ、目的地へと着く。道中は昨日のようなことは起きず、高崎緋彩も隣の女子と楽しく談笑している様子だった。
外に降りるとやはり寒い。気温的には5℃も違う。薄着で来た学生もいるようで、口々に寒さを訴えている。早速BBQ会場へ向かい、そこでようやく全員集まっての挨拶となった。よくよく見ると、引率は教員だけでなく学年が上の学生もいるようだ。こういうのに参加するだけあって、陽キャな人たちに見える。
その中で一際目を引く女性がいた。一言で言えば超絶美人。身に包む純白なワンピースは、胸元まで伸びる、白味がかった艶やかなロングヘアーと相まって眩しいほどだ。
他の学生たちもそれに気づいて「うわ、めっちゃ美人」「綺麗だよねー」と感嘆する声が上がる。
そのうちの誰かが気づいたようで
「ねぇあの人って去年、1年生だけど
と周囲に確認している。
その真実はどうであれ、ミスグランプリになってもおかしくはない容姿をしていることは間違いない。先ほどまで寒さを口々にしていた学生も、BBQの準備で忙しそうにしていた牧場スタッフも皆彼女を視界に入れた途端、全てを忘れて見惚れる。
キーンというマイクのハウリングが、全員のチャームという状態異常を解除し、現実世界へと戻す。
「えー、それでは皆さん、改めましてこんにちは。今日から明日にかけてみなさんの引率を担当する
1号車のバスの点呼を取っていた教員だ。名前を聞いて思い出した。確か生物系を担当している教員だったはず。
「それとですね、今日は我々教員だけでなく、みなさんの先輩に当たる2年生もこのフレッシュマンキャンプに参加してくれてます。レクリエーションなどいろいろ考えてくれているみたいなので、楽しみにしててください。それでは簡単に自己紹介もしてもらいましょうかね。」
2年生にマイクを渡し、自己紹介を促す。2年生は全部で8人、簡単な挨拶を済ませていく。1人終わるたびにパチパチとまばらな拍手が起こる。最後はこの会場の全員を虜にしたあの女の人だ。
「初めまして、皆さんとフレッシュマンキャンプを共にします、
彼女の挨拶を終えた後だけ、拍手が大きかった気がする。みんなこの前橋先輩の声を楽しみにしていたのだろう
大学のミスに輝くということは、他人からの視線や期待をそれなりに背負う。おそらくこの人はそういう人生を歩んできたのだろう。明らかに注目を浴びてもひよる様子はなく、堂々としている。このような容姿であれば、人生薔薇色、選択肢も無数にあるだろう。よりによってなぜ薬学部なのか、しかもこんな田舎群馬の大学の。
これほど人を魅了するのだから、きっとモデルやタレントとしても成功する。タレント稼業がうまく行かなくても、引くて数多、どっかから声はかかる。東京とか大都市に行けば尚更だ。
それなのになぜ、こんな辺境の地に…と地元を自虐してるわけではないが、事実ではあるので否定のしようがない。
あれこれ詮索しても、俺が今後彼女に深く関わることはないのだから、無意味な想像はよそう。
一通りの挨拶が終わったところで早速BBQの準備に取り掛かる。グループは10人ずつ、学籍番号順に。全部で10グループ。そしてつまりは高崎緋彩と同じグループ。今後、学籍番号で区切られるとすると、同じ枠になることはほぼ確実。俺は気にしないでいられるが、あっちは大丈夫だろうか。そこに引率の教員2人と2年生8人が1グループごとに割り振られる。
うちのグループにやってきたのは、そう、なんとなく予感はしてたんじゃないだろうか。
舞い降りた女神、前橋霞。
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