04. 覚悟

「どういうことなんです⁉」


 あたしが冒険者ギルドに駆け込んで事情を問いただすと、職員さんは悲しそうな顔で口を開いた。


「私達もまだ状況を把握しきれていないんです。まさかあの勇者ディグ様が亡くなられるなんて、今でも信じられないくらいで……」

「本当に……本当にリーダーは死んじゃったの⁉」

「ダンジョンに潜っていた冒険者パーティーがご遺体を発見し、回収してきました。私もご遺体を見ましたが、間違いなくディグ様でした」

「そんな……っ」

「ご遺体はすでに教会へ運ばれています。葬儀は領主様が喪主として明日にでも執り行うとか」

「他の人達は⁉ フィー姉、ルシアさん、マホちゃん……それとギルティナお姉さんは無事だったの⁉」

「他の方々については、まだご遺体は発見されていません。しかし、現場にはおびただしい量の血痕が残っていたということですから、他の四名の安否も絶望的だって」

「嘘……」


 あまりにも衝撃的な出来事が起こったせいで唖然としてしまう。


 昨日話したばかりの人達が、軒並み死んでしまったかもしれないなんて……信じられない。

 こんなことってある?


「現在、〈アライバル〉のメンバーのご遺体を捜索するために何組かの冒険者パーティーがダンジョンに向かっています。すべてA級のパーティーですから、捜索の結果はすぐに――」

「まだみんな死んだと決まってないじゃん‼」


 職員さんの話を遮ってすぐ、あたしは居ても立ってもいられなくなってギルドを飛び出した。


「みんな……っ‼」


 あんな話を聞いたらじっとなんてしていられない。

 あたしは通りの人混みを掻き分けながら、ダンジョンのある方角へと走った。


 いくらクビになったからって、あたしとあの人達はずっと一緒に冒険してきた仲間なんだ。

 どんなに嫌われようとも、あたしはあの人達のことが好き。

 もしもまだ生きているのなら――ううん。きっと生きている!

 あたしが絶対に見つけて助けてあげなきゃ‼


「あれだっ‼」


 町を守る外壁を飛び越えた先に、二十人ほどの冒険者達の姿を見つけた。

 ダンジョンの入り口に向かっているので、あの人達が〈アライバル〉の捜索を依頼された冒険者パーティーに違いない。


「待って! あたしも一緒に連れてって‼」


 彼らに追いついて早々、あたしは同行を申し出た。


「なんだこのガキは?」


 集まっていた冒険者の一人から冷めた視線を向けられてしまう。


「あたし、〈アライバル〉の一員です! 行方不明のパーティーメンバーを捜す手伝いをさせてくれませんか‼」

「〈アライバル〉の? 控えのメンバーがいたのか。パーティー証を見せろ」

「あ」


 パーティー証は、特定のパーティーに所属していることがわかるようにメンバーで分け合った割符のこと。

 割符にはパーティーの証印が刻まれているから、持っていればパーティーメンバーであることを証明できる――のだけど、あたしはもう割符を返しちゃっていて手元にないんだった……。


「なんだ、持っていないのか。お前、何者だ?」


 冒険者達から訝しそうな視線を向けられてしまう。

 パーティー証がない状態で、どうやって信じてもらえばいいんだろう。


 ……考えても妙案なんて思いつかない。


「あたし、ついこないだまで〈アライバル〉のメンバーだったんです! 本当です‼」

「……獅子のたてがみのような髪の毛に、小柄なくせに大人が何人も押し込めそうなでかいリュックを軽々と背負う筋力、それに両手のフィストグローブ――お前、ギルドから除名されたっていう格闘士ウォーリアか?」

「まぁ、そうです……」


 そんな不名誉な覚えられ方しているの、あたし……。


「するってぇと、この嬢ちゃんマジで〈アライバル〉のメンバーか」

「ああ、思い出した。この子、ギルドでディグと一緒にいるのを見た覚えがあるわ。それに、ディッシュタウンの料理屋を荒らし回った悪食の娘として有名よ」

「〈アライバル〉の悪名高い格闘士ウォーリアか。ディグ達はこいつのせいで毎回探索途中で食料が尽きて出直すはめになるから、45階層まで行き着くのに半年も掛かったんだろ?」

「数々のダンジョンを踏破してきた先導の勇者ディグ・ロードも、とんだお荷物を連れていたもんだ。挙句に全滅……お前さん、不幸を招く小悪魔かもな」


 えー。

 あたしって、他の冒険者達にそんな悪いイメージを持たれていたの?

 こんなんじゃ、ますますリーダーに申し訳ない気持ちになっちゃう……。


 って、そんなこと嘆いている場合じゃない。

 なんとしてもこの人達に同行させてもらわないと。

 なんて言えば許可してもらえるかな?


「あたし、けっこう鼻が利くんです。フィー姉達の臭いは覚えてるから、近くにいればすぐにわかります!」

「犬かよ⁉ どうする、こいつ連れて行くかい?」


 各パーティーのリーダーらしき人達が輪になって話し合いを始めた。

 断られたらどうしようかと、ドキドキしてくる。


 ……それからしばらく。彼らがあたしに向き直った。


「いいぜ。ついてきたけりゃ勝手にしな。ただし、お前の分の食料はないからな」

「大丈夫。今朝から半日かけて近くの森で果物集めてたから!」

「その馬鹿でかいリュックの中身は全部果物なのか……」


 みんな、あたしの背負うリュックを見て驚いているみたい。

 特注リュックだから確かに大きいけど、この程度の重量なら難なく持ち運べる。

 中身の果物も、本当は別の町に向かう時に備えてせっせと集めていたものだったけど、こうなったらフィー姉達を見つけるために使ってやるんだ!


「妙なのが加わったが、予定の変更はなしだ。まずはディグ・ロードの遺体が発見された45階層のセーフティーゾーンまで転移石で飛ぶ。その後、パーティーごとに六組に分かれて〈アライバル〉のメンバーを捜索する」

「バラバラに捜すんですか?」

「察しの悪い娘だな」


 場を仕切っているスキンヘッドの男の人に睨まれた。

 話の途中にあたしが割り込んだことで機嫌を損ねちゃったみたい。


「言っておくが、ディグ以外のメンバーは遺体が発見されてないだけで生きているかわからんぞ。見つかった血痕は一人分じゃ済まないらしいからな――」


 そう言われて、あたしはゾクリとした。


「――ディグ以外の死体がなかったのはモンスターが食い荒らした可能性もある。元仲間なら、辛い思いをするだけかもしれんが……本当についてくるんだな?」

「覚悟は……できてます‼」

「ガキにしては一丁前なツラしやがる。ついてきな」


 冒険者達がダンジョンの入口へと向かっていく。


 あたしは――


「もしものことがあっても……みんな絶対、地上へ連れ戻してあげるからね‼」


 ――覚悟を新たに彼らの後に続いた。

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