第2話 婚約成立
その後、わたしは聖女たちに笑われるなか、大聖人に何回も謝った。そして、シャロンの処刑が正式に取り消された。
シャロンはわたしの邸宅で預かることになった。わたしは仕事があったので、日中はメイドたちに預け、教育係も付けた。
シャロンはすくすくと育っていった。休みの日は、海に行ったり、街へ出掛けたりしていた。まるで娘を育てているような気持ちだった。
だが、わたしが抱く、死への願望は消えなかった。ふとしたときに、どうしても襲い掛かり、コントロールができなくなる。シャロンの笑顔を見るたびに、なぜそんなことを思ってしまうのだろうと、自分を責めていた。
シャロンとの関係が変わったのは、いつものように夕飯を一緒に食べていたときだった。シャロンはスプーンを手に取ったまま、食べようとしない。
「シャロン、どうした?」
「あの、わたくし、婚約者になりたいです」
「婚約者か」
確かにもうシャロンは十六歳。必要な年頃なのかもしれない。
「どういう人が好みだ?」
「いえ、ローファル様の婚約者になりたいのです」
あまりの突然さにわたしは言葉を失った。
「聖人は子孫を残すため、二十歳で婚約者を決めなければならないのでしょう? ローファル様は、あと一週間で二十歳ですよね?」
シャロンの言う通り、聖人はそういう決まりがあるのをすっかり忘れていた。
そもそも、暗いことばかり考えていたので、その歳になるまでの自分を想像していなかった。
「わたくしを愛さなくても構いません。別の女性を好きになってもよろしいです」
冗談かと思ったが、目は真剣だ。本気なのだろう。
確かにあと一週間で婚約者を見つけるのは厳しい。普通ならば聖女たちが、お見合い相手のリストを持ってきたりする。だが、聖女たちから嫌われているのか、そういったものは一度も貰ったことがない。
正直、わたしはシャロンをそういう目で見たことは一度もなかった。だが、シャロンは処刑を免れた身。下手にほかの相手と婚約関係になっても、それはそれで心配だ。わたしが相手を見極める必要がある。だが、シャロンの悲しむ顔をあまり見たくない。一時的に婚約関係になっておこうと、わたしは甘い考えで決断した。シャロンを心配するのは、わたしに死を与えてくれたからだ。
「了承した。これからよろしく頼む」
「はい! こちらこそよろしくお願いいたします!」
シャロンは顔を明るくさせ、わたしの手を握った。またわたしの心臓が跳ね上がる。
これでよかったのだろうか。シャロンの微笑む顔を見たら急に不安になった。
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