三回目

 一体、どういうことなんだ。


 「何度も同じ状況を繰り返す」なんてまるで映画のような出来事だ。それをこの俺が体験するなんて、夢にも思っていなかった。


 こういう時は、「様々な手段を講じてループから抜け出す」というのが定石なのかもしれない。でも、今の俺ができることは限られている。「一本道」を進んでいる以上、他のルートを選ぶことなどできない……


 そこで、俺はあることに気付いた。


 まるで横スクロールアクションゲームのようだ、と。


 移動できるのは前後だけ。敵(女子高生)にぶつかったらミスしてスタート地点(アパート前)からやり直し。そうだ。間違いない。


 ……こんなことを他人に言ったら、「ゲームのやり過ぎ」と馬鹿にされるだろう。実際に、この俺も最近はそういう類のゲームにはまっていたりする。


 でも、この状況自体は現実なんだ。発想をそっち方面に持っていかなければ始まらない。


 自身の体をチェックしてみるが、身体能力に変化は見られなかった。極端に大きくジャンプできるわけではなく、ゲームのキャラクターのように「敵」を飛び越えたり踏みつけたりはできないと思われる。


 そうなると、何らかの「アイテム」が必要になるということか? 「敵」に当たっても平気でいられるパワーアップアイテムか、それとも、「敵」を倒せる武器か……


 周囲を見回しつつ、俺は三度目の前進を始める。そして、十字路を通り過ぎた辺りで、ある物の存在に気付いた。


 ……くりの実が、地面に転がっている。


 近くの家に植わっている木から落ちてきたばかりなので、当然ながら大量のイガが生えている。間違いなく、「武器」として活躍してくれることだろう。


 俺は腰を屈めて栗の実を手に取り、更に歩みを進めていく。そして、「前回に俺を無視した主婦」とすれ違って数秒経ったタイミングで、玄関の扉が開く音が聞こえてきた。


「いっけな~い」


 案の定、目の前に登場したのは例の女子高生だった。前と一字一句たがわぬ言葉が、挑発するかのように耳へと飛び込んでくる。くわえている食パンとか、派手な色の髪留めとか、バッグにくくり付けられている小さな人形とか、彼女を構成する様々な要素が妙にこの俺を腹立たせてくる。


 俺は右手を振りかぶり、勢いを付けて栗の実を投げ放った。


「遅刻遅刻……いたっ!」


 脚に「武器」がヒットし、彼女は食パンを落として足を止める。当初は顔に当てるつもりだったが、いざ目の前にするとためらってしまって狙いが外れてしまい、予想外の方へと向かってしまったのだ。


 ともかく、これで彼女にダメージを与えられたはずだ。スカートやタイツで覆われていない生脚に鋭利な物体が当たったわけだから、無傷ではいられないだろう。


 ……俺は、どうかしているのかもしれない。はたから見れば、完全な暴行だ。でも、ループから抜け出すためには手段を選んでいられない。


「も~、何で起こしてくれなかったんだろう?」


 しかし、彼女はそんな俺を歯牙にもかけず、落ちた食パンを拾って口にくわえ、何事も無かったかのように再び走り出した。


 ……当然の結果と言えよう。彼女はただの女子高生ではない。


 俺の体をはね飛ばしてスタート地点へと戻す力を持った「敵」なのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る