第4話新居
藤岡と大迫は、不動産屋を数件回った。
そして、4つの候補を選び内見して、藤岡と同じ最寄り駅から徒歩10分の賃貸マンションに決めた。
家賃は今住んでいる所より1万円ほど高いが、男と離れたのでそれでも給料で十分生活出来る。
引っ越しは土曜日、和田がレンタカーを借りて、いつもの飲み仲間で荷物を運んだ。
1人暮らしなので、二往復で済んだ。
さて、引っ越し祝いだ。
極寒の1月、温かい鍋で飲もうと話しがまとまり、和田がレンタカーを返しに行って、戻ってくるのを待ってから、ちゃんこ鍋の「なべ秀」でちゃんこ鍋を突っついた。
乾杯してから、大迫は皆んなに引っ越しのお礼を言った。
重いものは、高畑と田中が持ち、藤岡は段ボールを運んだ。和田は掃除。女性陣は段ボール整理。
肉体労働の後のビールは最高に美味かったが、高畑が白窪さやかを狙ってると言うウワサ話に和田が切り込んだ。
「高畑は、白窪ちゃんをホントに狙ってるの?」
「……」
「沈黙は、図星と言うことか?」
「良く、藤岡さんが女の子に声かけて、飲みに連れていくので、僕も真似をしたくて」
藤岡は、ビールグラスをテーブルに置き、
「高畑、100年早い」
「これでも、介護福祉士なんです。ホントに藤岡や和田さんがモテ過ぎて、何か裏であるんじゃないですか?」
「オレらは、もう23年も介護の世界にいる。お前は8年だろうが!」
と、和田が言う。
「でも、仕事ぶりは同じと思うんですけど……」
「高畑、仕事と言うのは1つのパフォーマンスでは無い。地道に努力して上位資格を取得して初めてオレらみたいに活動する。まずは、実績を作ってからの話だ」
「藤岡さんの意見は十分理解しています。でも、外見では負けないと言う自信があります」
「高畑、お前はオレを批判するのか?」
「……」
「男は外見だけではない」
「すいませんでした」
藤岡はちょっとイラッとして、焼酎のお湯割りを田中に作らせた。
和田は、空気が悪いので喫煙所に向かった。
「高畑さん。先輩は良い人なんですが、男性として魅力が足りないです」
と、白窪は酔った勢いで言った。
完全に高畑の勇み足。高畑は、丁重に謝ってテーブルに3000円置いて店を出て行った。
「あら〜、藤岡さん。言い過ぎましたかね?」
「いや、もっと強く言っても良かったよ。アイツ最近、夜勤の時仮眠時間の取りすぎで次の若いヤツの仮眠時間を台無しにしてるって、聴いていたからね」
「高畑さん、良い人何ですけど。足りないよね?大迫ちゃん」
と、静かに飲んでいた山﨑典子が大迫に振る。
「もう、男はいならない」
「まぁ、前の男が男だったからね」
「うん」
藤岡と和田は家庭向きの人間で愛妻家だ。だから、浮気するなんて誰も考えていない。
それぞれの嫁さんも女性と2人きりで飲んだからと言って怒る器の小さな人間ではない。
なべ秀で、ちゃんこ鍋なべを食べたら、シメにうどんを入れて、若い者達は食べ始めた。
藤岡と和田は中年。うどんを食ったら酒が飲めなくなる。
最近、胃の腑の調子が悪い2人は焼酎を飲み続けた。
引っ越しの疲れもあって、なべ秀は解散となったが、帰る方向が一緒の藤岡、大迫、白窪はもう一軒寄った。
居酒屋鳥ひろ。
藤岡は、喉が渇いたのでレッドアイ、大迫と白窪はレモン酎ハイを頼み、乾杯した。
ここは、カエルの唐揚げがある。
女の子たちは、初めてなので食べてみたいと言う。
大将にカエルを注文した。
その間、話しした。
「月曜日から、高畑さんと会うのがちょっと怖いです」
「白窪ちゃん、気にすんな。アイツは打たれ強いんだから。無理に誘ってきたら、オレに言えば良い。飛ばしてやる。僻地へ」
「ありがとうございます」
「なぁに、お節介焼きのちりめん問屋のジジイだから」
白窪と大迫は笑った。
ちょっと、笑いながら話していた。
さて、カエルの唐揚げが出てきた。
2人は恐る恐る食べる。
「あっ、鶏の唐揚げと似てる」
「うんうん」
「そうだよ、ちょっと小骨の多い鶏唐揚げと変わらないのがカエル」
「でも、この足の部分食べられません」
と、大迫が言うので藤岡は箸で掴んで口の中に放り込んだ。
藤岡がペッペッと、小骨を出す姿を大迫と白窪は、汚物を見るような目で見ていた。
22時だ。
相当、疲れた。土曜日だ。明日はゆっくりしたいのでそこで解散となった。
大迫は最寄り駅まで一緒だった。新居には一応布団は敷いてある。
段ボールから整理するのは、日曜日と決めていた。
帰り際、白窪、藤岡にもう一度引っ越しのお礼を言った。
まさか、日曜日も飲むなんて事があり得るのが酒飲みの宿命。
LINEの通知音で目が覚めた。
昼の11時まで寝ていたようだ。
高畑からだった。
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