第2話夜勤明けの飲酒

お天道様がどこへいようと、藤岡と和田は酒を飲む。

こんなに、飲んでいても職場の健康診断には悪い結果が出ないので、相当な肝臓の持ち主なのだ。

さて、バスで3駅。ヤブ屋に到着した。

2人は店内に入ると、数組の客がいた。

夜職の人の腹ごしらえの店だ。

ババアがキャッキャ言いながら、肉を七輪で焼いているが、コイツらは、隣の熟女キャバクラの人間だ。

あんな、ババアでも需要があるのかと、2人は話しながら、生ビールと肉を適当に注文した。


しかし、昨夜の夜勤は大変だった。熱発者が3人も出て、3点クーリングしたが、結局は看護師の指示で、早番が対応した。

また、オムツカバーを抜いで、全身汚物まみれの婆さんを夜中にシャワーを浴びさせ、着替えさせて、ベットのシーツ交換した。

夜勤者は交代で3時間ずつ仮眠時間があるのだが、仮眠できる場合では無かった。

お天道様が高いうちの酒は夜の倍効く。


ビールで良い気分になった2人は、とんちゃんを焼きながら、この後どうするか?と言う話しになった。

今の時間帯、開いている店は少ない。

パチンコ屋に行こうと話しがまとまった。

勝負金額1万円。


ヤブ屋は割り勘で、1人3000円で済んだ。

2人はヤブ屋前のパチンコ屋で甘デジを打つ。

投資500円で、藤岡は当てた。連チャンする。

和田は、4500円の投資で運良くSTに突入した。

2人とも、3時間で1万発近く出した。

それぞれ4万円弱の勝ち。 

こうなれば、怖い事はない。

13時頃、金山駅の2階の海鮮居酒屋嘉文でビールを飲んだ。


勝ったお金で飲む酒は美味い。

マグロユッケのウズラの卵の黄身を絡めて、藤岡は口に運ぶ。少し味わい、ビールで流す。

最高だ。

和田はエンガワの刺し身。

醤油に脂が浮いた。きっと、カレイのエンガワだろう。ヒラメのエンガワなんて、そうそう安い店で出るはずがない。


話題は何かと、仕事の話し。2人は介護福祉士を持っているが、藤岡はケアマネジャーの資格、和田は精神保健福祉士の免許を持っている。

上からの圧力に耐えながら、2人は飲む時間を削られたく無いので、一介の介助業務をこなしていた。

しかし、給料が劇的に上がる事になると聴くと、藤岡はケアマネジャー、和田は精神保健福祉士の方面で頑張る気持ちにもなっている。

だが、飲み会は週2回ということで、来月から介助業務を終わらす事にした。


だが、若い者と疎遠になるのは避けたい2人。

ひまわりの里内だけの勤務と決めた。上が何と言おうとここで働きたいのだ。

井上と言う女性介護福祉士がいたが、早々に辞めて、市役所の福祉課で働いている。

施設側も失敗しているので、無理に異動はさせない。


その日。

2人は夕方の3時には解散して、自宅でぐっすりと寝た。

夜勤明けの次の日は休みと決まっていた。

だが、翌日は2人とも飲まなかった。

藤岡が起きたのは20時過ぎだった。

妻の加奈子が息子と娘と夕食を摂っていた。


「パパ、おはよう」

「おっす」

「加奈子、オレシャワー浴びてくるわ」

「着替えは、カゴの中」

「あいよ」


藤岡は明日は休みなので、そろそろキャットタワーの補修をすると決めた。

キャットタワーの真ん中に、飼い猫の大福が箱座りしていた。


シャワーから出ると、カルピスを飲んだ。

「あなた、ご飯は?」

「今日は食べない。昼間、焼き肉食ってさ。あ、来月からケアマネジャーの仕事始めるから」

「パパ、出世したの?」

と、長男が言うと、

「まあ、そう言う事だ」

「パパ、仕事はビール飲む事って言ってたのに。ねぇパパ、来週の日曜日休みだよね?」

「そうだよ」

「魚釣りしたい」

「魚釣り……今はアラカブが狙い目だな。みそ汁に入れると美味いんだ」

「アラカブ?あの赤い?」

「そうだ」

「ねぇパパ、私も釣りに行きたい!」

と、長女が言った。

加奈子は、

「それなら、お弁当作るから、みんなで魚釣りね」

「……そうだな」 


日曜日。

アラカブは入れ食いだった。テトラポッドのすき間に小魚の切り身を付けた仕掛けを落とすと20cmほどのアラカブが釣れた。


その夜、藤岡は釣れた魚を捌いて、みそ汁にした。

半分は煮付け。

家族は大喜びした。

そして、翌月一日、藤岡はケアマネジャーとして奔走した。

和田は役所通いが多くなった。


それから、時間を作っては2人だけで飲むか、若い者を連れて飲んだ。

藤岡の手先の田中渡(27)は良く動く部下だった。和田は山﨑典子(24)と言う部下を引き連れていた。

作業がら、藤岡も和田もスーツ姿で仕事していた。

若者達は、いつもジャージ姿の藤岡と和田しか知らないので、見方が変わる。

やっぱりこの人らは、凄い人達なんだと。

でも、飲み会では昔と同じ。

季節は忘年会シーズンとなった。

忘年会は、夜勤者以外で行われた。当日夜勤者は5000円の手当がつく。


忘年会の場所は、お食事処「みち潮」だった。

そこに、施設長の小久保が現れた。

坊っちゃんで馬鹿なヤツだった。それの取り巻きは、いつも、藤岡や和田に難くせ付けてくるが、基本弱いので施設長がそばにいないと威張れないのだ。

一通り挨拶が済んで、少し飲むと有志はみち潮を出て飲み直す事にした。

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