僕らは酒道に生きる
羽弦トリス
第1話早出のマスク
ここは、とある都市の老人福祉施設の「ひまわりの里」。
そこに、朝6時30分出勤の2人の男がいた。
藤岡智弘(45)と和田裕貴(45)。彼らは、マスクをしてタイムカードを切る。
マスクを外すと酒臭いのだ。
夜勤組は、もう、朝の食事の準備を始めている。
藤岡と和田はA棟とB棟に分かれ、30人の入居者のオムツ交換と車椅子移乗をする。
一通り済むと、食事介助してから、お風呂の準備。
11時から2人は昼ご飯を食べた。
「和田君、さすがに早出で6時まで飲むのは堪えるね」
「そうだね。飲み過ぎだよね」
「今日は、4時半上がりだから、どこ行く?」
「そうだねぇ、やっぱり居酒屋王将?」
「王将か。たまには良いね。生春巻きでビール飲みたいね」
「夜にいつものメンバーで飲もうよ。それまでは、2人で飲んで合流。高畑、大迫ちゃん辺りに声かけてよ」
「分かった」
2人は束の間の休憩を済ませて、また、オムツ交換、コール対応をしていた。
冬だから、暖房が効いていて16時半ジャスト、職場を離れた。
残業の多いこの業界は、帰れる時はさっさと帰るのだ。
2人とも、介護福祉士の免許を持っている。
歩いて、16時開店の居酒屋王将に向かった。
途中、店の灰皿で喫煙しながら、雑談をした。
入店。
「いらっしゃい。藤岡さん和田さん」
「あれ?今日、大将は?」
と、藤岡は女将さんに尋ねると、糖尿病内科で今は受診中と言う。
この2人は至って健康であった。
藤岡は少々小太りで、和田は白髪だらけのオッサンだった。
妻帯者であり、子供もいるがもう子供は大きくなったのでこうやって飲む日が多い。
嫁さん連中は、亭主元気で留守が良いの思想家だから、2人は自由だ。
17時、乾杯。
キリンクラシックラガーで。
ツマミは、アジの活き造り。750円。
生春巻き。650円。
2人は中年だからガッツくことは無い。大人しくツマミを食べて、豪快にビールをあおる。
女将さんのご厚意で、冬瓜の煮付けが出てきた。豚肉ミンチのタレが掛かっていた。
寒い日には最高のツマミ。
「ねえねえ、今日の夜勤者は誰?」
と、藤岡が尋ねると、
「山﨑と田中だよ。後は研修生でその指導に折田さんが付いてる」
「そうか、それなら、高畑と白窪と大迫を呼ぼう」
「何処にする?」
と、和田が言うと、
「アイツら若いから良く食うし、千代で良いんじゃない?」
「居酒屋千代ね。じゃ、3人にLINE送るわ」
と、2人は日勤の終業時間の18時に合わせて、千代の前で喫煙していた。
「お疲れ様です」
と、声をかけたのは高畑守(30)、その後ろに白窪さやか(24)、大迫マヤ(24)が立っていた。
「さ、皆んな、寒いから中に入ろう」
と、和田は若いもんを案内したが、藤岡はタバコがまだ長いので吸い終わってから入店した。
5人は、生の黒ビールで乾杯した。
黒ビールは、コーヒーのような味がして、飲みやすい。
高畑は、唐揚げやら、ポテトフライ、シーザーサラダなどを注文していた。
そんなの注文するくらいなら、千代に来た意味が無い。しかし、ツマミは自由だ。その時、体が欲したモノを注文すれば良い。酒道に決まりは無い。
白窪や大迫は、高畑のセンスに喜んでいた。
藤岡と和田は、豚足をコチジャンで食べていた。
ツマミにフォーマットはない。自由だ!
高畑は彼女ができても3カ月以上保った事がない。学生時代は野球部で鍛えられ、精悍な顔付きだが、大人では無い。
白窪は釣り具屋さんの娘でお嬢様だ。
大迫は苦労人。彼氏が紐で、給料の半分を渡している。彼氏はスロット中毒者であった。
早出の後は夜勤と決まっていた。たまたま、オジサン組は同じ勤務になったが、普段一緒になる事は少ない。
夜勤明け、寝ずに飲むのも決まっている。
若い連中は、この2人が面倒見が良いので付いてくる。
時計を見ると22時だった。しめに、アサリ汁を飲んで解散した。
安い店なので、和田が王将では支払ったので、千代は藤岡が支払いした。
それで、解散となった。
若い連中はお礼を言って電車で帰って行った。
オジサン組は、バスなのでバス停でウコンの力を飲みながら待った。
明日は夜勤。昼間は、嫁さんの家事の手伝いをして、夜勤明けに飲む事を伝えると、好きにして良いよと言われた。
福祉の仕事は給料が余り高く無いが、それなりの給料はもらっているので、嫁さんは文句は言わない。
嫁さんも子供が成長したので、正社員として働いている。
藤岡は、夜ご飯の準備が終ると、メモ用紙に、
「温めて食べてね」
と、書いて出勤した。
和田も庭の手入れをしてから、出勤したそうな。
いくら酒が好きでも勤務中は飲まない。
大変な夜勤を終えた2人は、日勤と引き継ぎをしてから、喫煙所でタバコを吸っていた。
「和田君、何処にする?」
「今、開いてる店は、ヤブ屋か丸八寿司くらいだよね」
「ヤブ屋で、肉でも焼きながら飲みますか?」
「そうしよう」
この職場の主な飲酒メンバーの紹介である。
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