06:初戦闘と地球の魔物(エネミー)

「あれは幻惑の魔法か!?」


 いや、最初は1体だったが……気づけば2体目が居たのだ。しかし、戦っている彼女は2体目に気づいていない。

 あのトレントが1体しかいないという感じに幻惑を魔法少女に見せているのかもしれない。まずいな、あのままだとやばい。


「やばいでしょ!?」


 予想通り、魔法少女が1体目のトレントに最後の攻撃をしようとしたところで背後に居たもう1体が一撃を放った。後ろに気づいていたなかった魔法少女はあっさりと攻撃を受け、そのまま吹っ飛ばされ、向こうにあった建物へと物凄い音共にめり込んだ。


「あいつ……麻痺の攻撃を!」


 植物系の魔物の注意点としては麻痺や毒やらを使うやつが多い点だ。さっきの幻影とかも割と使ったりする。


「急がないと」


 完全の2体のトレントは魔法少女を仕留めに向かっている。足は鈍いが……距離が距離もあって向こうの方が速く着きそうだ。


「ってか、他の魔法少女とかは居ないのかよ……いや、他の場所にも魔物のような反応があるからそっちの対応をしているのか……でもこっちに近づいている反応もあるから状況は把握しているのかもしれないな」


 それはいい。


「間に合ったか……」


 急ぎで魔法少女の元へ辿り着けば、既にトレントがその子に近づき文字通り、その蔦で急所に最期の一撃を繰り出す寸前であった。


「させるか!! フレイムピラーッッ!!」


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 刹那。

 とどめを刺そうとしていたトレントの体が燃え上がる。一瞬にして蔦も、枝も葉っぱも幹も火に包まれる。


「……#”!?」


 そして断末魔と共に1体のトレントは燃え尽き、消滅するのだった。


「もう1体は……居た」


 視界に入ったもう1体のトレントは魔法少女のいる場所とは正反対を向き離れていく様子だった。


「逃げようとしてる? ……ふふ」


 そんな遅い足で逃げるとは、やはり知能は魔物だろうか……まだこっちと戦った方が無様にならずに済んだと思うけれど。


 素早く逃げたトレントの前に回り込む。


「逃す訳ないよね。――エターナル……フローズン」

「#!……」


 何か声を上げようとしていたようだが、それは叶わず一瞬でわたしの魔法によって2体目のトレントは氷に包まれ、そして物言わぬ氷像と化す。


「……ふう」


 エターナルフローズン。永遠なる氷結。

 対象を凍り付かせる、中々凶悪な魔法である。ま、アブソリュート・ゼロとかよりは劣るけど大体のやつならこれで永久凍結させることができる。屋内では試せなかった強力な魔法の1つでもあるかな。

 魔力で出来た氷であるため、自然解凍することはなく、破壊するか魔法を使った本人が解除しない限りはこのままだ。


 新種っぽいし、研究材料としては必要かなと思って凍結させたけど。


「魔法少女の子も治さないとね」


 周囲を探索し、魔物の気配がないことを確認する。

 結構遠くに反応があるけど、そっちはそっちで別の魔法少女っぽい反応が複数あるので大丈夫だろうと思う。というか、距離が遠いしここまで来る可能性は低い。


「う……あ」

「喋らないで。大丈夫。君は生きている」

「あ……」


 白を基調とした衣装を着ている魔法少女……まあ、さっきトレントにやられそうになっていた子だが、命に別条はなさそうだ。

 わたしが近付くと何処か不安そうな、戸惑っているような……そんな感じの表情で見てくる。


「まだ麻痺の効果が残ってるし、怪我も酷い」


 あくまで命に別条がないというだけで、無傷という訳ではない。

 魔法少女は変身する仕様上、ある程度の攻撃を受けても耐えるし、傷つくことはない。しかし、それでも多少の痛みはあるし、防具の役割を果たしている衣装もボロボロになる。

 まあ、一旦変身を解除して休むことで修復されるらしいけど……いや、本当にどうしてこんな仕様になったのか。いや、今考える事じゃないな。


「オールキュア」

「ヒール、ハイヒール」


 オールキュアで麻痺の効果を打ち消し、ヒールで失った体力や傷を治してあげる。血は出ていないものの、かなりの衝撃を受けたはずだし、もしかすると骨が一本くらい行ってる可能性もある。

 さっきも言ったけど、魔法少女になっているとはいえ、痛みも感じるし、傷もつく。耐久力はかなり上がっているだろうけど、それでも無敵ではない。

 一応、天照様とエレスティア様に教えてもらったこともそうだけど、自身で調べたのもある。魔法少女はどんなものなのか? その名前通りだと思う。


「……んー一応どっちかというとニ〇アサ寄りなのかな」

「?」


 わたしの声が聞こえていたのか、こてんと首を傾げる少女。麻痺の効果はなくなったと思うけどすぐに治るようなものではない。もろに食らっている訳だし。何か言いたそうな顔はしているけど、話せないようだ。


「あーごめん。こっちの話。一応、治したけど痛いところとかある?」


 そう聞くと少女は首を横に振る。


「それなら良かった。さてと……」


 よいしょと腰を上げて立ち上がると、少女は不思議そうにこちらを見てくる。

 なぜ立ち上がったのかと言えば、魔法少女と同じ反応が近づいてきているからだ。あと数分も経たずにこちらに来るだろう。


「もう大丈夫だと思うからわたしはそろそろ行くね」

「え……?」


 まだぎこちないけど何とか声を出せるところまでは回復した見たいかな? それならもう大丈夫だろう。


「声出せるまで治ったみたいだね。良かった。……君の仲間がこちらにやってきてるっぽいし、わたしはここでお暇させてもらうよ」

「待……って」

「うーん。ごめんね、待つことは出来ないかな。ひとまず、治ったと思うけど、戻ったらもう一度診てもらうことをおすすめするよ。それじゃ」

「!」


 それだけ言い残してわたしは再び身体強化を掛け、風で速度を上げ、闇で気配を消してから、そそくさにその場と後にした。





◇◇◇





「待って……あれ?」


 既にあの少女はその場には居なかった。まるで元からそこに居なかったかのように、一瞬で消えてしまった。


「ホワイトっっ! 大丈夫?!」

「がーねっと?」


 聞き覚えのある声にまだ若干ぎこちない体を起こして声のした方へ向けば、今までに見たことがないくらいに顔を青くして心配そうな顔でわたしを見ていた少女……ガーネットが居た。


「良かった! 本当に」

「こらこら、ガーネット、先走らない」

「あははー心配する気持ちは無理ないけどねー」


 続けて全体的に水色の衣装を身にまとう少女と、緑の少女……ライトブルーとライトグリーンがやってくる。


「えっと……ごめんね」

「いいよ。私もごめんね……こんな様で」

「いや、ボクらももう少し早く来れればよかった」

「遅くなんてごめんねー」


 それぞれが申し訳なさそうな顔をする。

 話を聞けば、3人は私の応援として来てくれてたみたい。でも、今回は別の場所にもエネミーが出現し、それらも私が戦って殺されそうになったトレントのように異様に強かったようで手こずってしまったみたい。それで足止めをされしまったとのこと。

 ガーネットとライトブルー、ライトグリーンは3人だったというのもあって、何とかエネミーを倒してから急いでこちらに向かってくれたみたい。


「怪我はしてない?」

「うん……女の子が助けてくれたから」

「え?」

「女の子? もしかして魔法少女?」

「それは分からない……でも魔法少女じゃないようなそうでもないような」

「どっちよ……」

「うーん、本当に分からないんだよね……助けてくれたっていうのは確かなんだけど」


 ――『喋らないで。大丈夫。君は生きている』


 ふと、安心させるような何処か優しい言葉。それが蘇る。

 ついさっきのことではあるけど、私はあの時死を覚悟していた。でもいつまで経ってもとどめの攻撃は来ないし、気付いたらあの何処となく不思議な感じのした少女が目の前に居た。


 麻痺していたのもあってうまく聞き取れなかったけど、どうも別のトレントが後ろに居たみたいで、それに私が攻撃をもらってしまったらしい。おまけに麻痺付き。

 1体目のトレントが幻惑とかを使って1体しかいないように私に錯覚させていたとも言っていた気がする。正直、油断してた……普通とは違うことは分かっていたのに。


 あの子が居なかったら私は多分死んでいただろうし。


「うーん」

「まあまあ、とりあえず、考えるのは後。一旦魔法省に戻りましょ」

「だね」

「うん」


 あの少女はいったい何者だったのだろう……。

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