03:予想外

「……マジか」


 つい素でこぼしてしまったが許してほしい。

 2人の女神様が用意したっていう家(?)にやって来たのだが、それが予想外だった。何階建てなのか分からないが、かなり高い。これはあれじゃないか? 高層マンションっていうやつ。しかもなんか高級感もあるんだけど……。


「……間違いはないよね?」


 もう一度地図とスマホの現在地を確認する。このスマホも女神様が用意してくれたんだけど、何というか至れり尽くせり? ってか通信費とかはどうなってるんだろう? そこは聞いてなかったけど、わたしが払う必要はないとは言っていた気がする。


 ……話を戻そう。現実逃避している場合ではない。

 スマホの地図とも完全に一致しているし、住所も間違いない。ここで合っているみたいだ。


「しかも最上階かい」


 地図の裏面に書かれている(多分、エレスティア様か天照様が書いた)説明によると、最上階は15階であり、わたしの部屋は最上階にあるとか。


「ん? 追記? 何々……色々とあるだろうし、他の人が近くに居ないように15階の部屋全部貸切にしたから全部ルーナのものだよ!って……えぇぇ」


 何してんのあの女神様。


「ん? まだ何か書いてあるな。……あ、因みに天照様も賛同してくれたから安心してね☆ ……天照様ェ」


 天照様、話してみた感じでは結構真面目で若干フレンドリーな感じだったけど、そこまでか。あとどうもエレスティア様と天照様は仲が良いみたいだ。

 ……それなら仕方がないのかな。いや、もうこうなっている以上、気にしたら負けか……神様の考えることはよくわからない。


「まあでも……」


 近所というか近くに人が居ないのは安心した。

 ってか、元の家とあまり変わらないとは何だったのか……むしろ、全然違うんですけど……内心でため息をつく。

 司の時の家とか、普通の一軒家だったはずなんだけどなー……何がどうしてこうなったのか。全く共通点がなくて草も生えない。


「というか、15階の部屋貸切ってそんなに部屋あっても使えないでしょうよ……」


 流石は神様。人間と感覚が全く違う。


 ……冗談を言っている場合ではないか。


「まあ、ここにずっと居ても変に思われるしさっさと中に行っちゃうか」


 そんなこんな色々と言いたいことはあるけれど、わたしは高層マンションの中へを足を踏み入れたのであった。




◇◇◇




「うっわ」


 エレベーターで15階まで上がり、一案近い部屋に入ってみるとかなり広いスペースの部屋が広がっていた。

 キッチンはもちろん、リビングに個室、トイレにベッドにお風呂。想像していたマンションの一部屋とは結構違っていた。


「広くないか?」


 個室まであるってなんだし。

 お風呂も広いし……え? ここマンションだよね? これってもしかして、高層マンションでも更に高級なスイートルームみたいなやつなのでは?


「……」


 待てよ。15階ってもしかしてそういったスイートルーム? 


 まさかと思い、わたしは今居る部屋を出て15階にある別の部屋に入り、それぞれの中を確認する。

 それなりの数の部屋があったが、真ん中くらいまで行ったところで一旦確認をやめる。


「あはは……」


 結論。

 全部同じような高級感のある広い部屋であった。真ん中までではあるものの、おそらくこれ以降の部屋も同じだと思う。改めて神様の規格外さとか常識外れさを実感したよ……。


「そりゃあ神様だもんなあ……人間とはまず感覚とか全然違うだろうし」


 うん。考えるのはやめよう。逆に考えるんだ……こんな部屋で暮らせるということを。しかも料金を払う必要がない。どうやったのか……ってか、そんなことして経済とか大丈夫なのかね?


『この程度なら些細な事だから安心していいぞ』

「!?」

『やあ。少し振りじゃな』

「あ、天照様……?」

『うむ。……経済のことは大丈夫じゃ。ルーナが気にすることではないぞい。自由に使ってくれ』

「わ、分かりました……」


 神様本人に言われちゃどうしようもない。何か色々としてもらって申し訳なさがあるけど。


『ほっほっほ。エレスティアの言う通りなやつじゃな。律儀というか……まあなんだ。悪いことではないがの。お礼とかは考えなくていい。強いて言うなら魔物の方をよろしくといった感じじゃな』

「……あはは」

『地球でのことは申し訳なかったの。エレスティアのやつがやらかしよって……』

「それについてはもうエレスティア様に謝罪されましたし、向こうで色々してくれたので気にしてないです。むしろ、もらってばっかりで申し訳ないです」

『気にするな。悪いのはエレスティアじゃし、その対価というか賠償で色々と要求してやるのが利口じゃ』

「いやもうこれ以上は……」

『まあ今はそれでいいと思うぞい。私もルーナのことは出来る限りサポートするからよろしくの』

「はい、ありがとうございます」


 よく考えたらわたし……2人の女神様にサポートしてもらうって、これチートなのでは。いや、今更か……向こうの世界でもエレスティア様のせいもあってかなりチートで暴れてた気がするし。

 と言っても結局は、平和的解決であっさり終わったので拍子抜けしてしまったが、平和なのは良いことだ、うん。地球も平和ならいいのだが……。


『今はどっちかというと地球も平和じゃよ。まあ、魔物のおかげというのも皮肉な話じゃがな』

「あー……そういえばそれもあって、戦争だとか紛争だとかが中断されたんでしたっけ」

『うむ。今の優先事項は魔物への対処じゃしな』


 地球人からしたら未知の生命体だもんな……宇宙人というか、敵対生物。魔物は普通に地球人も襲っているみたいだし。


『話は戻るのじゃが、とりあえず、サポートとしてエレスティアの世界での通貨をこっちの通貨に変換できるようにしたから活用してくれい。逆も可能じゃ』

「マジか……」

『うむ。このくらい容易いものじゃ。もちろん、エレスティアとも話がついてるから安心してほしい』

「でも異世界の通貨の変換ってそれこそ経済があれなのでは?」

『何、大丈夫じゃよ。お主がこっちて消費したお金は一部、エレスティアの世界に、逆に向こうで消費したお金はこっちの世界に循環するようになっているから些細な事じゃよ』

「……なるほど?」

『まあ、深く考える必要はない。どっちの世界で使っても経済に貢献出来るって事じゃよ。安心してくれい』


 うわー流石は神様、やることが規格外。ってか何回言ってるんだろうこれ。


『とにかく、ルーナには懐かしい地球を楽しみつつも向こうの世界にもたまに行く感じで、のんびりしてくれればそれでいいぞい』

「それって依頼になってるんですかね……」

『まだ原因とかを特定できておらぬからな……ルーナにも協力してほしいだけじゃし』

「協力はもちろんしますけど……こう、何か手掛かりとかは?」

『うむ。ない……と言いたいところじゃが、実はつい最近、ちょっとおかしな反応があったのじゃが……如何せん、その辺りを見ても異常は感じ取れないんじゃよ。微弱すぎるのか、あえて隠しているのか……』

「おかしな反応……もしかして原因ですか?」

『うーむ……原因という確証はないが、あそこに富士山があるじゃろ?』


 そう言って天照様はこの高層マンションの15階から見える富士山を指さす。ってか、今気づいた……富士山見えるのねここ。いや、15階だし見えるっちゃ見えるか。しかも天気がいいからかはっきりと。


『その麓に広がる樹海。あそこから時空の乱れを観測したんじゃよ。一瞬じゃったがな……何かあるのは確かじゃが、如何せんそれ以降も注意深く監視しているが、何もない』

「時空の乱れ、ですか」

『時空の乱れと言っても、あれじゃよ。ルーナがこっちの世界と向こうの世界に行き来するためのゲート、あれみたいな感じじゃ。ルーナのは私とエレスティアの双方の同意の上で繋げておるので自由に使ってもらって大丈夫じゃ。それ以外となると、やはり何かがあるとしか考えられんな。現状、ルーナにしか許可はしていないしの』

「なるほど……とりあえず、樹海を調べてみます」

『さっきも言ったが、期限も特にないし、自由にしてもらって大丈夫じゃからな? 無理だけはしてくれるな。お主が倒れたりでもしたらエレスティアがなんて言ってくるやら……』

「あはは……大丈夫です。無理するつもりはありません」

『それならいいのじゃがな……』


 純粋に心配してくれるのはやはりうれしいものである。まあ、相手は神様なんだけど……でも確かに、天照様の言う通り無理して倒れたらエレスティア様が飛んできそうだなぁ。

 向こうの世界でちょっと無理をして倒れた時とか血相を変えて飛んできたし……何だかんだでエレスティア様にも気に入られるみたいだし……なぜかは分からないけど。やっぱり、肉体を消滅させてしまったことからのお詫びの気持ちとか? でもなんかそれだけでもないような気はする。


 その話は一旦置いておこうか。

 ひとまず、これで最初の目標は定まった。樹海の調査……しかし、樹海か。あそこ行ったことないし、どんな場所かと言えばなんか自殺スポット? みたいな話もあるからちょっと怖い。

 司だった時にもネット上ではちらほらそんな話があったし……いやまあ、実際のところはどうなのか分からないけどね。デマかもしれないし、ただの冗談かもしれない。


「とりあえず、今日は休もうかな」


 ちょっと疲れたし。

 さて、どの部屋を使おうか……。

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