02:元の世界

「懐かしいなあ」


 町中を歩きながらわたしは呟く。

 まさかこっちの世界に戻れるとは思ってもいなかったので余計である。大体こういうのって戻れないというのがお約束だし。


「……魔法少女に魔物、魔法省、ねえ」


 ただ変わったこともある。

 事前に聞かされていたけれど、知らない国家組織が作られているしニュースとかでもちらほらと聞く魔法少女の存在。まだ異世界に居るのかと錯覚してしまうくらいだ。


「でもこの辺は全然変わってないし……」


 通学路でもあるこの場所の風景は残っている記憶と全く変わりがなく、戻ってきたという感覚を感じさせてくれる。


「にしても、こっちでもルーナになるとは」


 女神エレスティア様と女神アマテラス(天照)様の2人が地球でこの姿でも暮らせるようにしてくれたのはありがたいけどね。


 具体的にはまず戸籍だ。日本の戸籍を用意してくれて、ちゃんと身分証も準備してくれた。まあ、それぞれに使われている写真は今の容姿なんだけども。

 何かと自由に動きやすい成人にしてくれた点もありがたいかも。まあ、実際地球を離れて数年は経過しているし、年齢も上がるのは当たり前だろう。ってか、向こうの世界では成人年齢だったし。既にお酒とか飲まされてる。


 23歳という何とも微妙な年齢であるが。

 因みに今の容姿は以前の僕の時とは完全に別人だ。知っての通り性別すら変わっている。


 どんな感じと言えば、うんまあ、ナルシストではないけれどめっちゃ可愛いと思う。透き通るような銀色の長い髪に病的に白い肌。でも日光に弱い訳でもない。

 あと一番特徴的なのは左右で瞳の色が違うところだろうか。赤と青のいわゆる、オッドアイというやつだ。何処となく中二病を感じさせるものの……本物なのでどうしようもない。


 身体のスペックは異世界で活動していたのもあるし、エレスティア様によって魔法とか能力とかその辺りがそのままなので、かなり高い。

 正直オーバースペックな気はするが、困るものではないのでいいかな。ただ、不満なのは身長である。ただでさえ、司の時もそこまで高くなかった身長がルーナになって更に小さくなってしまっている。145センチあるかないかくらいだ。

 身長が低いというは割と動きやすいのだが、高いところに手が届かなかったりとか地味なところで不便はある。慣れてしまったが。慣れって怖いね。


 しかし、今更ながらこう言ったひらひらした服を着ても全く気にならなくなってしまった。段々と元男だったものが消えていく感覚だ……いや、もうこの身体なってる時点で消えているのかもしれないけどさ。


「この服もなんか目立っているような……そうでもないか」


 向こうに居た時と同じまま。

 胸元に黒いリボンがあり、白いフリルのブラウスに黒コルセット、それから裾にフリルが使われている黒いスカート。何処の魔女ですかといった衣装である。まあ、帽子がないので普通の服と思われるかもしれない。

 流石に三角帽子まで被ったら目立ちすぎる。向こうの世界なら問題ないけど、地球でこれは流石にね。なので帽子については取ってある訳だ。


「……」


 まあ、おかしくはないか。向こうの世界と服の技術に差がないのは都合がいいよね。一応、地球で服の一式は揃えるつもりではある。


 それは置いておき、問題は魔物の件だ。魔法少女というのは、まあ、女神様……どっちも女神様だからわかりにくいか。とりあえず、エレスティア様かな? そんなエレスティア様がこっちの世界に魔力を送ってそれを受け、適性のある人が魔法を使えるようになるというもの。

 魔法少女……少女と言われているのは、現状魔法を使えるようになったのが少女しか居ないからである。なんでやねん……とエレスティア様に聞くとどうも彼女が原因という訳ではなく、単に地球で魔法を使える人が少女限定になってしまっているからみたい。


 しかも何故か変身するという謎仕様付きである。


 まあ確かに、向こうの世界でも魔力が強い人ってどっちかというと女性が多かった気がするけど。もちろん、男性も強い人は強いし、貴族と平民で比べると圧倒的に貴族の方が上だ。

 たまに平民でも突出した能力を持つ人が出来てたりするけどね。変身については意味わからないけど……。


『地球にはもともと魔法とか魔力なんてなかったしね……もう地球人の特性としか言えないかも』


 少女限定で、しかも変身する仕様は地球人の特性かもしれないと言うエレスティア様だったが……一時期アニメとか小説とか魔法少女モノが流行っていたからかね? いや一時期というか今も魔法少女が実際に存在しているものの、その手の類のアニメとかは人気があるみたいだ。

 地球で言う魔法は魔法少女なのだろう……酷い偏見ではあるけど、実際そうなっているので何も言えない。わたしも最初は目とか耳を疑ったし。


 ……なるほど。

 それ以外に驚いたことと言えば、やっぱり人間の適応力の高さである。魔物とか魔法少女が登場しても魔法省という新しい組織を立てて対策をしているとか。まあ、人ってそういうものだよねとしか言えないけど。

 でもよく考えたらここまで魔法少女は有名になっている訳だし、身バレしないのは本人にも優しい仕様かなと思う。だって変身せずに活躍していたら一発で身バレである。いろんな人とかファンとか、変なやつとかが押し掛ける可能性だってある。


「ふむ。……国家公認の魔法少女と非公認というか、野良の魔法少女ね」


 どうも魔法少女の種類には大きく分けて2つあるらしい。

 1つが国家公認の魔法少女。まあ、魔法省に所属する正式な魔法少女だね。もう1つがどこにも所属してない野良の魔法少女。


 違いは国がサポートしてるかしていないか。普通に考えて魔法少女の待遇は破格であり、所属しない方が少ないレベルだが……よく分からない。

 まあ、国に縛られたくないというのもあるのだろうけど……それに所属するかしないかは任意らしいので強制はできないみたい。強制できたらそれはそれで荒れそうだけどね。


「……とりあえず、魔物が出たら対処すればいいのかな」


 とはいえ、魔法少女という存在が居る以上、わたしが出なくても倒せそうな気はするけど……天照様曰く、地球は魔法なんてものとは無縁だったし、まだまだ扱いが慣れてないようなので、こっそりでも派手でも何でもいいからサポートしてやってほしいとのこと。


 実際に、倒せてない魔物も居る訳で、そんな魔物も段々と強くなってきているという。因みに魔物の出現は日本に限った話ではなく、全世界で発生しているみたい。

 世界はこの魔物をEnemy(エネミー)と命名し、人類の敵としている。魔物の出現により、戦争やら紛争やら起きていたところは一旦、終結しエネミーへの対応を始めたらしい。なんというか皮肉……?


 わたしの場合、向こうの世界で普通に魔物って呼ばれていたし、それが定着してしまってるので違和感しかない。正式名称はエネミーらしいので、地球に居る時は気を付けておこう。

 なんか、異世界に染まってるなあ……。まあ、元の地球を知っている自分からすると今の地球も異世界のように感じるけどね。


「まずは今の情勢を調べよう」


 行動するにしてもどういう状態なのか、この目でちゃんと調べておかないと。エレスティア様と天照様からはある程度は聞いているけど実際この目でも確かめないと。情報収集の基本だ。


「まずは与えられた家に行こう……そこからかな」


 2人の女神様曰く、元の家とそう変わらないとかなんとか。

 ただし、家族は居ないという設定になってる。ちょっと寂しさはあるけど、僕の両親は僕の両親でわたしはわたしで既に別人だ。家族であっても家族じゃないだろう。


「……元気にしているみたいだから安心した」


 両親からしたら突然、僕が消えた訳だから当時は色々荒れてたんだろうなと容易に想像つく。家族関係はいい方だったし、祖父母にもよくしてもらってたから寂しさが勝るけど仕方がない。


 そんなことを考えながらも、女神様に渡された地図を見ながら足を進めるのであった。

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