異世界出戻りTS少女と魔法少女

月夜るな

第一章「 動き出す出戻りTS少女」

01:始まり

「よっと……」


 無数に重なって浮かぶ魔法陣を見る。


「身体は戻せない、か」


 それは残念ではあるが、でもまあ……向こうの世界に戻っても問題ないようにしてくれるって言ってたから我慢するしかないか。


『すみません。私がミスしたばっかりに』

『いやまあ……うん。結構長い間この身体を使ってたからぶっちゃけもう違和感がないんだよね……よくないけど』

『魂が新しい肉体に完全に定着した証拠ですね……』

『……なるほどね』


 少し前のやり取りと思い出す。

 何の話かと言えば、信じられないと思うけど……わたし……僕は元は男である。普通にその辺に居るような一般学生だった。勉強は若干出来る方かな……上位とまでは行かないけど、真ん中よりは上の成績をキープしていた。


 そんな僕はある日の帰り道、今目の前にあるような魔法陣を見てしまい、興味本位で近付いたらなんと異世界に転移していたのである。

 しかも、体は大きく変わってしまい、性別が男から女に。最初は戸惑ったものだ……そのうち、女神エレスティアがダイナミック土下座をして謝りに来たけど……むしろ、そっちの方が怖かった気がする。


 色々あったが、元の世界に戻してくれるとのことで今に至る。まあ、ここまでだいぶ時間が経ったけども……残念ながら元の肉体は消滅してしまったようで、普通の一般学生の時の自分には戻れない事実を知った訳だ。

 因みにその間、色々やった。女神の話を聞きながら頼み事を遂行したり、魔王を倒したり。いや、実際は倒していない。そもそも、魔王自体和平に協力的であっさり和平が結ばれて晴れて魔族と人間が共存する世界になった訳だ。


 因みに魔族と魔物は別とのことで、魔王の範疇ではあるが魔物は知能がなく、魔族にすら攻撃してくるので人間と魔族両方の敵という扱いになっていた。

 魔族はだめだが、魔物は自由に狩っていいと魔王が言ったので魔物は狩られる側になった。まあ、以前と大して変わらないってことだ。ただし魔族には手を出さないでほしい、といった感じ。悪さしてる場合は問題ないとも言っていた。


 そんなこんな、異世界事情はあっさりと終結。

 そしてわたしはと言えば、無駄に人々や魔族に担ぎ上げられ、英雄になってしまった……いや、英雄らしいことしてないんだけど。


「まあでも……楽しかったかな」


 可能であればたまにこちらに来たいなと思うのは、未練がましいだろうか。


『大丈夫ですよ。いつでもこちらに来れるようにしましたので』

「?!」


 ぽつりとつぶやいた瞬間、聞き覚えのある女性の声が響く。


「あ、女神様」

「むぅ! 女神様じゃなくてエレスティアって呼んでほしいのに!」

「いや……神様を名前呼びするのは恐れ多いかなと」

「気にしなくていいのに」

「いやあ……年上ですし」


 正直、年上だとはっきり分かるとどうしても丁寧語とか敬語に近しいものが出てしまう。しかも、相手は正真正銘の女神であることも知っているので尚更だ。


「全くルーナは変なところで律儀というか……」

「これがわたしなので仕方ないです」

「まあいっか……。それで、こっちの世界も気に入ってくれたみたいで良かったよ」

「短い間ではありますけど、ね……それでもまあ楽しかったですよ」

「ふふふ、そっかそっか」

「ところで、さっきのいつでも行けるようにしたっていうのは?」

「そのままの意味だよ。向こうの世界とこっちの世界をつなげるゲートの魔法をルーナにも与えたってこと。地球とこのエレスティアしか行き来は出来ないけどね」


 ルーナというのはこっちの世界でのわたしの名前である。

 地球の時の名前は柊木司ひいらぎつかさって名前だったけど、完全に今のルーナとは別人だし、名前も合わないのでこれについてはちょっと変えてもらうつもりだ。


「そんなことしていいんです?」

「まあ、ルーナは特別だから。特例だよ特例。もちろん、地球の神にも許可はもらってるから安心してね」

「お、おう」


 まさか許可ももらっているとは。ちょっと嬉しいかも。


「お、ルーナ、今笑ったね? 笑った方がかわいいよ、ルーナちゃん」

「茶化さないでください……元男なの知ってますよね」

「知ってるけど、もうルーナは完全に女の子だよ」

「……」


 うぐ……直に言われると中々ダメージが。


「それはさておき。実はこの許可をもらったことにも理由があってね」

「理由?」

「うん。実は天照……まあ地球の神だけど、彼女からの依頼もあって」

「依頼、ですか」

「うん。ちょっとルーナが司だった時の地球とは情勢が大きく変わっていてね……どうも向こうにも魔物が現れるようになったみたいで」

「え!?」

「うん、驚くのは無理ないよね。こっちと比べると非常に弱いんだけど段々力をつけ始めているみたい。原因は今天照が調べているけど、まだ分かってない。で、ちょっとこのままというのもまずいという判断になって私の方に救援を要請してきてね」

「……」

「神同士が大きく関わると世界に悪影響しか与えないから出来る範囲でやっていて。……ところで、ルーナは魔法少女って知ってる?」

「は……?」


 突然の魔法少女に素で返してしまった。


「落ち着いて。冗談という訳でもないんだよー。こちらの世界から魔力を地球に少し分け与えてね、今地球にはその魔力を扱える少女たちが魔物を倒してくれてるの。それが魔法少女」

「……なるほど?」

「まあ、実際向こうに行けば分かると思う……それで今回の依頼というのが、知っての通り地球にも魔物が出始めているからそれの掃討と原因の究明、大本の撃破といった感じ。期限は特になし」

「期限ないんですね……」

「うん。だってそもそも原因不明だし……まずはそこからになるし。天照も探しているようだけど、さっきも言ったようにまだ分かってないんだよね。だからまあ、のんびり懐かしい地球の生活しつつ魔物を処理してほしいってこと見たい。魔物や魔法少女といった変化はあるけど、それ以外に特に大きな変化はないから過ごせるはずだよ」

「その2つでも十分、変わってますけどね……」

「あははー、仕方ないね」


 魔法少女に魔物って、何処のニ〇アサだ……いや、深夜枠の可能性もあるか。どっちでもいいけど、とりあえず状況は把握した。


「魔法とかこっちで培った力とかはそのままだから問題なく使えるはず。ただ地球は大気中の魔力が少ないから精霊魔法は使えないかも」

「あーってか、そのままっていいんですか? わたしが悪用するかもしれませんよ?」

「ルーナはそんなことしないでしょ?」

「それはそうですけど……」

「それでいいんだよ。それだけ信じているってこと。天照も同じ意見だよ」

「……」


 真顔で言われるとちょっと恥ずかしい。信じてくれるのはうれしいけども。


「おや、ルーナが照れてる。かわいい」

「茶化さないでくだはい」


 あ、噛んだ。


「あははは……。まあ、そんな訳だから準備できたらこの魔法陣に飛び込めば地球に行けるよ。もう少し詳しい話は向こうでしよっか」

「……分かりました」


 もう一度確認した後、そのままわたしは魔法陣に飛び込むのだった。

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