第31話 軍隊を私的に利用してるのバレてワロタ


「手筈は整ったな。あとは前魔王の封印の解除を待つだけか」


 シドたち教会側の準備が整って一週間後。

 魔族側の準備が整い、シドと同じ転生者が報告を読みながら呟く。


「プリシラ。軍を動かすのはいいが流石にこれだけの数を長期運用するのは避けたい。私の魔力を籠めた魔石を使って前魔王の封印解除を促進させて開戦を早めろ」


「ま、魔王様!?」


 すると転生者──プリシラ専用に用意された執務室に魔王が突如入ってきて喫驚する。

 魔王は魔神こと月光神ベローナの信奉者であり、ベローナの啓示を受け取ることができる魔女──プリシラの決定には基本的には介入してくることがないため、今回の行動は異様だった。


「仰つかりますが今回はどうしてベローナ様の決定より御自分の判断を優先しようと思われたのですか?」


「どうにも貴様に啓示が降りるようになってから私の知るベローナとはどうにも方針を違えているように思えてな。私の知ってるベローナは月光の元に試練を下す女神でこのようにことがうまく運ぶように助言するようなものではないのだ。私の信じるものではないものの言うことを唯々諾々と聞く必要はあるまい」


「……」


 魔王の言葉で神ではなく私的な意思で今まで動かしていたことがバレたことをプリシラは確信した。

 その出来事は今この瞬間に神の言うことだからと今まで免除されていた責任が全てプリシラに降り注ぐことと同義だった。

 緊張が走り、冷や汗が出る。

 これまでプリシラが計画した作戦で少なくない数の犠牲は出している。

 ここから民を私的な思惑で殺されたことに義憤を燃やした魔王に殺されたとしてもおかしくはない。


「そう怯えるな。貴様は私が出会った中でも優秀な部類の魔人だ。貴様でなければ今頃もっと多くの──倍ではすまん数の魔人が死んでいただろう。貴様を手にかけようなどという気はない。だが此度の作戦の結果いかんでは神の寵愛を受けている者であっても処分せねばならない。それは肝に銘じておけ」


 魔王はそれだけ言い置くと去っていく。

 とりあえずの危機は去ったが生きた心地がしなかった。

 今回の作戦はグリコンの裏切りで思いついた作戦であり、端から端まで自分が介入して作り上げたものでなく不確定要素が大きい。

 この作戦で自分の行く末を決めたくはなかったがもうすでに中断などできないほどに進んでしまっている。


「腹を括る以外の選択肢はないか……」


 悲壮な覚悟を決めるとプリシラは魔王の作った魔石を使って前魔王の封印を解除するように指示を出した。


   ───


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