第7話 素手で巨大ロボット倒す奴とか怖すぎて草
「素手で鎧をぶっ壊すって化け物がすぎるだろうがい」
教会に潜んで偽聖女擁立をさせ、内部から破壊する潜入任務に当たっていた魔族──サキュパスのグリコンはシドに怯えていた。
バレて自分がシドの拳でミンチにされるところを想像して身震いする。
本来ならたかだが危険度の高い人物が来た程度で怯えるようなグリコンではないが、今回はシドと共に教会に入ってきた子供──本物の聖女ステラが叙勲式中に自分のことを光る目で凝視してきたことで確実にバレたという確信があったのだ。
グリコンの目測では圧倒的なまでの戦闘力を持つシドが本物の聖女であり、自分が人に化けているのを見破ってきたステラは幻惑を看破する陽光神エリスの加護持ちの腰巾着。
叙勲式が終わった今、腰巾着のステラが自分のことをシドに報告し、シドが始末しに来ることがありありと想像できた。
「このまま失敗を悟って逃げてもドジ踏んだ代償に処刑されるし、ここに止まって任務こなしてもミンチ……。 ふざけんじゃないよ! こんなところで終わってたまるかい! あたしゃ、ただじゃ転ばないよ!」
おめおめと任務に失敗して逃げた後に同胞から始末される未来を頭に思い描き、ここから逆転する方法を必死に考える。
そうすると一つのことを思いつき、獰猛な笑みを浮かべた。
グリコンは思いついた策で重要な役割を果たす真っ黒な宝石──解封石を胸の谷間から取り出す。
解封石は名の通り、封印を解く効果のある宝石であり、ここから少し離れた土地──シドの故郷カマッセイ男爵領に今の状況で封印を解くのに打って付けの存在がいる。
「前代聖女に封印された前魔王ディアボロ。所詮男だから解放して骨抜きにすればあたしの言いなりにできるからね。こいつで教会をぶっ潰せば任務失敗を誤魔化せるどころじゃなくて褒章もんだよ」
ディアボロを解放した後の都合のいい未来予想図を頭の中に描き、グリコンはほくそ笑む。
特に強大な敵もおらず、いるのはいつ死んでもおかしくない非力な老いぼれのババア──マザージンジャーとうだつの上がらない男爵のカマッセイ男爵だけ、潜入任務よりも余程楽な仕事だ。
名誉も守れる上に教会の潰しの功績も解放した前魔王が作ってくれる。
これほどいい話はない。
魔王軍に所属するこの世界に詳しい転生者がなぜ自分にそんな都合のいい存在を伏せ、解封石を渡さなかった理由も考えずにグリコンは前魔王の封印を解除することを決定する。
自分ら魔族にさえも大きな痛手をもたらす存在だと想像だにせず、潜入先で手に入れた情報と魔王城でくすねてきた解封石を頼りにした完全な独断専行だった。
解除する手段があるというのに封印されたままになっているものには理由があるということを考えればすぐに思いつくことだが、追い詰められてる状況で見えた希望を冷静になって吟味できるほどの頑強な精神力はグリコンは備えておらず、周りを巻き込む破滅の道を歩き始める。
「設置して一月で封印解除完了。後少しで沁みたれたツキからおさらばさ」
自分の行先を知らないグリコンは笑みを浮かべたまま封印された最悪──前魔王ディアボロのところへ向かう。
────
「グリね。見てないわね」
「そうですか。ありがとうございます」
教皇の案内であらかたの施設を把握すると悪魔の翼と尻尾の生えた人間がいたとステラが話してきたので、急いで捜索を始めた。
叙勲式で部署ごとに固まっていたこともあって位置取りから本人の特定まではうまく行ったがそこから見つからず、どうもバレたことを察して逃げたぽい。
まあまずこいつが教会で教皇や偽聖女に干渉していたと思って間違いないだろう。
これ以上俺の周りを引っ掻き回すことができないので教会から去ってくれたのはいいが、ついでに何かしてきたら最悪だ。
何かすると言っても聖騎士教会周辺に主だったイベントはなく、あるとすればここから比較的近くにあるサブヒロイン──俺の妹のミラのいるカマッセイ男爵領くらいだが。
あそこのイベントはミラの里帰りに合わせて発生するミラルート確定イベントのみなので全自動的に登場するのは前魔王ディアボロだろう。
ディアボロは自己中すぎて封印を解除した人間にも平気で危害を加えるどころか、現魔王にさえ手を出そうとするので正気ならあんなもの解放しないと思うが何が起こるかわからないというより任務失敗で自暴自棄になっている可能性も十分ありえるからな。
一番は魔族を捕まえるのがいいが封印破壊アイテムは一度発動すると何をしても中断不可なので魔族に追いつくのが無理な現状、できることは前魔王に向けての対応策を講じることくらいか。
確か解除までにかかった期間は一月くらいなのでその間に整えないとな。
強いが強いがそれくらいあれば十分倒せる範疇に装備を整えることが可能になるはずだ。
ないとは思うが魔族の介入に備えて必要以上に増強するのもいいかもしれない。
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