第6話 勲章をもらう悪役令息


「鎧に乗った異端者に対して生身で挑み見事打ち倒した勇気と健闘を讃え紅蓮陽光章を授けます」


「あの子供が鎧をか!?」「これもエリス様の祝福の成せる技か」「エリス様万歳!!」


 女教皇のモンローについていくとと大勢の修道者が集まった講堂に着き、すぐに叙勲式となった。

 教皇が前に来るので膝をついて勲章の収められた銀箱を受け取る。

 確か王から勲章を貰うイベントCGではこんな感じに受け取っていたはずだが、教会は別に貴族社会でもなければ予行演習もなかったのでこういう作法が必要ない可能性もあるが一応しておく。

 まだ他の奴の勲章授与を見たことがないが、礼儀にやりすぎというものはないだろう。

 というよりも位置的に教皇を見上げる形になっているせいで、教皇の顔が豊満すぎる胸に遮られて見えない。

 ここまでデカいと胸にメロンを詰めてるっていた方が説得力があるな。


「今回の生身で鎧を倒す行いは前人未到のこと。どのような行いを持ってしても英雄でさえも到達できなかった領域のことです。それゆえに教会は此度のことをシドの起こした“奇跡“として教会史に刻むことを決定します」


「“奇跡“ですって!?」


「もしかして教皇は男子が聖女になれるとお思いで?」


 俺がデカすぎんだろと思っていると“奇跡“という言葉が気に食わなかったようで、周りの黒い修道服とは違い、白い修道服を着た藍色の髪と赤色の髪をした女が異議を唱えた。

 新たな聖女が出てくるとデメリットがある連中といえば偽聖女たちのなので、あの二人がそうらしい。

 よく見ると周りの人間があの二人のところで別れて集まっており、それぞれ取り巻きがいる。

 思い切り派閥作ってるな。


「二人とも“奇跡“の認定は聖女を作るためにしているのではなく、事柄で成しているのです。異議は受け付けません」


「く……!」


「覚えておきなさい! 私たちと並んで聖女になろうなんて生意気よ!」


 モンローに突っぱねられると藍色の女が唸り、赤色の女が睨みつけてくる。

 めちゃくちゃ噛ませムーブかますなこの人たち。

 ここまで綺麗にかましてくると俺がわからせるフラグが発生しそうなレベルだ。

 パチモンをわからせるのは真の聖女のステラはないといけないので要らなすぎるフラグだ。

 つうか聖女になるのを絶対阻止してやるという意気込みを感じるが俺は別に聖女になろうとしてないんだわ。

 聖女になっても本来のストーリーがめちゃくちゃになって世界が滅亡に向かうだけだし、男で聖女認定は恥よ。

 せめて聖人にしてくれ。

 そんなことされて道ゆく人に聖女聖女言われたら世界が滅びるまで陽の当たる場所には出ない自信がある。

 そんな誰も幸せにならない地獄みたいなことが起きないためにも早く三回ステラに奇跡を起こしてもらってパチモンにバイバイしてもらってゲーム通りに修正しないとな。


「はぁ。叙勲式はこれにて終了します。新しく来られた方以外は解散し、持ち場に戻りなさい」


 偽聖女二人の方を見てモンローがため息を吐くと叙勲式をお開きにする。

 指示の感じからすると教皇のモンロー直々に聖騎士教会内を案内してくれると言った感じらしい。

 どこの馬の骨ともわからん我々を偉い丁重に扱ってくれるな。

 疑わしい思いたい気持ちもあるがゲームの方でも一貫して善人だったので人柄なのだろう。


「申し訳ありません。あの二人は聖女になってからというものあのように奢るようになってやりたい放題になってしまって……。エリス様のお声を聞いて聖女にしたとは言え。私自身も少し疑わしく感じているほどでして」


「エリス様の声ですか?」


 モンローが謝罪すると偽聖女でまた変な情報が出てきた。

 やってるだろ、これは。

 女神エリスは声を発することはない。

 啓示を残すにしてもステラの頭の中に文章が思い浮かぶという形だ。

 この世界の神は肉体がないので現世の人間に物理的に接触できない。

 たとえ声だしても物理的な領域に影響を及ぼせないのだ。


 「ええ、清らかな慈愛に満ちた御声でした」


 はい、完全にダウトです。

 比喩でもなんでもなく肉声そのものをモンローは聞いている。

 何者かががあの二人が聖女に取り立てるようにモンローに働きかけたのは間違いない。

 本人たち自体かはたまた第三者かはわからないがきな臭いな。


「もしかして俺のしたこともいち早く知ったのもその声が?」


「いえマッセ教会にいるマザージンジャーが貴方方が襲われる瞬間を見ていて、直接私の方に救援要請と現場の映像を水晶から中継していたので」


 あの湖の教会にいる老シスターか。

 湖でことが起きていたとは言え、そこそこ離れていたあそこで気づいて教会に通報までしていたとは思わなかった。

 割と有能だったようだ。

 というよりもあの婆さん教皇に直電できるって何者だよ。


「親しいんですね。二人」


「血は繋がっていませんが私の育ての母ですから。今でも頭が上がりません。色々な秘密を握られてい……。ごめんなさい。これ以上の身の上話はお互いのためにやめましょう。教会の施設の案内をしたいと思います。ついて来てください」


 モンローは割とバラしてはいけない部分まで開示しかけたようでニコニコした顔からスンとした顔をすると聖騎士教会を案内し始めた。

 まさかマッセ教会の老シスターがモンローの心臓を握っているので実質的な教会の頂点とはな。

 老シスターことマザージンジャーと会うことがあるかわからないが扱いには気をつけた方がいいな。

 


   ───


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