第5話 パチモンのバーゲンセールで草
「生身で魔族の鎧一つ撃破なんて紅蓮陽光章ものだぞ!」
負傷者と馬車をステラが全て回復させて聖騎士教会に向かうとジミーがそう言い始めた。
話ぶりからして教会で目覚ましい戦功を挙げた時に贈られる勲章のようだ。
まあ絶対にこの世界で生身で鎧を倒した奴なんていないだろうから勲章レベルになるのか。
生身でやれたところで、鎧が上手く操られるかどうかは別なので勲章をもらってもいきなり二階級特進したりとかはなさそうだが。
何か役に立つことと言えば話のネタになるくらいか。
「そのことはすごい光栄なんですけど魔族がいきなり襲って来たのは問題じゃないですかね」
俺の勲章の件について論議しても何の生産性もないし、魔族の襲撃の方が喫緊の問題なので話題を変える。
聖女であるステラがお陀仏したらゲームオーバーなのだ。
今は本編前なので俺にとって未知の領域なのを踏まえても備えるに越したことはない。
状況的にも陸に上がると動きが鈍って移動にそぐわないアクアスマッシュが海と繋がっていない湖から出てきたことを考えると物語で終盤で解放される精霊ワープ──精霊が群生してる場所ならワープできる機能を使ってるような気がするし。
あれは各属性の大精霊と契約する必要があるため置いそれとはできない代わりに、使われたら割とこの世界のどこにも移動可能なので厄介だからな。
できるようならスポットは大体把握しているので待ち伏せして出て来たところを嵌め殺しにしたいが。
「確かに問題だな。前線近くじゃないこんな場所にいきなりだし。今まで初めてだ。こんなこと。光の聖女様に見てもらった方がいいかもしれないな」
光の聖女?
なに、その種類違いの聖女みたいなの?
聖女は無印聖女一体でステラだけでしょうが。
回復も戦闘もバフもオールインワンでできるのに、もう種類分けで用意する必要がないのになんでもう一体。
バッタもんかパチモンにしか思えない。
「光の聖女?」
「ああ、万物を見通す聖女様だ。戦いで頼りになる太陽の聖女様に隠れがちだが凄いお方だぞ」
はい、パチモンについて聞いたらパチモンがもう一体ワンモアされました。
どんだけ聖女いんだよ。
人気漫画のスピンオフじゃねえんだよ聖女は。
よくもまあ教会は聖女がこんなポコポコできるのを許したな。
「聖女多いな。聖女って一体何人いるんですか?」
「聖女は二人だけだ。聖女になるためには三回奇跡を起こさなきゃならねえからな」
聖女ってなんか予言的なアレとか、聖女しか使えない専用道具とかで判断すると思っていたが、そんな基準で判断してたのか。
割とガバい気がするからなんらかの工作をすればいけなくもない気がする。
俺がいきなり現れた聖女が受け入れられず邪視してるところもあるかもしれないが悪意を持った何者か──おそらく魔族が偽聖女を台頭させて人を分散させて、本物の聖女のガードを薄くしようしているように思えてならない。
というよりも教会にとって聖女の存在は大きいので二人の偽聖女を作ることで教会を割り、足の引っ張りあいをさせた挙句、内部に混乱を生む本物の聖女を教会の人間に始末させようという大それた狙いを持っていそうな気も感じないこともない。
教会の実態次第ではあるがもしそうなっている場合はゴミはゴミ箱へという感じで教会の内部の権力闘争を制してステラの聖女としての地位を確固たるものにする必要がある。
そうしないとメインヒロインがモブシスターになり、主人公と学園で会わずに無駄に死亡率の戦い前線に配置された果てに、ラスボス戦で主人公が聖女不在で魔王に特攻して倒せずに世界滅亡だ。
メインヒロインが離脱するとすぐ世界滅亡するなこの世界。
てえへんだなと思い世界の命運を握るステラを見ると不思議そうな顔をしてキョトンとしている。
あら可愛い。
とりまこれからは偽聖女──光の聖女の万物を見通す力が怪しいことを考えると省いて考えて、精霊ワープがあると仮定して動きつつ、偽聖女の化けの皮を剥ぐのがいいか。
「そういえばおめえも一回奇跡起こしてるからもしかしたら聖女、いや聖人になれるかもしれねえぞ。聖人、俺が今作った言葉だが中々いい線行ってんな、ダハハハハハ!」
目下の問題の対策を考えているとジミーが真面目腐った顔でそういうと照れ隠しなのか、おどけて大爆笑し始めた。
そんな大人物に認定されたらもう主人公パーティ加入が決まりそうだ。
ギャルゲで聖女でなんか感じが被ってる男キャラなんか絶対死ぬのでなりたくなさすぎるな。
変に笑ったせいかジミーが咽せて話が中断されたので前方を見ていると木々の先に偉く立派な鐘楼と鎧の行列が見えてきた。
あれが例の修道者の教育施設──聖騎士教会だろう。
いよいよ到着かと思うと門の前に白い祭服の上からでもわかるくらいに起伏に富んだボディをした女がいるのが見えた。
あれは教皇猊下ことモンロー教皇だ。
「ようこそ聖騎士教会に。あなた方が目覚ましい働きをしたのは既に知っています。勲章を授与したいと思うので馬車から降りて私についてきてください」
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