第4話 上がるメインヒロインの好感度
『一人も死んでいないか。まとめてやれれば手間が省けたのだがな。聖女を出せ。そうすれば他の人族は見逃してやろう』
湖からこちらに向けて巨大な魔族の鎧が近づいてくる。
見上げるような巨体にステラは呑まれた。
見るだけで押しつぶされような圧力を感じる巨躯が根源的な恐怖を引き起こしていた。
胸の内がどんどんと凍えていく。
考えずとも敵うとか次元のものではないとわかった。
虫ケラが潰されるような感覚で簡単に殺される。
「うぅ……」
「ヒ……」
その直感を裏付けるように先ほど魔族の鎧──アクアスマッシュの攻撃で馬車ごと吹き飛ばされ地に伏せる人の呻き声が聞こえ、ステラは短い悲鳴を口から溢すと足を震えさせ、地面に尻餅をつく。
もはや恐怖で足が使い物にならなかった。
この場で立ってるのは先ほど知り合ったばかりの黒髪黒目の少年──シドだけだった。
『早くしろ。怪我をして声もだせんようならそこの無傷の小僧、お前が言え。3、2──』
業を煮やした魔族がシドに催促し、殺戮が始まるまでのカウントダウンをし始める。
あまりにも非情な魔族の所業に怯えつつシドを見ると魔族を真っ直ぐに見据えていた。
怯えは微塵も感じられない。
ただ戦う相手と向き合うような気概を感じた。
ステラにとってそれはあり得ない光景だった。
普通確実に勝てない相手にここまで脅されて、恐怖に飲まれないはずがないのだ。
誰でも一目見ればどう足掻いてもあんなものに勝てないとわかる。
それなのに目の前のシドは恐怖を感じていない。
ステラには自分らとは全く異なる超人のように感じられた。
聖女と同等クラスの何かに。
「イカ畜生が人間様にデカい口を叩くんじゃねえ! 墨でも吐いとけ、バーカ!」
『貴様ぁ! 俺の
カウントダウンが切れるかと思うとついにシドは動き出した。
自分が口答えもできない状況だというのにシドはあまつさえ魔族を罵倒し、翻弄までし始める。
ステラが想像だにしないことが目の前で起こり始めていた。
世界がシドを中心にひっくり返っていた。
ステラの胸中に広がっていた恐怖さえひっくり返り、高揚に変わっていく。
押し寄せる殺人的な威力の水の奔流を避けるたびに心が跳ね。
大岩をぶつけ、巨躯の鎧を屈させると歓声を上げ。
地面に平伏れさせ打ち倒すと飛び跳ねていた。
それはステラが初めて感じた英雄に憧れる人の情動だった。
ステラにとってその姿は夢見るもの、ああなりたい、そうありたいと思う憧れとして強く心に刻み込まれた。
そのまま高揚のままにシドの元に向かう。
「聖女様、だ、大丈夫ですか!?」
「大丈夫じゃないな。それに俺は聖女じゃない」
近づいていく直前になって、緊張から我に帰って聖女以外に英雄譚がこの地方にないこともあり、聖女のような偉業を成した人をどう呼べばわからないことや結構ひどい落ち方をしたのを見たので気遣った方がいいのではないかということに行き当たり若干ギクシャクしながら尋ねると思ったよりも深刻な返事が返ってきてステラは絶望する。
シドの命が消えそうになっていると思うと暗闇の中で自分を照らす唯一の光が消えてしまいそうになるような焦燥が胸を焦がした。
「死んじゃ嫌です!」
『聖女ステラ。あなたの心の底からの祈りが届きました。あなたには人を救う力があります。救いたいという気持ちをその者に向けるのです』
「あ……」
心からそう思い、この国の国教とされるエリス教の女神──陽光神エリスにシドが助かるように祈ると頭の中にエリスの啓示が浮かび、その通りにするとシドが癒えた。
突然のことに何が起こっているのか理解できなかったが、シドが助かったことにステラは安堵した。
ステラの好感度が上がった。
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