第3話 湖からイカが!?


 メインヒロイン──ステラは最序盤から絶大な力を行使して主人公を助けるキャラで、たとえ他のキャラのルートを選んでいたとしても最低限の好感度を上げてないとバッドエンドになるくらいにはストーリーには欠かせない存在だ。

 基本的に強いので死ぬことはないが、もし死んだとしたら聖女の力が不可欠となる最終決戦時に詰むので世界滅亡に直行することになる。

 目の前のステラはまだ聖女だと教会から認められていないどころか、自覚もしていなかった。

 本編開始時十五歳で現在十歳ということもあるかもしれないが年相応の少女という感じで頼りなさの方が目立つ。

 将来的に世界の命運を左右する大人物になるのだが本人に対応できる力がない上然るべき機関──教会にも把握されないとなるとかなり危うい感じがするな。

 何かの拍子に死んでしまったらそこで世界終了になるし。

 あ、いかんな。

 考えたことでフラグが立った気がする。


「な、何だありゃ!? 湖からイカが!?」


 外から馭者のジミーの叫び声が聞こえ、馬車が止まった。

 はい、ダメです。

 外にいるのはイカということなので、クラーケンを素体とした魔族のモブ鎧のアクアスマッシュ。

 水源にいる限り水ビームが無限に打てるヤツだ。

 水源にいるときは厄介な一方で水がない陸ではクラーケンのボディが乾いてきて、動きが鈍くなりめちゃくちゃ弱体化することを考えると、湖から動かずにこのまま馬車ごと水ビームで撃ち抜いてことはまず確定だ。

 とりまステラを抱えて馬車から脱出するか。


「え!?」


 驚くステラを脇に抱えて馬車を飛び出るとちょうど水ビームが馬車に打たれたようで、馬車が真っ二つになって人ごと宙に舞う。

 危ねえ……。


『一人も死んでいないか。まとめてやれれば手間が省けたのだがな。聖女を出せ。そうすれば他の人族は見逃してやろう』


 難を逃れたと思うと頭部に搭載された各種構造物の重さで極端に猫背になっている鎧──アクアスマッシュがこちら側の陸地ギリギリのところまで歩いてくると脅しを掛けてきた。

 これは詰んでるな。

 鎧もない上、俺とステラ以外ほとんど負傷している。

 現状真正面から攻略する手段はないし、ステラを引き連れて逃げれば、今攻撃が来る前に馬車から出てきたことでただでさえ怪しいところにツーアウトということで確実にステラが聖女だと悟られて全力で殺しにくる。

 打開する手段が現状としてはないが、このまま皆殺しになるわけにもいかないので何とかするしかない。

 周りに何か利用できるものはないか。

 壊れた馬車に、倒れてぐったりする負傷者、水ビームで大きく抉れた地面、地面が抉れた際に巻き上がった土塊、湖に掛かる丘、丘の上に乗り上げた大岩。

 水ビームで打ち上がったのか、元々あったのかはわからないが丘にある大岩を見て一つ思いついた。

 丘の上から大岩を落としてアクアスマッシュのコクピットを潰す。

 丘の上から気取られずにコクピットを狙って大岩を落とさなかればいけないので条件が厳しいといえば厳しいが、アクアスマッシュの装甲が比較的柔らかいことと丘の上の大岩がちょうど彼方から見えないことを考えればまだできないことではないはずだ。


『早くしろ。怪我をして声もだせんようならそこの無傷の小僧、お前が言え。3、2──』


 迷ってる暇はないな。

 とりあえずステラがやられたらここを超えてもどちら道終わるので、俺にヘイトをとって、丘の方まで死なずに行くしかない。


「イカ畜生が人間様にデカい口を叩くんじゃねえ! 墨でも吐いとけ、バーカ!」


『貴様ぁ! 俺の誇りをコケにしたな! 万死に値するわ! 貴様を聖女認定する! 死ねい!』


 煽るとブチギレて水ビームを連発してくるので、人間蛇行運転──カスの走り方をして避けつつ丘の方に向かう。

 直線にしか水ビームは飛ばないので一先ずはこれで大丈夫だが、だんだんと蛇行する際のクセを見抜かれてやられる可能性があるので長くは使えない。

 クセが気取られないように祈りながら走ると何とか丘に辿りつけた。


『隠れたつもりか! 腰抜けめ!』


 丘に行くとあちらからは死角になっているため、当てずっぽうでメチャクチャに打ってくる。

 水ビームが貫通してくるので危ないたらありゃしない。

 だいたい重点的に丘の根本を撃ってきているので、ささっと上にある大岩の方に向かう。

 大岩に辿り着き、崖際に寄せて狙いをつけて当てに行こうかと思うとデカい衝撃が走り丘が崩れた。

 水ビームでところどころに穴を開けすぎたせいで崩落したようだ。


「マジか!」


 大岩共々崩落した瓦礫とともに落下していくが調整していないので、アクアスマッシュのコクピットからズレている。

 急いで中級無属性魔法の「身体強化」を掛けて、瓦礫を踏んで大岩を押して軌道修正する。


『ゴアアアアア!!』


 何とか背中のコクピットに着弾させるが、潰すまでは行っていない。

 これでは仕留めたかどうかがわからない。

 あともう一押しいる。


「いってえ……!!」


 身体強化されて防御も上がっているはずだが、それでも落下の際の痛みがかなり堪える。

 VRでやった時は痛覚も反映されてたはずでこれに近い痛みは何度も味わっているはずだが、やはり現実は全然違う。

 視界が微妙に歪んでいるが無理を押して中級土魔法「泥濘」を発動して、アクアスマッシュのコクピットにかかった大岩の衝撃が死なない内に転ばせて地面と大岩のサンドイッチにする。


『ギャアアア!!』


 断末魔が聞こえると思うと鎧に思いっきり大岩がめり込んでいるのが確認できた。

 何とか倒せた……。

 鎧と鎧なら余裕だと思ったら生身で鎧と戦わせられるとは思ってもなかったな。

 割と体がボロボロで控えめに行って死にそうだ。


「聖女様、だ、大丈夫ですか!?」


「大丈夫じゃないな。それに俺は聖女じゃない」


 地面に横たわっていると心配して近づいてきたステラが先ほどのイカ魔族の言葉のせいで俺を聖女と勘違いしているので訂正を入れておく。

 死にそうな状況で悪役令息からメインヒロインに特進。

 これは間違いなく死んだな。


「死んじゃ嫌です! あ……」


 死を確信し、ぐったりしているとステラの蒼い瞳が光り始めた。

 聖女の力を使ってる時になる演出だ。

 何事だと思うと体が痛みがなくなり体がすごく軽い。

 死にそうな人を助けたいと思って聖女の力が覚醒したとかそんな感じか。

 タイミング的に女神におめえが聖女なわけねえだろみたいな感じで、聖女の力を見せつけられた感もなくもないが。


 とりま回復手段ができたし、そこらへんに転がってる皆と馬車を回復させたらちょっと休んでから聖騎士教会に移動再開しよう。

 流石にもう一回生身で戦ったら死ぬ予感しかしないし、魔族がまた襲撃をかけてくるかもしれないので早く鎧のある場所に移動したい。

 


   ───


続きを書くモチベになるので、是非とも星⭐︎⭐︎⭐︎、フォローお願いします!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2024年12月2日 19:01

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる 竜頭蛇 @ryutouhebi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画