第32話 後始末

 リュカは捕まえてきた指揮官を良太朗の前にぽいっと放り出す。指揮官は腰を打ったのかぐぇっという奇妙な声を上げて地面に落ちる。


「ひ、ひぃ。命だけは助けてください」


「僕としては、大人しく帰ってくれれば十分なんだけど」


「ダメだよ。ちゃんと責任取ってもらわないとね♡ あんたたちの王様のところまで、案内してもらえるかな?」


「特に被害も無かったんだから、そこまでしなくても良いんじゃないの?」


「良太朗は甘いなあ。ちゃんとわからせておかないとダメなんだよ♡」


「まあわかったよ。元旦だしゆっくりおせちを楽しみたいんだけどなあ」


 良太朗はリュカの言う通り、指揮官の国の王様へと会いに行くことにする。良太朗だけが行けば良いはずだから、残りのことはほのかとりこに任せる事にした。ふたりともメノウの決めた三人の枠に含まれているし、メノウからの許しもあるから、ある程度自由に鳥居を使って行き来できるはずだ。


「じゃあ、おせちとか撮影の準備とかは、ほのかとりこがやっといてくれるかな?」


「わかりました!」


「ん! あの溝は兵士に埋めてもらう」


 良太朗の神剣で出来た巨大な溝を埋め戻すのは兵士たちの仕事に決まった。村人たちも森から出てきている。彼らも居れば村は大丈夫だろう。


「で、リュカはこの指揮官の、なんだっけシャラララーン国はどこにあるのか知ってるの?」


「しらないけど〜、案内してもらえばいいじゃない? とりあえず良太朗おにいちゃんは背中に乗って♡」


 リュカが頭を下げて乗りやすくしてくれたので、良太朗はすんなりと背中に登ることができた。ドラゴンの背中に乗るのは初めてだ。翼の付け根の部分、ちょうど人間の肩甲骨があるあたりにいい感じの窪みがあったからそこに座る。ペタペタとリュカの身体を触ってみると、鱗は思ったより艶があり、加えてしなりがあるせいか、絶妙なやわらさがあって手触りが良かった。


「なんかむずむずするから、すりすりしないで♡」


「ごめんごめん。ちゃんと座れたからいつでも行けるよ」


 リュカは指揮官をつまみ上げると、力強く羽ばたき空へと舞い上がった。あっという間に村が小さくなっていく。


「チャラチャラ国はどっち?」


「南の方角です。それにチャラチャラじゃなくてシャラカード王国です……」


 指揮官の指差す方向へすごいスピードで飛んでいくリュカ。新幹線なんかより全然早い。速度の割に良太朗はそよ風程度の抵抗しか感じない。身体に比べて翼が小さいし、物理的な法則ではなくて魔法とかマナとかを使って飛んでいるのだろう。


「すごい風景だね。撮影したらいい映像が撮れそうだ」


「気に入ってくれた?」


「うん。今度は是非ほのかとりこも乗せてあげてよ」


「うん♡ いいよ〜」

 

 はしゃいでいる良太朗とリュカに対して、指揮官はぐったりとしていて顔色も悪い。そのまま一五分ほど飛んだところで、城壁に囲まれた巨大な都市が見えてきた。その中心にはきらびやかな城が建っている。


「あれです。あれが王都です」


 リュカは一直線に王城へ向かうと、少し開けた場所におりたった。どうやら兵士が訓練する練兵場だったらしく、訓練器具などが置いてある。訓練中だっただろう兵士たちが、隅のほうで隠れている。


「じゃあ、すぐに王をよんできて♡ 遅いと城ごと吹っ飛ばすから♡」


 リュカが指揮官を開放すると、転がるように城の方へ走り出す。城からも人が出てきてこちらの様子をうかがっているけど、近寄ってきたり話しかけてきたりはしない。


「良太朗おにいちゃん。一発すごいの撃っとかない?」


「それ必要? 話がまとまればそれでいいんだけど」


「さいしょに一発どか〜んとやっといたほうが話がはやいとおもうよ?」


「怖がって王様隠れちゃうかもだよ?」


「う〜ん、じゃあもったいぶってごちゃごちゃ言い出したらどか〜んで♡」


「それならまあ……」


 良太朗がリュカと物騒な話していると、城から司令官を戦闘にぞろぞろと人が出てきた。王冠をかぶった太った男も居る。あれが王様だろう。


「国王陛下をお連れしました」


 そう言うと指揮官は土下座する勢いで地面に膝をついて頭を下げる。周りについてきた者たちもみんな同じように膝をつく。ただ一人国王だけはそのまま胸を張って立っている。やっぱり国主みたいな人は、謝ったら負けみたいなところがあるんだろうな……。


「あたしが認めた良太朗の村に手を出すってどういうつもり? 国ごと吹き飛ばされたいのかな?」


「リョータローというのは、リュカニア殿の背に乗っている人間かな? 神竜相手ならともかく、人間相手に下げる頭は持ち合わせておらん。聞けば村に被害はなかったと言うではないか。不幸な出会いだったことは事は確かだが、お互い被害が無くてよかったではないか。ここは一度仕切り直してこれからの事を話し合うべきではないか?」


「ほら〜。こういう相手には最初にいっぱつかまさないとダメなんだって♡」


「僕の好みじゃないんだけどなあ……。でも早く帰っておせち食べたいし、仕方ないか」


 良太朗は、魔法の火球を一気に一ダース発生させて上空に打ち上げる。火球は上空で爆発して、まるで太陽が増えたかのような光を放つ。しばらく置いて、轟音と衝撃派がやってくる。良太朗はさっさと終わらせるために、あえて低い声を作って凄んで見せる。


「で、一方的な侵略をしておいて、それを不幸な出会いっていうような国は、地図から消えたほうが世のためでしょうか?」


「いや、それに関しては我が国に多少の非があるようだ。それ相応の保証はしようじゃないか! だから穏便に話し合いを」


「う〜ん。全部くれたらゆるしてあげる♡」


「リュカニアどの全部というのは?」


「宝物庫にあるもの全部♡」


「流石にそれは……」


「じゃ〜、城ごと宝物庫が消え去るほうがいい?」


 リュカはそう言うと、ブレスをく準備のために大きく息を吸い込み始める。大量のマナがリュカに集まっていくのを感じる。国王は慌てた様子で声を上げる。


「ちょっとまってくれ! 今、宰相と相談するから!」


 国王は側に居た貫禄のある老人と話し始める。数度のやり取りで話はまとまったようだ。


「わかった。宝物庫にあるものは全て今回の被害を補填するということで差し出そうで社ないか。それで許してもらえるだろうか」


「それでいいよ〜♡ あ、この良太朗おにいちゃんは、あたしの恩寵を持ってるけど、ほかにも二人加護あげてるから、手出ししたら本当に国が滅んじゃうよ♡」


「それと、他の国にもリュカの領域には、手を出さないように伝えてもらえないかな?」


「わかった。各国に使いをやっておこう。それで終わりでよいか?」


 賠償金代わりの宝物庫の宝は、後日村に届けられる事になった。やっと用事が片付いて良太朗とリュカは村に向かって飛ぶ。


「賠償金なんて別に要らなかったのに」


「もらっとけばいいじゃない。寝床に置いとくと起きた時に疲れが取れていい感じ♡」


 もしかしたら電波とマナは干渉しあうし、金は電気を通しやすかったりするし、リュカにとって財宝は、コリ解消グッズみたいな扱いなんだろうか。


 なにはともあれ、厄介事は片付いたし昼前には村に帰りつけるだろう。色々あったせいで忙しかったけど、これで安心しておせちが食べられる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る