第33話 おせち
良太朗とリュカが帰ってくると、兵士たちは溝を埋め終えて村を立ち去っていた。村人たちも普段の生活に戻っている様子だし、りことほのかも家に帰っているようで姿が見えない。
良太朗とリュカも家へと帰る事にした。村人たちにお雑煮を振る舞うのは明日でいいだろう。家に戻ると、ほのかとりこは居間で掘りごたつに入ってみかんを食べていた。
「ただいま」
「良太朗さん、おかえりなさい」
「ん。おかえり。国どんなだった?」
「うーん、なんかヨーロッパの街って見た目だったけど、それよりは洗練されてない感じだったよ。説明が難しいけど、
「そうなんですね。動画はないんですか?」
「リュカが飛んでるときは動画撮れないし、降りた後は割とすぐに交渉だったからね」
「んぅ。見たかった」
「機会があればね。とりあえずお雑煮作っておせち料理を食べようか」
良太朗はお吸い物の汁を作って、ガスコンロのグリルで焼いた餅を入れる。別に作っておいた具材を、ほのかとりこに乗せて貰えばお雑煮は完成。おせち料理の入った重箱を持って居間にいけば、後は食べるだけ。おせちって保存食ばかりだし、昔の人も正月くらいは手抜きをしたかったんだろうな。
「お雑煮どう?」
「美味しいです。おばあちゃんの家のお雑煮は鶏肉なんですけど、この肉のお雑煮も気に入りました」
「超美味」
「うまうま♡」
「そのお肉、ソバーカの狩人が獲ってきた、イノシシのお肉だよ」
お雑煮を食べながら、おせち料理もつつく。鰤の照り焼きも、海老の旨煮も美味しい。なかでもやっぱり飛び抜けて美味しいのは、異世界どんぐりきんとんだ。
「このどんぐりきんとんほんと美味しいね。さつまいもを九里よりうまい十三里っていうけど、このどんぐりは九里の二倍で十八里! なんちゃって」
「…………。良太朗。オヤジ化」
「良太朗さん。いくらなんでもそれは……。これが配信だったら、同接ガッツリ減っちゃってますよ……」
「そこまで……」
「ん」
「はい、かなりやばかったです」
「気をつけるよ……。あ、餅追加焼く?」
良太朗は気まずさを誤魔化すために、お雑煮に入れる餅の追加を聞いてみる。りことほのかは一個ずつ、リュカは気に入ったのか三つもおかわりをするらしい。石油ストーブの上にアルミホイルを敷いて餅を乗せていく。餅が焼けるのを待ちながら、おせち料理をつついていて良太朗はあることに気づいた。
「美味しいけど、味にまとまりがないね」
「ひとつひとつは美味しいんですけどね。セットになると統一感が無いと言うか……」
「ん。ちょっと残念」
「み〜とぼ〜るとかのほうが良かった」
煮付け一つにしても、辛めだったり甘めだったりとバラバラなのだ。リュカはおせち料理はお気に召さなかったようだ。味の好みが子供だから仕方ない。
「来年リベンジ」
そう言いながらほのかは力こぶを作るようなポーズを取って見せる。
「来年は私も作るの手伝いますよ! 一年あれば料理だって出来るようになりますから!」
「え? ふたりとも来年の正月もうちで過ごすつもりなの?」
「ん。当然」
「そりゃそうですよ。おせち作りコラボもやらないとですし」
おせちを食べ終わってのんびりしていると、玄関の呼び鈴が鳴った。出てみると、懐かしい顔が大きな段ボール箱を持って立っていた。
「お届け物でーす。よっ、良太朗ひさしぶり」
「おー、久しぶり。宅配の仕事してるのか」
「農家だけじゃ食べていくのも辛いからな。はいこれ荷物な。置き配指定だったんだけど、久しぶりに顔をみたくてさ。それにお前もついに嫁を貰ったって聞いたから様子を見にな?」
「いや、嫁は貰ってないぞ」
「じゃあ良く一緒に居る若い女の子っていうのはなんなんだ?」
「いや、まあ複雑な事情があってな……。というか、これ通販の荷物だろ? 頼んだ覚えが無いんだけど誤配じゃないのか?」
手渡された荷物には、外資系の大手通販サイトのロゴがデカデカと印刷されている。確かに良太朗もアカウントは持っているけど、ここ数ヶ月は買い物した覚えがない。
「でも、お前の住所で合ってるよ。ほれ」
同級生が指さした伝票には、確かに良太朗の住所と名前が書かれている。どういうことかと考えていると、居間からりこが出てきた。
「あ、それ私の荷物です。すみません。どうしても今欲しくて、配送先ここにしちゃいました」
「それはいいんだけど……」
「お前この子が噂の嫁さんだな? 隠すことはないだろう」
「いや、りこは違う」
「ん、噂は私」
「はい、私はまだそういう関係にはなってないので……」
「は? 二人目? あまり似てるようには見えないけど姉妹なのか?」
「いや。ほのかも嫁じゃないから」
「じゃあ、どういう関係なの? これは聞くまで帰れないなあ」
同級生がニヤニヤと笑いを浮かべながら、野次馬根性を全開にした様子で良太朗に詰め寄ってくる。
「あたしもいるし♡」
「ややこしくなるから、出てこないで貰えないかな?」
「お前、さすがにこれは犯罪だろ……」
「だから、りことも、ほのかとも、リュカとも、そういう関係じゃないって!」
「じゃあどんな関係なんだよ。ちゃんと説明してみ?」
良太朗は同級生に色々と説明する。ほのかははともかく、りこがVtuberなのは明かせないから、都会に住んでいた頃にお世話になった家の娘さんということにした。リュカに至っては説明している途中で良太朗自身、無理があるなという説明になってしまった。
「ふうん、じゃあ、一六歳の女の子が下宿してて、正月に親戚でもない二十歳の女の子が泊まりにきてて、良くわからない外国人の少女まで入り浸ってると。なあ良太朗、逆の立場で考えてみようや。俺がそんな事言ってたらさ、なるほどーって納得できる?」
「それは……」
「はははっ、お前がそう言うなら本当にそうなんだろうな。何年友達やってると思ってんだよ。お前が嘘は絶対につかないことは良く知ってる」
そういって同級生は良太朗の方を叩き、耳元に顔を寄せて小声で話しかけてくる。
「で、どっちが本命だ?」
「いや、どっちも狙ってないよ……」
「お前なあ……。どっちもまんざらではなさそうだぞ?」
同級生はまた距離を話して、良太朗の肩をバンバンと叩く。
「とにかく久しぶりに顔を見られてよかったよ。嫁が出来たって噂は俺がちゃんと訂正しておいてやるから安心しろ」
「ああ、助かるよ」
「じゃあ、今度ゆっくり飲もうや。うちの嫁さんも紹介したいしな」
同級生はそう言って帰っていった。明日ついに温泉でりこのチャンネルとのコラボ動画を撮影することになる。動画撮影をはじめたときからの目標が達成できるのは楽しみだ。
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