第31話 異世界ヶ原
兵士達の中でもひときわ派手な鎧を着た指揮官らしい男が、良太朗たちの前へとやってくる。懐からなにやら書類のようなものを取り出し、良太朗たちに見せつけながら大声でわめく。
「神竜リュカニアが立ち去った。今この土地は当然、我がシャカラード王国のものである。貴様らは現在我が国の領土を不法に占拠している状態にある。よって村の施設を全て明け渡すように。明日の朝まで時間を与える。明朝までに村人の移動が行われない場合、敵対行動とみなして実力で排除する」
指揮官の偉そうな態度が気に入らないのだろう。りこは今にも何かを言い出しそうな表情を見せている。良太朗は二人を手で制して、できるだけ丁寧に話す。反抗心にまかせて言葉を荒げてみたところで、話がややこしくなることはあっても、解決に近づくことは無いからね。
「えっと、お言葉ですが、リュカニア立ち去ってませんよ?」
「はっ、見え透いた嘘をつくでない。この草原についた時に魔道士に命じて調べさせたが、リュカニアの魔力は感知できなかった。と報告を受けておる」
「明日の朝、リュカニアが居れば問題ないんですか?」
「まあ無理だろうが。もし、神竜リュカニアが存在したなら、我々も引き下がろうではないか」
「分かりました」
「いいな? 明朝までだぞ」
指揮官は兵士たちの方へ向かって帰っていった。兵士たちはすでに陣地づくりをはじめていて、テントを張ったり、焚き火の準備をはじめたりしている。さらには、夜になったら火をつけるつもりなのか、
「面倒な連中だけど、リュカが姿を見せるだけで良いなら話は簡単だね」
「ん。一撃で解決」
「ですねえ。急に兵士が出てきてびっくりしましたけど、ちょっと拍子抜けって感じですね」
「とりあえず、リュカに説明しないとだし帰ろうか」
「お餅、私も運ぶの手伝いますよ」
「ん! 手伝う」
作ったお餅を持って、家へと帰った良太朗はリュカに兵士たちの事を話す。
「そういうわけだから、あっちで姿を見せてもらえるかな?」
「ん〜。ヤダ♡」
「え? どうして? リュカが出てくれないと困るんだけど……」
「ん。リュカ反抗期」
「リュカちゃん、美味しい焼きプリンがまだ残ってるよ? 姿見せるだけなんだからお願いできないかな?」
「ぷりんはもらうけど〜。姿見せるのはヤダ♡」
「どうしてだ?」
「だって、あたしが居なくても解決出来るようになってほしいし? 村の代表はおにぃちゃんだし?」
「うーん。それはまあそうか……。でも、荒事は避けたいなあ」
確かに何かあるたびにリュカに出てもらうのはよろしく無い。それに、リュカが居なくても追い返せるくらいの力が有ることを見せつけたほうが、長い目でみれば村のためになるだろう。
「それにしても急な話だな……。自主的に帰ってもらうのが一番だけど」
「何かうまく追い返す方法はないんでしょうか?」
「魔道士? が多かった」
「確かにローブっぽいの着てる人が殆どだったね。あれ、魔道士部隊なのかな?」
「アニメとかに出てくる魔道士っぽく見えたので、多分そうだと思いますよ?」
「魔道士が主力で、兵士は護衛ってことか……。ほのか、あれ覚えてる?」
「ん? どれ?」
「ほら、魔法や加護の動画撮影するために色々やってた時に──」
「ん! 覚えてる!」
「あれ使えそうじゃない?」
「ん。使えそう」
「なんの話か分かりません。私にもわかるように説明してください」
置いてけぼりになっていたりこに説明する。そうして良太朗ははるかとりこの三人で作戦を立てていく。リュカとメノウも意見を言ってくれるけど、すごい力で殴ればいい。みたいな作戦ばかりで話にならない。そうなるのも仕方ないよ。神様みたいな圧倒的強者には戦略とか必要ないもんね……。
「──ということでいいかな?」
「ん。完璧」
「んと、相手が諦めたところで、どかーんとすごい魔法を見せて、ザコさを思い知らせておいてね♡」
「空に向けて撃てばいいかな?」
「うんうん。みんなで一発ずつ派手の撃って♡ それが終わったら、あたしがバーンと現れてダメおしするから♡」
「派手な魔法……。氷?」
「私は魔法は使えないんで、応援してますね」
「あ、そうだ。りこおねえちゃんにも加護あげとくね♡」
「リュカちゃんありがとう」
「まったく、貴様というやつは……。そうポンポン簡単に与えていいものじゃないそ」
リュカがりこに加護をあげているのをみて、
「え〜? 最近まとめてあげただけで、その前は千年くらい前だよ? 多すぎるのかな? メノウはどのくらあげてるの?」
「……言い過ぎだったようじゃ」
「なんか怪しい♡ どのくらいかちゃんと言って♡」
「五〇年に一人くらいじゃ……」
「ぽんぽんあげちゃいけなんだぞ♡」
「くっ……」
「話もまとまったし、僕は年越しそばの準備をしてくるよ」
急に現れた兵士たちのせいで、おそくなってしまったが年越しそばを作る。具材を用意する時間がなかったので、玉子を割り入れてかまぼこを添え、仕上げに天かすとネギをトッピングした月見そばだ。
「お客さんだからりこからね。今年はいろいろとお世話になりました。来年もよろしくね」
「こちらこそ! 良太朗さんのおかげで動画の事に自信が持てましたし、お世話になりました。来年はいっぱいコラボとかやりましょうね」
「距離があるからね。そんなに出来ないと思うけど、機会があればコラボよろしく」
次に良太朗はおなじようにほのかの前に置く。
「ほのか、今年はいろいろとお世話になりました。来年もよろしくね」
「ん。お世話になりました。おかげで一歩進めた。来年もよろしく良太朗」
「突然やってきた時はびっくりしたけどね。撮影とか編集とか手伝ってもらってほんと助かってるよ」
「リュカもありがとう。場所も自由に使わせて貰ってるし、便利な剣ももらったし」
「良太朗おにいちゃんもありがと、毎日、美味しいご飯うれしい♡」
「メノウは年越しそばは食べられないから、ちゅ〜◯の五種類食べ比べを用意したよ」
「分かっておるのう。良太朗の来年の運勢は最高になるじゃろう」
「そう言われると、なんか袖の下を送ってるみたいで、微妙な気分になるな……」
面倒な事は忘れてみんなで年越しそばを楽しむ。簡単なメニューだけど、だしの効いたつゆの旨味と、つるつるとした蕎麦ののどごしが、疲れた身体にしみて美味しい。
*
翌朝、いつもより一時間早く起きて準備を確認する。ショルダーバッグには今回の秘策が入っている。準備を終えた良太朗が裏口の扉へやってくると、ほのかとりこが待っていた。
「じゃあ、やっつけにいくんだけど。その前に、あけましておめでとう」
「明けましておめでとうございます。良太朗さん」
「良太朗、あけましておめでとう」
「よし、挨拶も終わったし気合いれてこう」
異世界についた良太朗は、物置に寄って神剣を手に取る。ベルトに神剣をたばさむと、ほのかたちと合流した。
「みんなちゃんと避難したみたいだね」
「ん!」
予定通り村人たちは、奥側の森の中へと避難している。逃げる必要もないとは思うが念の為に逃げてもらった。
良太朗たちが、兵士たちが作った陣地の方へと近づくと、偉そうな指揮官が前にでて、大声で話しかけてきた。お互いの距離は一〇〇メートルくらいだろうか。
「村人が見えないみたいだが、村を明け渡す準備はできたか?」
「リュカに任されてるんだ。明け渡すわけがないだろう」
「ならば後悔するんだな。魔道士隊、一斉攻撃開始!」
魔道士たちが杖を掲げて、呪文を詠唱し始める。良太朗も最近は魔法の扱いに慣れてきたから、マナが操作されて魔法が形成されていくのを感じる。このタイミングをのがすわけにはいかない。良太朗は左手に括り付けた小型のCWパドルを操作する。
「・・・― ・・・― ・・・― ・――― ・――・ ・・・―― …………」
鞄に入れた無線機からCW(モールス通信)の電波が発射される。電磁波とマナはお互いに干渉しあう。マナを操作して魔法を使おうとしている時に、強力な電波でマナをかき乱されるとどうなるか。答えは眼の前に広がる光景だ。魔道士たちは頭を抱えてうずくまる者、あまりの衝撃にぼんやりとほうけている者、なかには気を失って倒れる者までいる。
「うへえ……。ひどい光景だ」
「魔法に電波で対抗できるってこういうことだったんですね」
「ん、一撃必殺」
「死んだりしないけどね。おっと、こうしてる場合じゃない。兵士が動き出した」
良太朗は神剣を鞘から抜き放ち、衝撃波を飛ばす気持ちで剣を横一文字に振る。イメージ通り衝撃波が神剣から放たれ、良太朗たちと兵士たちとの間に幅一メートルほどもある溝が刻まれる。
良太朗はぐっとお腹に力をいれてできるだけ大きな声で叫ぶ。
「それ以上前に進むなら、今度は身体に当てるよ」
兵士たちは力なく武器を地面に落として両手を上げる。兵士たちの後ろではあの偉そうな指揮官が死んでも戦えとか大声でわめき散らかしている。
「まだやる気なの? じゃあこれでも食らってみる?」
良太朗は魔法を放つ。兵士たちは呪文を唱えていたが、良太朗には呪文の詠唱の必要はない。差し出した手から放たれた白い火球は、兵士たちのはるか上空で弾ける。かなり離れた良太朗でも焚き火に近づいたような熱を感じる。距離の近い兵士たちはかなりの熱さだろう。
「ん!」
「私もやってみます」
ほのかの指先から稲妻が森に向かって飛び、落雷の時のような大きな音が響く。りこが使ったのは雨の魔法で兵士たちのいる場所だけが、土砂降りの雨に襲われている。
「ひぃぃぃぃぃぃ。核熱魔法に雷撃魔法、それに天候操作まで! こんなの勝てるわけがない」
情けない事をわめきながら、指揮官は兵士たちを置いて一人逃げだす。リュカが人化をといてドラゴン姿になって飛び上がると、指揮官を前足で捕まえる。
「逃げられるわけないじゃん♡ ざぁこ」
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